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NONA REEVESの確かなセンスと技術が詰まった“ポップン・ソウル”な絶品アルバム『DESTINY』

9月18日、NONA REEVESがビルボードライヴ東京からオンラインフェス『NONA REEVES ONLINE いいやま ノーナ・フェス 2020』を開催した。本来はメンバーの小松シゲルの故郷でもある長野県飯山市で行なわれる予定だったイベントの延期を受けてのものであったが、堀込泰行、堂島孝平も参加した彼らならではのポップな配信イベントは、視聴者に大好評だったようだ。今週はそんなNONA REEVESから代表作をピックアップ。彼らの奇跡的な軌跡も交えて、その作品性とバンドとしての優秀さを語ってみたい。

■記録は度外視の存在感

音楽シーンにおいて…少なくともメジャーと言われるカテゴリにおいて、“商業”は決して切り離せないものだ。ロック寄りのスタンスの人であったり、極めてアーティスティックな姿勢の人で、“俺たちにビジネスは関係ない”といった主旨の発言をする人も昔はよくいたが、メジャーで音源を発表している以上、その人たちが関係ないと言ったところで、音源の制作費や宣伝費はメジャーな資本から捻出されているのだから、そこに“商業”は必ず付いて回る。セールスは重要な尺度である。つまり、そこで音源が売れなければメジャーシーンに居られないし、売れ続ければメジャーシーンに居ることができるというのが道理なのだ。しつこく話を補正すると、ある時期、売れていたとしてもそれが下降していき、ある一定の線(※それはそれぞれに線引きがあるだろうが…)を下回れば、少なくともそこでは新しい音源を出す契約を交わすのは難しいだろう。冒頭から夢も希望もないような泥臭い話で申し訳ない。これから徐々に前向きな話にシフトしていく予定なので、もう少しお付き合いをお願いしたい。

そんなメジャー音楽シーンの道理を分かっていただいた上で、話を本題であるNONA REEVESへ移したいと思うが、まずここで事前にお断りを入れておきたい。以下には、NONA REEVESのメンバーならびに関係者にとって、さらにはファンにとっても、不快に感じられるような記述があるかもしれない。もし気に障るようであれば…と思って、先に謝っておくが、筆者には彼らを貶めようという意図はまったくないことを併せて記しておく。序盤はディスってるように読めるかもしれないが、最後はしっかりアゲるので、どうか安心していただきたい。それでは続き──。

この機会にNONA REEVESのこれまでの音源セールスを調べてみた。シングルも通算14作品発表されているのだが(※配信限定を除く)、当コラムはアルバム紹介でもあるし、便宜上、アルバムだけとした。メジャーで発表したアルバムのタイトルと発売年、そしてチャートリアクションを以下に列挙する。

1st『ANIMATION』(1999年):圏外。2nd『FRIDAY NIGHT』(1999年):圏外。3rd『DESTINY』(2000年):64位。4th『NONA REEVES』(2002年):圏外。5th『SWEET REACTION』(2003年):128位。6th『THE SPHYNX』(2004年):163位。 7th『3×3』(2006年):180位。8th『DAYDREAM PARK』(2007年):117位。9th『GO』(2009年):143位。10th『POP STATION』(2013年):80位。11th『FOREVER FOREVER(2014年):71位。12th『BLACKBERRY JAM』(2016年):65位。13th『MISSION』(2017年):42位。14th『未来』(2019年):44位。

トップ10、トップ20はおろか、50位以内も2作品のみ(しかも、それが最新作とその前作)。チャートリアクションは相対的な数字であるので、絶対的な数字=売上枚数はどうなのかも気になって調べてみたところ、枚数は分からなかったけれど、NONA REEVESのアルバム売上ランキングは見つけた。以下がそれである。

1位:『DESTINY』、2位:『POP’N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES』、3位:『MISSION』、4位:『POP STATION』、5位:『SWEET REACTION』、6位:『BLACKBERRY JAM』、7位:『未来』、8位:『DAYDREAM PARK』、9位:『FOREVER FOREVER』、10位:『THE SPHYNX』。(2位:『POP’N SOUL 20~』は2017年に発表されたベスト盤で、チャートは最高46位であった)。

