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最後期のザ・ラスカルズが本気でロックした『アイランド・オブ・リアル』

名曲「グルーヴィン」や「ロンリー・トゥ・ロング」など多くのヒット曲で知られるヤング・ラスカルズは、黒人音楽専門レーベルのアトランティックと契約した最初の白人グループで、65年にシングルデビューしている。60年代後半になるとアトランティックはレッド・ツェッペリンやイエスなど多くのロックアーティストを獲得するようになるが、65年の時点で白人ばかりのヤング・ラスカルズがアトランティックと契約するのは異例中の異例であった。それだけ、そのサウンドは黒っぽかったのである。彼らの生み出す音楽はブルーアイドソウルと呼ばれ、もちろん他にも黒人音楽に影響を受けた白人は少なくなかったが、ラスカルズの“黒っぽさ”は筋金入りであった。今回紹介する『アイランド・オブ・リアル』はラスカルズの最後のアルバムで、どちらかと言えばポップスやソフトロックの立ち位置にいた彼らが、渾身の力を込めて作り上げたロックスピリットにあふれるポップソウル風の傑作である。

■黒人音楽オタクたちによるグループ結成

ヤング・ラスカルズはジョーイ・ディー&ザ・スターライターズというR&Bグループに在籍していたエディ・ブリガッティ、フェリックス・キャバリエ、ジーン・コーニッシュの3人と、エディの旧友ディノ・ダネリの4人で結成された。エディとフェリックスは黒人音楽オタクで、彼らふたりがラスカルズの音楽性を決定していた。当時、アメリカでもイギリスでも若者たちはR&Bに夢中であり、ビートルズのジョン&ポール、ストーンズのジャガー&リチャーズらも黒人音楽オタクとして勉強を積み、自分たちの音楽を生み出している。

アトランティックにはアリフ・マーディン、ジェリー・ウェクスラー、トム・ダウドといったこれまた音楽オタクの敏腕プロデューサーが在籍し、彼らはアーティストの良さを最大限に引き出すことで知られる。中でも、ジャズシンガーだったアレサ・フランクリンをソウルに転向させた功績は計り知れない。ヤング・ラスカルズはアリフ・マーディンとトム・ダウドがバックアップしており、彼らの方向性をうまくコントロールしている。2枚目のシングル「グッド・ラヴィン」(カバー曲)は早くも全米1位を獲得、ヤング・ラスカルズはヒットグループの仲間入りを果たす。エディ&フェリックスのコンビによるオリジナル曲作りも功を奏し、「ユー・ベター・ラン」(‘66)や「ロンリー・トゥ・ロング」(’67)など多くのヒット曲を生み出すわけだが、彼らのキャリアにおける最高のナンバーは「グルーヴィン」(‘67)だ。この曲は全米1位となっただけでなく、彼らが真のR&Bグループであることを証明した名曲中の名曲である。

■『ペット・サウンズ』と 『サージェント・ペパーズ』の影響

60年代後半になると、サイケデリックロック、プログレ、ハードロックなど、ロック界では年々新しいスタイルが生まれている。ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンド』(‘66)やビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(’67)といったコンセプトアルバムに影響されたエディとフェリックスは、ヤング・ラスカルズからザ・ラスカルズへと改名しリリースした4thアルバム『夢みる若者(原題:Once Upon A Dream)』(’68)では、ストリングス(アリフ・マーディンのアレンジ)や実験的な効果を盛り込むなど、新生ラスカルズとしてこれまでのR&Bグループの枠組みにとらわれない試みで成功する(全米チャート9位、R&Bチャート7位)。

■アトランティック後期のアルバム

『夢みる若者』で単なるブルーアイドソウルのグループから脱皮を図り、ロックの方法論を取り入れた彼らは、続く2枚組の大作『自由組曲』(‘69)ではセッションに参加したチャック・レイニー、リチャード・デイビス、キング・カーティスのジャズ的なエッセンスを導入し、歌だけでなく演奏部分を重視した作品作りを行なうようになっている。この方向性は前作でのセッションに参加したヒューバート・ロウズやスティーブ・マーカスといったジャズのアーティストの演奏からインスパイアされたものであり、この頃からスタジオでフェリックスがリーダーシップを発揮することが多くなる。アルバム先行シングル「自由への讃歌(原題:People Got To Be Free)」は全米1位(これがラスカルズ最後の1位)となり、アルバムも17位と2枚組ながら健闘している。ディスク2(LP)の「ブーム」は14分近いドラムソロ曲、「キュート」は15分強におよぶソウルジャズ風インストという攻めた構成になっており、当初イギリスではディスク1のみの1枚ものとしてリリースされている。

