SQUAERE ENIXでファイナルファンタジーなどのゲーム⾳楽を⼿掛ける鈴⽊光⼈の新ユニットmojera(モジェラ)が、4月22日にデビューアルバム『overkill』をリリースした。
エレクトリック・サティやOVERROCKETの名義で活動してきた鈴木。今作は、そんなエレクトロニックミュージックへの造詣が深い彼が“エレクトロニック・シューゲイズ”と名付けるサウンドを軸に、シューゲイズ・オルタナティブ・ドリームポップ・エレクトロニカ・エレクトロヒップホップと、⼀筋縄ではいかないジャンルの要素が散りばめられた。しかし、どの曲にも共通しているのは、キャッチーかつ親しみやすいメロディーと、緻密に計算されたアレンジが施されている点だ。
彼がこれまで主眼に置いてきた透明感のある電⼦⾳と低⾳に加え、美しい歪みが加わったサウンドは、エレクトロニックという枠を越え、⼀貫した世界観と⼼地良さを兼ね備えたものに仕上がっている。いつどこで聴いても⼀瞬で空気を変えてくれる確固たる世界観と、未来的だけどどこか懐かしい印象を感じさせる、2020 年型のPOP MUSICとなっている。
そして、彼がの作るトラック上で縦横無尽に⾶び跳ねるのは、ギター&ボーカルを務めるnonの奏でる音。彼⼥自身もDAW を扱い、フィールドレコーディングを⽇課とするDAW ⼥⼦であり、オルタナティブロックバンド・Robert the Thief、エクスペリメンタルポップデュオ・Menoなど、枠に囚われない様々な活動を展開してきた。その中で培われたクレイジーなギター&Fuzz サウンドはmojeraの⾳楽性を⼤きく⽰すものであり、偶然nonの音を聴いた鈴木が本人に声をかけたのがきっかけだったという結成のエピソードもそれを物語っている。
また、彼⼥が⼿掛ける現実と⾮現実、シリアスかつユーモラス、クールに毒を加えたリリックも魅⼒の1つと⾔えるだろう。なお、今作の収録曲でありユニット名と同名の「Mojera」については、“猫”をキーワードに、“あったかくてのんびりした日曜日みたいな曲を目指した”とnon本人がコメントしている。
様々なジャンルを⾶び越えながらも、⼀貫した世界観と⼼地良さを兼ね備えた今作。ジャケット写真は、映像作家 /写真家/アートディレクターとして活躍するDaisuke Shimada が担当している。
そんな彼らのオフィシャルインタビューと併せて、アルバムをチェックしてみてほしい。
■【オフィシャルインタビュー】
――まず、今回のユニット「mojera」の結成きっかけを教えてください。
鈴木:もともと2~3年前に新しいソロアルバムを作ってたのですが、普段の仕事(SQUAREENIXのゲームコンポーザー)が盛り上がってしまって、そのまま放置になってたんですね。少し時間が出来てそろそろ続きをやろうかと思った矢先に、偶然nonの音を聴いて声をかけたのが最初です。“ギター誰が弾いてるの?”って。
non:自分でもかなり気に入っているギターのノイズ部分をピンポイントで“良いね”と言ってもらえたので、テンションが上がったのを覚えています。
鈴木:それから“ちょっとこういう曲を作ってるんだけど、試しに声入れてみない?”ってやってみたら凄く面白いバランスの物が出来て。直ぐにスタジオでギターの“素材”を沢山録って、流れとしてはソロとはまったく別のスタートになったんです。mojera自体は屋号ではあるんだけど、固定メンバーと言う感じにはしなくて出入り自由のユニット。かといって複数人のボーカリストに歌ってもらうという考えはなかったので、エンジニアを除けば基本nonと2人で作りました。サポートギターで掛川陽介氏(Language)が2~3曲弾いてくれてますが、掛川さんもなんだかよくわからないうちに僕の自宅スタジオに遊びにきて、ギター弾いて“あとよろしくー”といった感じで、立ち位置について割と自由なんです。
――ご自身の今までの活動を経て、mojeraを始めるにあたって、目指すこと、やりたい事などを教えていだけますか?(今までのキャリアと重なり合うところ、また新たに挑戦したいこと、再提示したいことなど…)また今回立ち上げたレーベルの展望についても教えてください。
鈴木:音楽を作る事に関しては、“やりたい事をやる”“作りたい物を作る”“作りたい人と作る”というのが基本にあって、そこは毎回同じ考えです。音楽を作る事や楽しみ方は自由であるべきだし、好きな事に制限をかけたくないというのが根本にあります。聴き方についても選択が広がってきていますしね。レーベルについては形式上レーベルと名乗ってますが、自分の音源は自分で責任持って面倒みたいと。もちろん良い部分があればそうでない部分もあるのですが、そこを含めとても健全だと思いますし、なにより風通しが良い。リリースについては自分が関わる作品がメインになりますが、音楽を通して面白い音やアーティストとの出会いが広がれば、それはやはり宝ではないかと思います。
――光人さんの制作のスタイルについて聞かせてください。どんなものにインスパイアを受け、どこから制作がスタートすることが多いですか?
