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【スターダスト☆レビュー インタビュー】器からはみ出していく楽曲群にときめく新AL『年中模索』

デビューから40年目を迎えた今も、日本で最も働くライヴバンドのひとつとして、この国のポップミュージックを豊かに楽しくし続けてくれている偉大なバンド。スターダスト☆レビューの40周年記念アルバム『年中模索』は、前作『還暦少年』に続き佐橋佳幸をプロデューサーに迎え、ルーツである60’s、70’s、80’sなどの洋楽ロック/ポップスのエッセンスをセンス良く散りばめた、心ときめくポップアルバムに仕上がった。“今は僕自身がスタレビを楽しめてる”という根本 要(Vo&Gu)に、アルバムにまつわるあれこれをたっぷりと語ってもらおう。

■“なんだこいつら?  40年もやってアルバムの作り方も 知らないのか?” というものにしたかった(笑)

──本当に素敵なアルバムです。

「ありがとうございます。自分たちのプロデューサーを称えてもしょうがないけど、佐橋の存在は大きかったですね。音作りの面でも、僕の精神的な支えとしても本当に理想的なかたちで、前作の『還暦少年』から今回の『年中模索』へつなげてくれました。実はそのちょっと前の2014年ぐらいかな、“もうそんなにすごいアルバムはできないだろう”と思っていたわけです。というのも、デビュー30年を超えて、アルバムを40枚ぐらい出してるバンドが、突然ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』みたいなアルバムを作れるはずがないし。俺たちはこれからもライヴを続けるために、バンドをプロモーションする意味でアルバムを作っていけばいいんだと。もちろん全力投球はするけれど、そう簡単には世の中に伝わらないことは、長年やってきてよく分かるからね。だから、好きなことをもっと面白くやろうと、2014年『SHOUT』でKANちゃんにプロデュースしてもらったり、『還暦少年』では佐橋にプロデュースをお願いしたんだ。KANちゃんとのコラボはとても面白かったし、さらに佐橋とは音楽的にはどんぴしゃだったから、何も迷いもなくどんどん作品が出来上がっていきました。そこで僕がひとつ吹っ切れたのは、スターダスト☆レビューというバンドは決してスマートなバンドじゃないし、カリスマのようなバンドでもない。ライブにしてもトークや演出で笑わせたりするところもあるわけだから、どっちかというとロックバンドとしては嫌われ者の部類に入るはず。」

──そんなことはないですけど。

「僕はバンドのあり方としてムーンライダースが大好きで、自分たちをよく“志の低いムーンライダース”と例えるんだけど(笑)。でも『還暦少年』という言葉が出てきた時に、多少世の中を斜めに見ながら自分たちのことも笑える、これこそがスターダスト☆レビューを表現する、言い得て妙な言葉だと思ったんです。メンバーからは反対されたけど、それを持って世の中に出て行ったら、意外や意外ファンの人たちが一番受け入れてくれた。おそらく“今を生きるスタレビ”を待っててくれたんでしょう。90年代くらいまでの僕らのシティポップス的な音を聴いていた人は、“『還暦少年』ってふざけてんの?”と思ったかもしれないけど、今もライヴありきで僕らを見てくれる人たちは、『還暦少年』という言葉に何の違和感も感じなかったんだと思います。その反応に僕らは自信をもらい、“次はもっと面白いものができる”という確信が持てました。佐橋ともアルバムイメージは合致していたし、それはもう最初から最後まで無茶苦茶楽しいレコーディングでしたね。」

──1曲目「働きたい男のバラッド」を聴いて、ぶっ飛びましたけどね。“あのー、還暦超えたバンドですよね”って。ものすごいハードなロックチューンでびっくりしました。

「これを1曲目にするのはみんなは大反対だったんですけど(笑)。でも僕は…そもそも周年ってたいていの人はベストアルバムを作ってお茶を濁すでしょ(笑)。そっちのほうが楽だし、過去をまとめたほうがこれから聴く人も聴きやすかったりするしね。でもそんなこと言ってられるのは最初の10年、15年ぐらいで、40年もやってると“ベストって何だよ、毎回同じじゃねぇか”みたいなラインナップになってくるわけですよ(笑)。それでも、ありがたいことに買ってくれるお客さんはいるわけで、余計なお金を取るよりも、40周年はオリジナルアルバムを作ろうと思ったわけです。その一番根っこにあったのが“ベテランらしからぬアルバムを作ろう”ということで。ここで“さすがベテラン、聴きやすいですね”と言われたら、ベストアルバムで良かったと思うし、“なんだこいつら? 40年もやってアルバムの作り方も知らないのか?”というものにしたかった(笑)。」

