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女性リードギタリストを擁したラマタムのデビューアルバム『ラマタム』

ラマタムはアメリカンハードロック・グループの草分けであり、ギターにはブルース・イメージやアイアン・バタフライで注目されたマイク・ピネラ、ドラムにはジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのミッチ・ミッチェルという凄腕のメンバーを揃えたスーパーグループでもあった。プロデュースはデレク&ザ・ドミノスなどで知られるトム・ダウドの担当ということもあって、当時は日本でもロックファンの話題になった。しかし、もっとも驚いたのはリードギタリストがエイプリル・ロートンという女性であったことだ。今でこそ女性のロックギタリストは多いが、72年の時点ではかなり珍しかった。今回、取り上げるのは、乾いたハードロックサウンドが心地良いラマタムのデビューアルバム『ラマタム』。演奏、楽曲、コーラスなど、今聴いてもまったく古臭くなっておらず実に素晴らしい仕上がりだ。

■ブルース・イメージ在籍時の マイク・ピネラ

マイク・ピネラはアメリカンロックのギタリストの中で、最も過小評価されているひとりだと思う。全米チャートで4位に達したブルース・イメージの大ヒット曲「ライド・キャプテン・ライド」(‘70)を聴いて、ピネラのギターに痺れた日本のロックファンは少ないないはずだ。この曲のピネラのギターソロは中盤とエンディングの2回あり、中盤のソロではクリーンなトーンでペダルスティール・リックを披露し、エンディングのソロではオーバードライブのかかった少しハードなソロが堪能できるのだ(短いけど)。僕は最初ラジオでこの曲を聴いて大いに気に入り、早速次の日にシングル盤を買いに行った。

ところが、聴いてみて驚いた。なぜだか分からないが、シングル・バージョンはエンディングのギターソロがカットされているのだ。たかだか3分半程度の長さなのに…である。ピネラの渾身のプレイがカットされていただけに腹が立ったので、もう50年ほど経つが未だにこの件は忘れていない。たぶん、死ぬまで忘れないだろう。結局、その数十秒のプレイが聴きたいだけで、お金もないのにこの曲を収録したアルバム『オープン』(当時は2,000円)を買う羽目になってしまった。中学生の僕は「ライド・キャプテン・ライド」が聴きたいだけであったが、アルバムの中身はハードロック、ラテンロック、ブルースロック、プログレ風などバラエティーに富んでいて、このグループが好きになった。中でもピネラのギターは、やはり素晴らしかった。

余談だが、当時の日本盤のオビについていたコピーは「ギター、ドラムス、オルガンの凄いテクニック! 興奮の渦に巻き込まれるハードロックの決定版!!」という実に安っぽいものであった…。

■天才ドラマー、ミッチ・ミッチェル

ミッチ・ミッチェルはジミヘンと一心同体の活動で知られる天才ドラマーだ。ジャズの繊細なテクニックとハードロックの破壊的なプレイが渾然一体となった彼のプレイは、まさに天才を思わせる。同時代に活躍したジョン・ボーナム、キース・ムーン、ジンジャー・ベイカー、カーマイン・アピスらと並び称されるプレーヤーだと思う。ただ、ミッチェルはジミヘンの死後は残されたテープの整理などに時間を費やし、プレーヤーとして音楽に向き合うことが少なく、それが実に残念である。

■女性ハードロックギタリスト、 エイプリル・ロートン

72年、ピネラとミッチェルが新グループを結成したことは、ロック界では大きな事件として報じられた。僕はその情報を『ミュージック・ライフ』か『音楽専科』か『ニュー・ミュージック・マガジン』で得たはずだが、今となってはどれだったか忘れてしまった。誌面で大きく取り上げられていたのが、リードギタリストがエイプリル・ロートンという女性だということ。当時、僕は女性リードギタリストと聞いてかなり驚いた。実際、びっくりしたリスナーは多かったはずだ。だから、そこそこの年齢のロックファンは、ラマタムの音楽を聴いたことがなくても、ラマタムというグループ名は知っているのではないだろうか。

60年代の後半からエース・オブ・カップス、ファニー(スージー・クワトロの姉妹、パティ・クワトロが在籍)、バーサ(のちにヴォーカリストとして知られるローズマリー・バトラーがベーシストとして参加)など、活躍していた女性ロックグループはいくつかあった。中でも、バーサはハードなプレイを聴かせていたグループだが、それでもリードギターについて言えば線は細かった。当時は、まだエリック・クラプトンやジミー・ペイジのように弾ける女性はいなかったのである。それだけに“男性顔負けのプレイ”と言われていたエイプリル・ロートンのプレイは聴いてみたかった。