鈴木:音楽や機材から触発される事が多いですが、今回はnonのギターからインスパイヤを受け、そこからスタートする事が多かったです。つまり生演奏も録ってしまえば僕にとってはサンプルの1つなんですね。かっこいい音であったり聞いた事がない響きだったり、もちろん作る過程を楽しむというのもあるのですが、割と明確に方向性が見えてたので、そこに向かってひたすらトラックを作るという感じです。メロディラインについては基本を作って、そこからnonが歌詞を書く過程でどんどん方向性を広げてくれたので、とても新鮮でした。レコーディングしながらあれこれ音を足したり引いたりするので、こういうのは複数人で作る楽しさですね。
non:他の人が曲のベースを作ったところに歌を入れ込むのは初めてだったので、私にとっても新鮮な作業でした。歌詞については“なんとなくこういうイメージ”、と最初にディレクションがある曲もあれば、完全にお任せしてもらっている曲もありました。基本はデモ音源を聞いた時の印象で、ぱっと思いついた感覚を歌詞にしていきました。
――DAWを使いこなす2人のメンバー構成になっていますが、(自然と)明確にパートが決まっているのでしょうか?
鈴木:えーと、ギターとボーカルはnonで…(笑)。
non:そうですね(笑)。
鈴木:その他が僕と言う事になります。DAWは2人ともSteinbergのCubaseProを使ってて、なんとなくルールを決めてデータのやり取りをします。ドラム、ベース、ギター、シンセ、仮メロ、その他といった感じでnonが歌詞を書く時になるべくトラックのON/OFFがしやすいようにステムで渡します。プラグインの互換性を気にする事もないので、お互い使い慣れてる制作環境なのでとても効率的です。あとよく使用する制作機材にNativeInstrumentsのソフトやハードがあるのですが、そういう共通言語を普通に会話出来るのも話が早くて助かってます。アルバム中の「Rain bringer」という曲で、雷のSE(効果音)を入れてるのですが、nonが自前のライブラリーを出してくれて“これノイズも取ってあります!”、“え、めっちゃいい音じゃん、使ってもいい?”とかそういう事もありました。
non:2mixの音源だけでなく、ステム入りのセッションファイルごと渡してもらえるのは、曲を多面的にとらえることができてとてもいいですね。あるトラックをミュートしてみることで、“もしかしてここはこういう意図があるのかも?”といろいろアイデアが膨らみます。雷のSEは、今回はiZotopeのRX7でノイズをとりました。かなり大きな落雷で、周りにいた人の叫び声とかも入っていたので流石にとらないとなと思いまして(笑)。
――ユニットのタイトル曲にもなっている楽曲「Mojera」について聞かせてください。イントロから耳に残り、まさしく2020年型のPOP Music! この曲がまさしくMojeraの自己紹介といった感じでしょうか? この曲が生まれた経緯や制作秘話がありましたら聞かせてください。
鈴木:アルバム制作自体は2019年の春から夏にかけて行っていたのですが、終盤頃にこの手のアコースティック系も1曲欲しいなと思い追加しました。ちょうどジャケットが出来たタイミングだったので猫の写真を見てたらスラスラと書けて。でも「シューゲイザー」といいつつ、まったくシュゲってないのですけど、nonの歌詞とボーカルとの親和性も高い優しい曲になったかなと思います。
non:猫というキーワードと曲を聞いて、割とすぐにストーリーが浮かびました。あったかくてのんびりした日曜日みたいな曲になるように、書きました。
鈴木:あと冒頭から鳴ってる猫の声のようなサウンドはテルミンなのですが、nonがテルミンで遊んでる音をそのまま録音したテイクを使ってます。こういうのって狙って出来る演奏ではなくて偶然の産物なので、そのまま編集なしで切り取ってます。“なんか猫の声に聞こえるね”って。ちょうど曲とも合ってるしこれは良いなと。
non:テルミン弾くのとても楽しかったです。
――09 Camouflageについて、とてもシンプルな音数なのに広がりがあり、透明感と歪んだ感じと共存している世界観がたまりません。こちらの楽曲についてもどのような経緯で生まれたのでしょうか? また制作に使用した楽器や機材などにもついても教えていただけますでしょうか。
鈴木:NativeInstruments MaschineStudioでプログラムしたドラムがベースになってます。90年代のUK的なマシンのボトムと生ドラム&ブレイクビーツの方向性ですね。Maschineライブラリーはブレイクビーツっぽく使用する事が多いのですが、実際はほとんどプログラミングされてるので自由にテンポを変えられるのが便利で気に入ってます。歪みギターについてはnonとジャムった時に録音したサウンドを加工、後半に出てくるFuzz Factoryを使ったトリッキーなソロはそのまま使ってます。ある程度オケの形が出来た時にnonに聴いてもらったら「私こんなの弾きました??」と目を丸くしてましたが、エフェクターだけでなく色々な小道具でギターを弾いてたのが面白かったです。
non:ギターはGrecoのEG-900、エフェクターはBIG MUFFやFuzz Factory、BOSSのFZ-5などを組み合わせて使っています。Blues Driver(BD-2)は粒感というか、ザラザラな質感を出したいときに重宝します。ディレイタイムを最長にして、サステインがかなりある状態にしてから、瓶や缶などでノイズを出していきます。使う小物によって音が結構変わるので面白いですよ。マジックテープの裏のギザギザ部分とか…!
鈴木:色々出てくるから最初は何事かと思ったのですけどね。“もはやギターでなくてもいいのかも”とか言いながら録ってたのですが、実験的な良い音だなぁって。
アルバム『OVERKILL』
2020年4月22日(水)発売
MJRF-001/¥2,000(税別)
◎CD(デジパック)/配信(4月22日配信スタート)
<収録曲>
01. Hanamogera
02. Overkill
03. Pluto
04. Rain Bringer
05. Mojera
06. Master & Slave
07. Prism
08. DJ non Machine Language
09. Camouflage
10. シナプス旅行
11. 2019
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