──あはは。なるほど。

「最初にメンバーで曲順を決めた時は何となく“スタレビらしい聴きやすさ”でまとまって、1曲目は「センタクの人生」から始まってたんです。でも何度も聴くうちに“ちょっと待て”と。“本当に俺はこれが作りたかったのか?”と自問した時に、“今のスタレビならもっとパワフルなアルバムで有るべきだろう”と、佐橋に“俺は「働きたい男のバラッド」を1曲目にしたい”と提案したら、“僕も、今のスタレビはもっと刺激的だと思ってます”と言ってくれて。メンバーからは反対されたけど、反対されたらさらにエネルギーが増して(笑)。ほとんど決まってた曲順を、メンバーを説得し練り直して「働きたい男のバラッド」を1曲目にしました。」

──インパクト、最高です。

「ただ僕も根が小心者だから、2曲目にはちゃんと聴きやすい曲でぐっと引き戻して(笑)。だから1曲目は選手宣誓みたいなもの、セレモニーですよ。何かすごいものが始まるぞ! といって試合が始まるような、このアルバムには最初のファンファーレが必要だったんですね。実はこの「働きたい男のバラッド」の歌詞は10年前……どころじゃないな、90年代に書いてたんですよ。あの頃“24時間戦えますか”とか、企業戦士みたいな人たちがクローズアップされてて、そういう人たちを称えられる歌を歌いてぇなと思って、僕と林で別の曲に歌詞を付けて持って行ったら、みんなから大反対されて。“サラリーマンをやったことないやつがこんなこと言っても説得力ない”と言われて、しょげて帰ってきたんですけど、その歌詞がずっと残ってた。曲は、僕がスタレビ以外の場所でセッションする時に、なんとなく作っていた曲があったんで、それと合わせて佐橋に聴かせたら、最初はあいつもビビッて“これ、スタレビでやっていいんですか”って言うから、“俺はやりたい”と。最近は働き方改革とかいって、なかなか働かせてくれない状況があるじゃないですか。でも、やりたくて仕事してる人はもっと働きたいだろうし。だって音楽をやってる人間もそうだから、そういう思いでこの曲を作ったんだけど、ちょうどコロナの時期だったから“ライヴやりてぇ!”という曲になっちゃっいました。」

──なっちゃいましたね。

「1曲目でそういう勢いをつけて、今回は“1曲1曲がどこに行くんだ?”というぐらいの、もし器というものがあるんだったら、はみ出すくらいのものでいいと思いましたね。」

──3曲目「偶然の再会」は、6月に先行配信されて、ミュージックビデオも作られました。これはもう、古き良き60’sの洋楽ポップスの王道という感じがします。

「こういうサウンドは、もともとはフィル・スペクターという人が60年代に作り上げたもので、彼は歌だけじゃなくてサウンド感やコーラスワークも楽しんでもらおうとしてたと思うんですよね。日本のポップスってついつい歌ばかり聴かれて、サウンドよりも“歌詞がいいよね”ってなっちゃう。僕にとって音楽は、歌詞、メロディー、歌、アレンジ、のバランス芸術だと思ってるから、それを感じてもらえたら、とても幸せなことですね。」

──4曲目「君は大丈夫!」は、アメリカの80‘sのMTVヒットの香りがします。

「そう、まさに’80s。ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースみたいなコーラスも交えたバンドサウンドを作ろうと思って。それから、「メシでも食おうよ」は、スタイル・カウンシルっぽいメロディにトッド・ラングレンのサウンドをまねてみました。この歌詞は、たまたま新聞のコラムに“人が一番ゆるやかにコミュニケーションを取れるのは食事をしてる時だ”と書いてあったから、なるほどなと思って書いた曲です。シチュエーションとしては、友達に何か相談を持ち掛けられて、たいした答えは持ってないけど“まあメシ食いながら話せば何か答えが出てくるんじゃねぇか?”という話です。」

