“ウィズ・コロナ”と“アフター・コロナ”が一斉に噛み付いてくるかのような忙しなさ。テレワークにどっぷり浸かり、ぶくぶく肥えた体に布切れを巻いて久々に外に出れば、青嵐の鋭さすっかり消え失せた梅雨の季節です。花火大会も夏フェスも中止延期ステイホームの連続で、毒っ気と猥雑さを孕んだ極彩色の夜景に身を紛らわせる背徳感と高揚感はお預けになりそうな気配。今年は四角い明かりと振動に目を閉じる夏を、来年の今頃にはまた誰かの汗と息遣いに反射された自身の輪郭に指を滑らせる夏を。
■「カツベン節」(’19)/奥田民生
6月10日にリリースされたばかりの周防正行監督『カツベン!』のエンディングテーマは、大正時代の流行歌「東京節」を下敷きに、無声映画が“活動写真”と呼ばれた時代の知らぬがゆえに無限のイメージを纏って変幻自在に踊るノスタルジーを織り込んだ「カツベン節」。音も声もないモノクロの映像に命を宿らせ、息を吹き込む活動写真弁士の鮮やかな才覚をモンタージュ的に散りばめた商業性、奥田民生というシンガーソングライターの作品性があればこそ華やかさと親しみやすさがいい塩梅に共存するジンタ。ラフさとフラの絶妙な匙加減に耳と足首をくすぐられるカタルシスが心地良い。
■「死神の岬へ」(’91)/スピッツ
ビートパンク時代の刹那的な青さと儚さを携えたセルフタイトルアルバム『スピッツ』の収録曲。冷たさと頑なさで尖らせた草野マサムネの声で静謐に光る厭世観と死生観によって構築された歌詞は「青い車」「涙がキラリ☆」の風通しのいい虚無感と連なり、ざらついた若さが持ち合わせる全てを詰め込まれた曲の多層性で浮上する。ドラムとヴォーカルが曲の基調となり、ギターとベースがコラージュ的なアクセントとして跳ね回る構成の遊び心、流星群の如くカットインするシンセサイザーのやんちゃで流麗なラインはなんとも痛快。
■「リリアンベイビー」(’09) /T.V.not january
3ピースバンドT.V.not januaryが2009年にリリースした自主制作盤『僕らの脳内昨日のまんまだに』に収録されているアンセム。同作が廃盤になってしまっているため、ライヴやYouTubeでしか聴けないのが惜しい。《楽しいことだけでいい そのあと全部つぶれても》《銃声が鳴り響けば足りないものがわかるかな》の歌詞に練り込まれた水色に燃える炎を思わせる希求の熱と孤独感の美しさ。牧歌的な空気に包まれた3人の歌声とシンプルな演奏のざわめきが微塵の策略もなく心の凹凸に嵌ってバチッと明かりが灯される純情の凄まじさには、どんな理性もロジックも太刀打ちできない。
■「星めぐりの歌」(’17)/小田朋美
FINAL SPANK HAPPY、CRCK/LCKSのメンバーとしても活動する小田朋美が2017年に発表したソロアルバム『グッバイブルー』。宮沢賢治のあまりにも完成されつくした一編の詩、言葉と声だけで結晶化してしまいそうな作品の強さをすんでのところで捕えた挑戦的な一曲で、朗々としたファルセットの白さと全編にわたって貫かれる重厚でドラマチックなピアノが紺碧と闇のあわいで波打つ。逆らいようのない絶対的な自然としての夜や空ではなく、あらゆる生き物の営みと世界が揺らぎ続け、刻一刻と表情を変える宮沢賢治の作品の豊潤さに寄り添って腕を伸ばした勇猛果敢な曲想はとにかく贅沢。
■「HAE」(’05)/Losalios
中村達也によるLosaliosが2005年に発表した『ゆうれい船長がハナシてくれたこと』に収録されているインストゥルメンタル曲。中村達也の硬質にして縦横無尽なドラミングがど真ん中でハレーションの如く放射する肉体性、鮮烈な光芒の周囲を笑いながら汗だくになって蛇行するギターと羽ばたき続けるベースの眩さは、圧縮された音塊でも容赦無く頬を叩いて目を覚まさせる。映像は同曲がテーマソングに起用されたK.K.P#5『TAKEOFF ~ライト3兄弟~』全編。物語のクライマックスからエンディングへと疾走し、燃焼する多幸感と客席のクラップハンドが拮抗する爽快感は必見。
TEXT:町田ノイズ
町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。
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