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短命ながらもハードロックファンを唸らせたテンペストのデビュー作『テンペスト』

ブリティッシュロック界において、ドラマーとしてジンジャー・ベイカーと並び称されるジョン・ハイズマン。グレアム・ボンド・オーガニゼーションやジョン・メイオールのブルース・ブレイカーズなど、60年代中盤からの彼の活躍は、ジャズ、ロック、R&B、ブルースなどのジャンルを軽々と超えた目覚ましいもので、後世の多くのアーティストたちに影響を与えている。68年に結成したジャズロックグループのコロシアム時代には、圧倒的なライヴなパフォーマンスで多くのファンを獲得した。テンペストはコロシアムの解散後に結成したハードロックグループで、今回取り上げるデビュー作では若手のジャズロックギタリストとして頭角を現し始めていたアラン・ホールズワースをメインに据え、その超絶テクニックが多くの人を驚かせることとなった。

■ジョン・ハイズマンの目のつけどころ

イギリスでは60年代後半〜70年代初頭にかけて、コロシアム、ソフトマシーン、ニュークリアス、ブライアン・オーガーといったジャズロックのアーティストに人気が集まっていた。ニュークリアスのリーダーで、60年代初頭からジャズ奏者として活動していたイアン・カーのソロアルバム『ベラドナ』(‘72)は、カーの依頼でコロシアムを解散したばかりのジョン・ハイズマンがプロデューサーとして参加することになるのだが、この作品に参加していたのが若手ギタリストのアラン・ホールズワースであった。ここでのホールズワースはジャズ的なプレイが中心であるものの「Remadione」ではロック的なフレーズも弾いており、クリームのようなスタイルのグループを作りたかったハイズマンはホールズワースに新グループへの加入を要請する。

ホールズワースはそれまでにロック的なプレイを正規録音としては残しておらず、ロックギタリストとしては未知数であったが、ハイズマンの目に狂いはなかったようだ。

■アラン・ホールズワース

ホールズワースはジャズピアニストの父親から音楽理論を学んでいたが、ギターを始めたのは17歳とかなり遅かった。しかし、努力を積み重ねて20歳になる頃にはいくつかのバンドでプレイするようになる。プロとしてのデビューはジャズロックグループのイギンボトムで、アルバム『Igginbottom’s Wrench』(‘69)を1枚リリースしている。イギンボトム解散後はライヴハウスやコンサートで腕を磨き、正確な早弾きと父親譲りの音楽理論に基づいたプレイを身上として、徐々にその名は知られていく。そして、イアン・カーの『ベラドナ』のギター奏者として抜擢され、ハイズマンと出会うことになる。テンペストではデビュー作に参加した後に脱退しソフトマシーンに加入するも、『収束(原題:Bundles)』(’75)1枚のみに参加して渡米してしまう。その後はトニー・ウィリアムス&ニュー・ライフタイムで活動する。2枚の作品に参加した後に脱退、78年にはジョン・ウェットン、ビル・ブルフォードらとスーパーグループのU.K.を結成するもアルバム『憂国の四士』をリリース後すぐに空中分解してしまう。その後はさまざまなセッション活動に参加、80年代以降はソロアーティストとして多くのアルバムをリリースする。2017年4月没。フランク・ザッパはあるインタビューで、ホールズワースについて「地球上で最も興味深いギタリストの一人であり、彼のプレイをリスペクトしている」と語っている。

■本作『テンペスト』について

かくして、コロシアムでの盟友マーク・クラークがベース、アラン・ホールズワースのギターとバイオリン、ヴォーカルには元ジューシー・ルーシーのポール・ウイリアムスというメンバーが集まり、4人組グループとしてテンペストは始動する。メンバーの経歴からするとジャズロック的なグループと思いがちであるが、前述したようにハイズマンはクリーム・タイプのロックバンドをやりたかっただけに、ここでは徹底してハードロックスタイルの演奏を披露している。

収録曲は全部で8曲。ほとんどのナンバーでホールズワースの超絶テクニックが登場、本作をリリース当時の73年に聴いたリスナーは、世界一上手いロックギタリストが現れたと思ったのではないか。僕も「エリック・クラプトンはもちろん、ジェフ・ベックよりも上手いのでは?」と驚いたものだ。冒頭の「ゴルゴン」ではプログレっぽい静かなスタートをするものの、途中からホールズワースのハードなギターリフが登場して王道のブリティッシュハードロックへと展開、抑えてはいるが冒頭からすごいソロが聴ける。クリームの「サンシャイン・ラブ」に似たリフで始まる「フォイヤーズ・オブ・ファン」や「ブラザーズ」「アップ・アンド・オン」「ストレンジハー」では、当時のロックの技術を軽く超えるギターテクニックが登場している。6分40秒におよぶ最後の「アポン・トゥモロウ」では、ホールズワースによるエレキバイオリンが聴ける。他にもヴォーカルがメインの「暗黒の家(原題:Dark House)」「灰色と黒色(原題:Grey And Black)」などがある。

この作品は何と言ってもアラン・ホールズワースというジャズ系のギタリストが超絶ロックギタリストとして登場したことに大きな意味がある。それまでのロックギターが多くの場合に情感で勝負していたところを、ホールズワースは理論と技術をもとにソロを組み立てて勝負している。そのことが本作以降のハードロックギターに多かれ少なかれ影響を与えることになるのである。それだけロック界にとって、ホールズワースの出現は大きな意味があった。

本作リリース後、テンペストにはこれまたすごいギタリストのオリー・ハルソール(元パトゥ)がグループに参加、一時期ツインギターとして活動するのだが、残念ながらその時の音源は正式リリースされていない。その後、ホールズワースは脱退し、2枚目の『眩暈(原題:Living In Fear)』(‘74)はハルソールひとりでギター(ホールズワースに勝るとも劣らないスーパーギタリスト)にキーボードにシンセにと八面六臂の活躍であった。

テンペストは演奏面では素晴らしかったもののセールス的に芳しくなく、結局これら2枚のアルバムをリリースしただけで解散することになった。しかし、ホールズワースとハルソールというふたりの並外れたギタリストを擁したグループとして、今後も忘れられることはないだろう。

TEXT:河崎直人

アルバム『Tempest』

1973年発表作品

<収録曲>

1. ゴルゴン/Gorgon

2. フォイヤーズ・オブ・ファン/Foyers Of Fun

3. 暗黒の家/Dark House

4. ブラザーズ/Brothers

5. アップ・アンド・オン/Up And On

6. 灰色と黒色/Grey And Black

7. ストレンジハー/Strangeher

8. アポン・トゥモロウ/Upon Tomorrow

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