──“悩むことも人生のスパイス”って、いいセリフですよね。でも結局、このメシ代は“君の奢りで”というオチがつくという(笑)。

「ありがとう(笑)。そういう自分なりのポイントを大切にしたいんです。たとえば「センタクの人生」の歌詞も、普通なら“人は生きていく時に右か左か、AかBか、毎日選択の繰り返しだよね”という、人生訓みたいな歌詞にするんだろうけど、それってちょっと重いじゃないですか。もっと僕らしい表現があるはずだと思った時に、“選択、洗濯……そうだ洗っちゃえばいいんだ”と。“人生って洗いたいものもあるよな”というところに持っていった。僕に詞を書く力がついたとしたら、僕なりの目線を歌詞の中に織り込めるようになったことで、それが年齢と共にちゃんと出てきたんだと思いますね。世の中に伝えるというよりは、自問自答するような歌詞を書きたいんですよ。誰かを批判するとか、言いっぱなしみたいな言葉は嫌だから、“じゃあおまえはどうなんだ?”と言われた時に、ちゃんと責任を持てる歌にしたいなと思ってるところはありますね。」

──8曲目「約束の地へ」は、曲調もドラマチックで壮大、歌詞も環境問題をシリアスに取り上げていて、特にメッセージ性の強い曲になってます。

「「約束の地へ」は、『人体のサバイバル!』というアニメ映画の主題歌になったんです。子供用のアニメなんですけど、ラストにぴったりとのことで選んでもらったみたいです。環境問題に対して何ができるか分かんないけど、僕らはツアー中にはできるだけ紙コップを使わないように、メンバーもスタッフもみんなマイカップを持ち歩いています。この地球のために何か考えなきゃと思って書いた歌詞です。僕が子供の頃に、人類が月に降り立ち、そこから見た美しく青い地球の映像は今も頭の中にあります。誰もが地球を永遠だと思って眺めていたのに、今は終わりへの秒読みが始まってる。それを少しでも遅らせたいというのは、誰しもが願うことじゃないかなと思って作りましたね。」

──10曲目「同級生」は、年を取ってから再会した同級生とのユーモラスなやりとりが楽しい曲ですけど。どこか寂しさが漂う感じもしますね。

「実は僕が一番親しかった友達が最近亡くなって、そいつの歌を作りたかったんです。彼は小学校から一緒なんですけど、中学時代に僕が送った年賀状まで集めてるようなやつで、僕のライヴはほとんど見に来てくれたし、本当にスタレビのことが大好きで、家にスタレビ博物館みたいなのを作ってて、ファンクラブで取材に行ったこともあるくらいで、本当に落ち込みました。……僕は未だに中学校時代の友達と仲が良くて、ライヴにも毎回80人くらい来てくれるんだけど、その間を取り持ってくれたのも彼だったんです。だから彼のために何か書きたいなと思って、でも彼は本当に明るいやつだったので、悲しい歌は嫌だなと思ったんですね。それで考えたのが、僕は中学校の友達とは年中会ってるけど、高校はそうでもない。でも最近は、みんな60過ぎてるからリタイアしてて、暇だから、コンサートに会いに来てくれるんですよ。そうすると必ず“えーっと…(誰だっけ)”という話から始まる(笑)。それでこの歌のアイディアが出てきたんですね。“死んでも同級生”や“お前イッコ下だよね”は彼のことです。」

──音楽がバラエティ豊かさだからこそ、歌詞に込めた人生の深みが、映えてくるんだと思います。

「テーマをうまく見つけられたのは良かったですね。7曲目「おとなの背中」という曲には違う歌詞があって、僕が子供の頃から育ってきた音楽とのつながりを、何歳でビートルズを聴いて、レッド・ツェッペリンを観に行って、グランド・ファンクでピースサインして…ということをずっと書いて、“ロックがいつも俺に素晴らしい生きざまを教えてくれたんだ”という歌詞を作っていたんですよ。ひとりで悦に入って、すごいもんできたなと思ってたんだけど、全然みんなに響かなくて(笑)。唯一頼りにしていた佐橋にも“この曲はもっと別の視点のほうが面白いですよ。今、何か言いたいことないんですか”って言うから、ここ数年気になっていたことを書いたんだ。それはテレビでよく見る偉い人たちの答弁。政治家や社長さんや責任者の謝罪会見。大人たちが言い逃ればっかりしてる。でも批判するだけじゃなくて、“じゃ、俺たちの生きざまはどう見られてるんだ?”という自問自答もしたかった。“俺たちはもう長くないけど”という言葉を使えたのが、このアルバムの中で一番言いたいことかもしれない。長くないんですよ、もう僕らは。30代の頃と比べると、確実に終わりが見えてきてる。未来は遥かとは言えないし、いつまでも好き放題言えるわけじゃない。僕らには限られた時間になってしまったけれども、そこで何ができるのか、いつも考えていたいという思いがあるんですね。」

