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史上最高のハードロック作品のひとつに数えられるAC/DCの『バック・イン・ブラック』

1980年7月25日、本作『バック・イン・ブラック』はリリースされた。ポピュラー音楽史上、マイケル・ジャクソンの『スリラー』に続く歴代2位の売上(5,000万枚前後)を維持し続けているモンスターアルバムだ。今月、ちょうどリリース40周年を迎え、さまざまなイベントが予定されている。前作『地獄のハイウェイ』(‘79)がイギリスだけでなくアメリカでも大きな成功を収め、これからという時にリードヴォーカリストのボン・スコットが不慮の事故で亡くなるという不幸に見舞われる。しかし、ブライアン・ジョンソン(元ジョーディー)を新メンバーに迎え、スコットの死から2カ月後にはレコーディングをスタートさせているのだから、グループの創作欲は相当高まっていたのだろう。実際、本作における音作りが以降のHR/HMに与えた影響は計り知れず、未だに新たなフォロワーを生み出している傑作である。

■ロバート・ジョン・“マット”・ランジ

AC/DCはオーストラリアの地元バンド的な親しみやすさで人気を得ていたところがあるのだが、レコード会社側としてはその親しみやすさが逆に世界レベルの人気を得られないと考えたのか、『地獄のハイウェイ』からはそれまでのオーストラリア録音からロンドン録音へと移行、プロデューサーもハリー・ヴァンダ&ジョージ・ヤング(家族のような存在)から、レコード会社が指定したロバート・ジョン・“マット”・ランジにバトンタッチさせることになる。

ランジは担当するアーティストの個性を濃厚に凝縮して提示できる優れたプロデューサーのひとりである。イギリスではグレアム・パーカーをR&B風シンガーからザ・バンド風へと微妙に転向させたし、パンクバンドのブームタウン・ラッツをパワーポップ系へとシフトさせた。他にもルーモアなど、パブロックやニューウェイヴのアーティストを手がけている。アメリカではカントリー系サザンロックのアウトロウズをポップなハードロックバンドへ導き、エルビス・コステロのデビュー作で傑作『マイ・エイム・イズ・トゥルー』のバックを務めたクローバー(ヒューイ・ルイスや後にドゥービー・ブラザーズに加入するジョン・マクフィー等が在籍していた)を、地味なカントリーロックバンドからポップなウエストコーストロックバンドへと変えた実績がある。これらは全て70年代の作品であるが、後には妻となるカナダのカントリーシンガー、シャナイア・トゥエインをポップシンガーへと転身させ、彼女のアルバム『カム・オン・オーバー』(‘97)をポピュラー音楽史上歴代9位の売上へと導くなど、ランジは成功をもたらすプロデューサーなのである。

『地獄のハイウェイ』でもランジはAC/DCのシンプルでヘヴィな持ち味を引き出し、彼らを世界的なアーティストへと育てることに成功している。彼らもまた、ランジにプロデュースを任せることで自分たちのサウンドを見つめ直し、グループのビジョンを広げることができたのである。

■本作 『バック・イン・ブラック』について

本作『バック・イン・ブラック』は前作『地獄のハイウェイ(現代:Highway to Hell)』のアルバム作りを下敷きにしてはいるが、新たに加入したブライアン・ジョンソンの金属的なハイトーンヴォイスが、グループのヘヴィなサウンドにしっかり貢献しているのが大きなポイントだ。

収録曲は全部で10曲。漆黒のジャケットと、1曲目の「地獄の鐘の音(原題:Hells Bells)」の冒頭の鐘が印象的だ。もちろん、これはボン・スコットへの追悼を表しているわけだが、決してセンティメンタルにはならず、いつも通り豪快にぶっ飛ばしている。時代は80s、シンセ時代に突入し軽めのサウンドが全盛であることなど知ったこっちゃないと、ヘヴィでダイナミックな人力演奏で真正面から勝負している。テンポが遅いのにスピード感に満ちあふれるタイトルトラック「バック・イン・ブラック」や、ライヴでは必ず演奏される「狂った夜(原題:You Shook Me All Night Long)」はとても美しいナンバーで、このタイプの曲はこれ以降よく登場する。ヒットした「ノイズ・ポリューション(原題:Rock and Roll Ain’t Noise Pollution)」は低速のブギにもかかわらず、イメージ的には倍速で突っ走るジョンソンのヴォーカルが素晴らしい。

彼らはアメリカでもイギリスでもないオーストラリア出身だからこそ、70sハードロックが純粋培養されており、同時代のヘヴィメタルやハードコアパンクの多くが今聴くと古臭くなってしまっているのに比べて、いつまでも瑞々しいサウンドが詰まっている。本作は1980年の時点でリリースされた最高のハードロック作品のひとつであり、その音楽は40年の時の流れを経ても全く古くならず、今もリスナーの心を揺さぶる力を持っている。

『バック・イン・ブラック』の40周年を記念して、YouTubeで『The Story Of Back In Black』(インタビュー・シーンやライブ映像など)が公開されているので、興味のある方はチェックしてみてください。

TEXT:河崎直人

アルバム『Back in Black』

1980年発表作品

<収録曲>

1. 地獄の鐘の音/Hells Bells

2. スリルに一撃/Shoot to Thrill

3. 危険なハニー/What Do You Do for Money Honey

4. ロックン・ロール・ハリケーン/Givin the Dog a Bone

5. 欲望の天使/Let Me Put My Love into You

6. バック・イン・ブラック/Back in Black

7. 狂った夜/You Shook Me All Night Long

8. 死ぬまで飲もうぜ/Have a Drink on Me

9. シェイク・ア・レグ/Shake a Leg

10. ノイズ・ポルーション/Rock And Roll Ain’t Noise Pollution

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