6thアルバム『シー』(‘69)でもチャック・レイニー、ロン・カーター、ヒューバート・ロウズ、ジョー・ブシュキンら、前作と同様ジャズ系のサポートミュージシャンが参加している。この作品ではフェリックスの書いた曲が増えているが、この頃既にエディはグループに対する熱意が薄れてきていたのかもしれない。よく練られた曲が並ぶ良いアルバムだと思うが、セールス的には失敗している。7th『ラスト・アルバム(原題:Search And Nearness)』(’71)は、レコーディングの途中でエディとジーンの二人が脱退したが、もはやラスカルズはフェリックスのソロプロジェクトみたいなものなので、前作と比べてもサウンドの変化はない。前作がセールス的に振るわなかったため、このアルバムがアトランティック最後の作品になることは事前に分かっていた。コロンビアへの移籍がすでに決まっていたせいか、アトランティックがプロモーションをしなかったから、結果としてこのアルバムも売れなかった。前作同様ゴスペルからの影響が感じられ、重厚なサウンドに仕上がっていて内容は良い。

■コロンビア移籍から解散まで

フェリックスはディノとともにラスカルズを存続させるため、ジーン・コーニッシュの代わりにポール・バタフィールドのグループにいた凄腕ギタリストバジー・フェイトンを、ベースにはソウル系のセッションミュージシャン、ロバート・ポップウェル、チャック・レイニー、ジェリー・ジェモットらを加えてレコーディングをスタートする。世間的には忘れ去られようとしているラスカルズであったが、強力なメンバーを迎えることで演奏面ではこれまでで最高のグループになった。結局、2枚の作品をリリースするだけでラスカルズは解散することになるのだが、この2枚のアルバムは後のポップソウルやフュージョンの先駆とも言える革新的なものである。

コロンビア移籍第1作『ピースフル・ワールド』(‘71)は2枚組の大作で、フェリックスのお気に入りのヒューバート・ロウズをはじめ、ジョー・ファレル、ロン・カーター、アリス・コルトレーン(ジョン・コルトレーンの妻)、ラルフマクドナルド、チャック・レイニー、ジェリー・ジェモットなど、ジャズ/フュージョン界から豪華なメンバーが参加している。バジー・フェイトンのギターはすでにフュージョン的なテイストを感じさせており、彼の非凡な才能は光っている。

■本作『アイランド・オブ・リアル』 について

残念ながらラスカルズの最終作となる本作『アイランド・オブ・リアル』では、ベーシストにパーマネントメンバーとしてロバート・ポップウェルを迎え、文句なしに充実したリズムセクションとなった。ホーンセクションにはデビッド・サンボーン、ジョー・ファレル、いつものヒューバート・ロウズ他が参加し、ポップソウル/ファンク的なサウンドが展開されている。

収録曲は11曲(のちにCD化に際して2曲ボーナストラックが追加された)。バジーが1曲、ポップウェルが1曲提供している他はフェリックスの曲で、これまで以上の充実した楽曲群になっている。アープ(Arp)が効果的に使われており、70年代中期にリリースされたポップソウル系の作品(ネッド・ドヒニー『ハード・キャンディ』(‘76)やアベレージ・ホワイト・バンド『カット・ザ・ケイク』(’75)など)でもアープが使われているのは、本作の影響かもしれない。

本作は売れなかったが、それは時代を先取りしすぎていたからだと思う。フィフス・アヴェニュー・バンド、オハイオ・ノックスのような東海岸産のポップ感覚とタワー・オブ・パワー、アベレージ・ホワイト・バンドを思わせるファンクサウンド(これはポップウェルの参加が大きい)が同居したようなサウンドは、本作より数年遅れて登場するAORやフュージョンの先駆と言えるものだ。フェリックスが頭に描いた都会的で瀟洒なサウンドは、売れるにはまだ早すぎた(バジー・フェイトンのギタープレイも新しい)のである。本作『アイランド・オブ・リアル』は、翌年の73年にリリースされたホール&オーツの『アバンダント・ランチョネット』と並んで、僕にとっては忘れられない革命的なサウンドを持ったアルバムである。

TEXT:河崎直人

アルバム『The Island of Real』

1972年発表作品

<収録曲>

1. ラッキー・デイ/Lucky Day

2. サーガ・オブ・ニューヨーク/Saga of New York

3. ビー・オン・ザ・リアル・サイド/Be on the Real Side

4. ジャングル・ウォーク/Jungle Walk

5. ブラザー・ツリー/Brother Tree

6. アイランド・オブ・リアル/Island of Real

7. ハミング・ソング/Hummin’ Song

8. エコーズ/Echoes

9. バターカップ/Buttercup

10. タイム・ウィル・テル/Time Will Tell

11. ラメント/Lament

〜ボーナス・トラック〜

12. プルーヴ・イット/Prove It

13. ラヴ・イズ・ア・ウーマン/Love Is a Woman

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