──そう言わず、これからもできるだけ長く“年中模索”してほしいです。いいタイトルだと思います。

「ありがとうございます。このタイトルは、スタレビ史上初めて満場一致で決まりました(笑)。みんなでひとつずつ発表していくわけですけど、僕が『年中模索』を出した瞬間にみんな“プッ”と吹き出して、“いいじゃんそれ”っていうことであっさり決まりましたね。」

■配信って使い方を間違えると 諸刃の剣なんです

──そして、最新情報によると、お客さんを入れたライブをいよいよ再開しますね。

「とりえあずはガイドラインに従って、お客さん半分で座席を空けながら、8月30日に日比谷の野音でやります。『こんなご時世、バラードでござーる』というタイトルなんですけど(笑)、座って聴いていただこうとバラード中心のライヴです。色々やるつもりですが、やっぱり楽しい雰囲気を伝えたかったので、あえてこんなタイトルをつけてみました。来られない方もいらっしゃると思うので、配信もやります。とにかくお客さんに生演奏を楽しんでほしいし、僕らも拍手がほしいんです(笑)。」

──ガイドラインがありますからね。客席で一緒に歌うとかは、たぶんできない。

「飛沫が飛んだりしますからね。でもライヴはお客さんと作るものなので、その場で色々配慮しながら僕らも楽しみます。久しぶりの東京、しかも客席半分ということで、配信で観てくださる方も多いと思うんだけど、配信って諸刃の剣なんですね。パソコンとかスマホで気軽に観られるのはいいけど、やっぱり生の本質が伝わらない気がするんです。それに配信ってね、思った以上に儲かるんですよ(笑)。ソールドアウトもないし。加えて必要以上に儲かるということは、絶対にアーティストを堕落させるんです。僕は音楽はいつも需要に応じた適正価格がいいと思ってます。僕らのコンサートも、過不足ない程度に“次のためにやるための資金”だと思ってます。売れる時に売り切っちゃう考え方もあるけど、次につなげるためのものを考えていかないと、自分たちで自分たちの首を絞めることになるから。」

──40年間、いつもライブバンドであることに誇りを持ってきた、要さんらしい意見だと思います。

「今のスタレビの存在は、僕にとって理想に近いかたちです。スタッフとのつながり、お客さんとのつながり、本当にありがたい状況です。よく40年で得られたものは何ですか?って聞かれるけど、僕は“今のお客さんとスタッフに出会えたこと”って答えます。まだまだやりたいことはある。もっとたくさんの人に聴いてほしい。それはもちろんあるけど、まず僕らにとって大事なのは、今聴いてくれている人たちだし、その人たちがいるから外に打って出られるわけで。初めから外を目指して、やみくもに何かを作る必要はないんだと思えるようになりました。今、明らかに20年前よりも僕自身がスタレビを楽しめてるし、そう思えることがありがたいなと思ってますね。」

取材:宮本英夫

アルバム『年中模索』

2020年7月22日発売

【初回盤】(CD+DVD)

COZP-1665/6 ¥3,636(税抜)

【通常盤】(CD)

COCP-41173 ¥2,909(税抜)

『新型コロナ対策ライブ「こんなご時世、バラードでござーる」』

8/30(日) 東京・日比谷野外大音楽堂

※雨天決行/荒天時中止

<ライブ入場チケット>

全席指定:7,300円(消費税込)※未就学児入場不可

発売日:2020年8月1日(土) 10:00~

<配信視聴チケット>

3,000円(消費税込み)※2020年9月2日(水)23:59まで視聴可能

発売日:2020年8月1日(土) 10:00~9月2日(水)20:00

詳細:https://s-d-r.jp/

スターダスト☆レビュー

スターダスト☆レビュー:埼玉県出身の4人組ロックバンド。1981年にアルバム『STARDUST REVUE』でデビュー。39年目を迎えた現在も80公演を越える全国ツアーを展開し、総数は2400回を越える。エンターテイメントに徹したステージは観客を魅了し、文字通りのライヴバンドとして根強い人気を誇っている。01年8月にデビュー20周年を記念して静岡県つま恋で開催した『つま恋100曲ライヴ~日本全国味めぐり~お食事券付』において101曲演奏したことが“24時間でもっとも多く演奏したバンド”としてギネスワールドレコーズに認定されている。

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