20年というスパンで見てみると、この間、CD市場が小さくなっていることも間違いないし、チャートリアクションと売上は必ずしも比例しないものだなと思ったりもするが──それはそれとして、ここまで来ると“見事に”と付け加えてよかろう。NONA REEVESは見事に売れていない。実際に何万枚売れたのかは調べが付かなかったけれども、バンド史上最高の売上である3rd『DESTINY』(2000年)にしてチャート最高位が64位だから、推して知るべしといったところだろう。4thから9th辺りの順位を見てみると、“メジャーのレコード会社が契約し続けたものだ”と今さらながらに若干ヒヤヒヤするほどだ(※ちなみに4thと5thは日本コロムビア、6th~9thは徳間ジャパンコミュニケーションズでの発売)。(※上記チャートリアクションはWikipediaから、アルバム売上ランキングはORICON NEWSから引用させていただいた)

冒頭で述べた商業の道理から言えば、よくぞここまでアルバムを発表し続けられたものだと思う。もちろん、そこには我々にあずかり知らない契約上の何かがあったのかもしれないけれど、それにしても…である。5年とインターバルを空けることなく、NONA REEVESがメジャーで作品をリリースしてきたことは、その記録だけを見たらちょっと奇跡的に思えるほどではなかろうか。

■極めて優秀な作曲センス

それでは、チャートリアクションにおいても、そこから推測できる売上においても決して成功したとは言いづらい状況下で、どうしてNONA REEVESはメジャーに居続けることができたのか? その答えは簡単である。彼らの創作能力が極めて優秀だからである。勝手に断言するが、それ以外の理由は見当たらないように思う。確かに実数や順位は思うように上がらなかったかもしれないが、これだけの楽曲を創造できる才能をメジャーのレコード会社が放っておくはずはない。当時の彼らの音源を聴くとつくづくそう思うのである。その“これだけの楽曲”とはどれだけの楽曲かを、以下、NONA REEVES最大のセールス作である『DESTINY』から探っていこう。

まず、何と言っても強調しておかなければならないのは、そのメロディーの立ち方の半端なさである。歌の主旋律がどこを切ってもキャッチーなところは特筆すべきだと思う。M1「LOVE TOGETHER」からしてそれが全開である。いわゆるサビ頭だから、《LOVE TOGETHER/LOVE TOGETHER/We’re living on the floor/君を待ちくたびれているのさ Baby》の箇所はキャッチーで当たり前だろう──と言うと変だが、ここに力点を置くのは分かる。そこから続くメロウなAメロ、とても流麗なBメロと、サビ以外も印象的というか、実にしっかりとしているのである。特にBメロはそこら辺のバンドならこれをサビメロにしてもおかしくないほどにその旋律はふくよかである。サビへのつなげ方もいい。高音へと昇って行きながら、キレのあるコーラスを挟みつつ、ハイトーンに突き抜ける。耳が生理的な気持ち良さを感じるようなメロディー展開と言える。

さわやかさ全開のM2「二十歳の夏」も同様。歌メロを追っていくと、いい意味で“これはどこまで昇っていくのだろう?”と思ってしまうほどの奥行きがあって、これもまた気持ちが良い。気持ちが良いと言えば、M4「Amazon」やM9「パーティは何処に?」だ。「Amazon」は前半のボサノヴァタッチから一転、疾走感あふれるバンドサウンドが展開し、「パーティは何処に?」はラップ調のAメロからサビメロのリフレインに連なっていく。ともにサビが最も印象的に聴こえる聴かせ方を意識していると言ったらいいだろうか。高揚感を感じるポイントを抑えたソングライティングとアレンジが心憎い。

こうしたメロディーセンスを持ってすれば、ミッド~スローナンバーもお手のものと言ったところなのだろう。M3「Destiny」、M5「Serious Love」、M8「AUGUST」、M10「HEAVEN」のいずれも、やわらかく落ち着いた中にしっかりとした旋律を聴くことができるナンバーだ。個人的にはM8「AUGUST」の堂々としたメロディーライン貫禄すら感じるほどで、メインコンポーザーである西寺郷太(Vo)がこれを作ったのは20代半ばくらいだったことを考えると、早くからメロディーメイカーとして老獪さを備えていたのだなと感心するやら、妙に納得するやら、である。M7「地球儀と野鼠(Pts. 1&2)」は本作で唯一、小松シゲル(Dr)が作曲したナンバー。メインヴォーカルも小松が務めているが、ポップはポップではあるものの、郷太が手掛けたナンバーとは一味違うメロディーセンスで、デジタル中心のサウンドも相俟って、アルバム内でのアクセントとしても十二分に機能しているように思う。『DESTINY』に欠かせない要素であり、ここにこれを置く辺りにも、NONA REEVESの手練れた部分を垣間見るようでもある。