■本作『ラマタム』について

ラマタムはマイク・ピネラとエイプリル・ロートンがギター、ミッチ・ミッチェルのドラム、ラス・スミスがベース、トム・サリバンがキーボードと管楽器という編成で、ヴォーカルはピネラ、スミス、サリバンの3人が担当している。彼らがどういう経緯で結成されたのかは不明であるが、ピネラとミッチェルのふたりが参加していることと、トム・ダウドがプロデュースを担当しているのだから良いグループであることは間違いないと僕は思った。その上、彼らが仲間として迎えた女性リードギタリストのロートンのプレイを聴いてみたいというだけで、なけなしのお金をはたいて本作を買った。中3の時である。

収録曲は全部で9曲。アルバムはロートンとピネラのツインギターが印象的なハードロックナンバー「ウィスキー・プレイス」から始まる。僕は本作で初めてロートンのギタープレイに接したわけだが、彼女のギターワークは想像以上にハードな演奏であった。途中のアグレッシブなギターソロはノリといい、フレージングといい、まさに逸材としか言いようのないプレイだ。続く「ハート・ソング」は少しフォーキーな香りのするミディアムテンポのナンバー。サリバンのフルートとピネラのクリーントーンのギターが西海岸っぽさを演出しており、後半に登場するロートンのプログレっぽいフレーズが攻めている。「アスク・ブラザー・アスク」では、ウィッシュボーン・アッシュを思わせるピネラとロートンのツインリード、そして同じフレーズを繰り返すコーラスが聴きものだろう。「ホワット・アイ・ドリーム・アイ・アム」は美しいメロディとコーラスが中心のソフトなナンバー。「ウェイソー」は1、3曲目と同様、ピネラとロートンのツインギターが前面に出たハードロックナンバーで、跳ねるベースのグルーブ感が素晴らしい。前曲ではサックスを吹いていたサリバンが、ここではキーボードソロを弾いている。静かな「チェンジング・デイズ」に続いて、長いイントロから突如激しいツインリードギターが現れる「ストレンジ・プレイス」は、ファンクっぽいリズムとジャジーなサックスが肝である(ここでもスミスのベースはいい仕事をしている)。8曲目の「ワイルド・ライク・ワイン」は、サザンロックのテイストも少し感じられる乾いたアメリカンロックで、この曲でのギターソロはピネラだろう。そして最後の曲は、左と右に振り分けられたピネラとロートンのギターが唸りまくる「キャント・シット・スティル」。途中の3分ほどがふたりのギターソロに当てられていて、アルバムの最後に相応しいナンバーである。

本作は商業的には成功しなかった。それは、この時期にはアメリカ産のハードロックはまだ少なかったからであり、ラマタムの新しいスタイルは登場するのが早すぎたのかもしれない。そういう意味で本作は、のちに成功するモントローズやエアロスミス、ヴァン・ヘイレンなど、後進のアメリカン・ハードロック・グループに大きな影響を与えたのである。

■その後のエイプリル・ロートン

本作をリリースした後、ピネラとミッチェルはグループを脱退し、ロートンが中心となって2枚目の『In April Came The Dawning Of The Red Suns』(‘73)をリリースするのだがまったく売れず、ラマタムは74年に解散する。ロートンは音楽シーンから離れ絵画の制作とグラフィックデザインを生業としていたが、2006年に心不全により58歳で亡くなっている。彼女の音楽と絵画作品は今でも公式サイトで公開されているので、興味のある人はチェックしてほしい。

■エイプリル・ロートン公式サイト

http://www.aprillawton.com/

なお、2010年に女性ロックグループ、ファニーのジューン・ミリントンはロートンがトランスジェンダーであったとインタビューで述べている。また、2012年にはツイステッド・シスターのディー・スナイダーが、ラマタム加入前にロートンが加入していたグループ、ブルックリン・ブリッジ(トム・サリバンもメンバー)在籍時には男性であったと語っている。トム・サリバンはそのあたりの事情はもちろん知っているだろうが、ロートンが優れたギタリストであったというだけでいいのではないか。

TEXT:河崎直人

アルバム『RAMATAM』

1972年発表作品

<収録曲>

1. ウィスキー・プレイス/Whiskey Place

2. ハート・ソング/Heart Song

3. アスク・ブラザー・アスク/Ask Brother Ask

4. ホワット・アイ・ドリーム・アイ・アム/What I Dream I Am

5. ウェイソー/Wayso

6. チェンジング・デイズ/Changing Days

7. ストレンジ・プレイス/Strange Place

8. ワイルド・ライク・ワイン/Wild Like Wine

9. キャント・シット・スティル/Can’t Sit Still

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