■ギタリスト&ドラマーの確かな技術

斯様に歌メロはどれもこれも素晴らしいのだが、メロディーの良さが歌に限らないのが『DESTINY』、ひいてはNONA REEVESの優れたところではないかと思う。ギターやベース、鍵盤、弦楽器、コーラスと、楽曲を構成する各セクションもメロディアスなものばかりなのだ。M1「LOVE TOGETHER」やM2「二十歳の夏」などのキラキラとしたストリングス。M3「Destiny」の中盤から聴こえてくるアーバンな雰囲気のブラスセクション。M4「Amazon」で盟友・カジヒデキが弾いているベースライン。M5「Serious Love」でのシンプルだが綺麗に響くピアノ。そして、M6「DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜」を始め、各曲でソウルフルさを助長する女性コーラスなどなど、美味しいところ満載なのである。

その中でも最注目なのはギターではなかろうか。以下でザッと解説するが、奥田健介(Gu)の縦横無尽なギタープレイは、これもまた特筆すべきものである。M1「LOVE TOGETHER」、M2「二十歳の夏」では楽曲のさわやかさを確実に助長するカッティングを刻み、M9「パーティは何処に?」では“達郎か!?”と思わせるイントロを聴かせたかと思えば、M4「Amazon」ではソリッドにかき鳴らし、M8「AUGUST」では雄大かつワイルドに響かせる。M6「DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜」では軽快なリフで楽曲全体を彩り、M10「HEAVEN」は王道のギターソロの中に少しトリッキーな動きも見せる。NONA REEVES以外にも様々なアーティストとのサポートを行なっている奥田は、間違いなく国内屈指のギタリストである。そんな彼の若き日のギタープレイを追いかけるだけでも『DESTINY』は相当に楽しめるとは思う。

総体的に『DESTINY』は、NONA REEVESの代名詞とも言える“ポップン・ソウル”なアルバムということができるだろう。“ポップン・ソウル”──親しみやすいブラックテイストの音楽、あるいは魂のこもったポップミュージックといった感じであろうか。いずれにしても、芸術性がなくはないし、M6「DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜」で当時としては一早くオールドスクールのラップをフィーチャーするなど革新的なこともやっているのだが、小難しさはなく、楽しく聴けるアルバムというのがとてもいいところだと思う。概ねディスコティックでダンサブルなビートに支えられているというのがその主たる要因であろう。この辺は、これまたドラマーとして数多くのアーティストをサポートしている小松の確かなテクニックがあってこそ…といいう部分は大きいと言える。『DESTINY』が2013年に再発された際にライナーノーツによると、小松はこのアルバムを指して“普通はこれで解散してもおかしくないですよね。行き着くところまで行き着いてる”と笑ったというから、そのプレイが相当に充実しまくっていたのは間違いない。

また、ソウル=魂のこもったというところで言うと──メンバーを始め、本作に参加したミュージシャンが全て情熱を持って臨んだことは前提として、いくつかの楽曲での郷太のヴォーカルにそれを感じることができる。具体的に言えば、M2「二十歳の夏」、M3「Destiny」、M7「地球儀と野鼠(Pts.1&2)」、M8「AUGUST」、M10「HEAVEN」辺りがそれで、若さ漲るというか、随所に思わず溢れ出てきたような“熱”が感じられる。ソングライターとしてメロディーセンスはピカイチで、多彩なサウンドを操るバンドなので、傍目にはクールな印象もあるNONA REEVESではあるが、こうした郷太の情熱的なヴォーカリゼーションがあることで、何と言うか、洒落臭く感じさせない秘訣のようなものがある気がする。『DESTINY』が魅力的なのは、こうした生っぽさというか、泥臭さを隠さないところにもあると思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『DESTINY』

2000年発表作品

<収録曲>

1.LOVE TOGETHER

2.二十歳の夏

3.Destiny

4.Amazon

5.Serious Love

6.DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜

7.地球儀と野鼠(Pts.1&2) (作曲:小松 茂)

8.AUGUST

9.パーティは何処に?

10.HEAVEN

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