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ファンク系ブルースを生み出したB・B・キングの『コンプリートリー・ウェル』

“キング・オブ・ブルース”と呼ばれたB・B・キングは、音楽ファンなら誰もが知るビッグネームである。しかし、ブルースマンとしての彼は、日本やイギリスでは白人に魂を売ったアーティストとして語られることも多い。僕は彼をブルースマンとして捉えることがそもそも間違っているのではないかと考えている。もちろん、キャリアの初期(60年代中頃までか)はブルースマンとして捉えるべきだし、言うまでもなくブルースギターの名手でもある。

しかし、60年代後半からは、白人のオーディエンスが増え、ロックやファンク、ソウルに急接近しており、その姿もまたB・B・キングなのである。彼は今で言うアメリカーナ的なスタンスで捉えるのが正しいと思う。今回取り上げる『コンプリートリー・ウェル』は白黒混合の名うてのミュージシャンをバックに制作された名盤であり、収録曲の「スリル・イズ・ゴーン」は70年のグラミー賞を受賞している。

■ブルースは洗練されR&Bや ソウルへと進化

アメリカ南部で生まれたカントリーブルースがシカゴブルース〜ジャンプブルースへと進化するのは、南部のプランテーションで働く黒人が都会に出て、工場などで働くようになったことと無縁ではない。都会生活で徐々に生活が良くなるにつれ、音楽もまた都会化し洗練されたものになるのが必然だろう。エレクトリック化したブルースは、ジャズやブギと結びついて、より都会的なR&Bへと変貌していき、やがてはソウルやファンクへと姿を変えていくのである。

B・B・キングはそういった黒人音楽の流れの中で、先人たちのエッセンスを吸収しつつ独自のギタースタイルを生み出し、幼少期に経験したゴスペルをもとにしたパワフルなヴォーカルとの両輪で40年代終わりにデビューする。

■キング・オブ・ブルース

51年の暮れには「スリー・オクロック・ブルース」が大ヒット、十八番の「エブリデイ・アイ・ハブ・ザ・ブルース」「スイート・リトル・エンジェル」など、次々とヒット曲を生み、若手ブルースマンとして大いに注目を浴びている。56年にリリースしたデビューアルバム『シンギン・ザ・ブルース』は上記のヒット曲を中心に選曲された作品で、ブルースマンとしての彼の代表作のひとつである。

トップスターとなったこの56年には342回のコンサートが行なわれており、彼の肉体的なタフさがよく分かる。この年は54年にデビューしたエルヴィス・プレスリーとラジオで共演(他の出演者にはレイ・チャールズ(26歳)もいる)しており、ふたりでスナップ写真を撮っていることからも、彼は他の多くのブルースマンとは異なり、早い時期から人種を問わず活動していたようだ。

60年代に入ると『ライブ・アット・ザ・リーガル』(’65)や『ザ・ジャングル』(’67)など名盤を次々とリリース、旺盛なライヴ活動もあって、まさに“キング・オブ・ブルース”の名をほしいままにする。特に『ライブ・アット・ザ・リーガル』での粘っこいギターワークは素晴らしく、僕がこのアルバムを最初に聴いたのは中学生の頃だが、マイク・ブルームフィールドやピーター・グリーン(フリートウッド・マック)らが、いかにB・B・キングの影響を受けているか思い知らされたものだ。

■ブルースマンからアメリカーナ系 アーティストに

彼はギターもヴォーカルもべらぼうに上手いし、人より好奇心も旺盛だったのだろうが、ブルースでトップに立った後、その位置には安住せず新しい音楽を求めて試行錯誤していく。それが60年代の終わりから70年代中頃まで続くロックやファンク系のアーティストたちとのコラボである。そして、この取り組みが日本やイギリスなどのブルースファンの神経を逆撫でし、白人に媚びるヤツとして見られるのだが、もうこの時点で彼はブルースマンというよりはアメリカーナ音楽のアーティストになっていたのである。

事実、彼が影響を受けたとして挙げているアーティストの中には、ジーン・オートリー(歌うカウボーイと呼ばれた初期のカントリーシンガー)、ジミー・ロジャーズ(ブルースマンではなく、ヨーデルを取り入れた初期のカントリーシンガーのほう)、ジャンゴ・ラインハルト(フランスのジャズギタリスト)、チャーリークリスチャン(テキサス出身のジャズギタリスト。初めてエレキギターを使ったミュージシャンとして知られる)など、カントリーやジャズのアーティストが含まれており、この時代のブルースマンには珍しい雑食性だ。ブルースやR&B系のアーティストでカントリー系の音楽に影響を受けたと公言しているのは、他にはゲイトマウス・ブラウン、レイ・チャールズ、バーバラ・リンぐらいではないだろうか。

■ロックやファンクへのアプローチ

そして69年、16枚目のアルバム『ライブ&ウェル』のB面(A面はライヴ。B・Bのブルースギターが炸裂する名演)で、プロデューサーに若手のビル・シムジク(後にイーグルスやジョー・ウォルシュのプロデューサーで知られる)を迎え、ニューヨークで活動するソウル/ファンク系のミュージシャンに加えて、アル・クーパー、ヒュー・マクラッケン、ポール・ハリスといった白人アーティストをバックにつけ、いよいよB・Bは新たなスタートを切る。

このアルバム、出来は悪くないが、A面はブルースだがB面はファンク/ソウル系のブルースなのでまとまりはない。若いシムジクにとって、一枚まるごとファンク/ソウル系のブルースで勝負するのは怖かったのだろうと思われる。ところが、このアルバムがチャートで好成績を収め、予想外のヒットを記録する。

■本作『コンプリートリー・ウェル』 について

このヒットに気を良くしたレコード会社とシムジクは、この路線(ほぼ同じメンバー)で次作のレコーディングを決定、それが本作『コンプリートリー・ウェル』である。まだファンク系のリズムに慣れないのか、彼のギターがリズムに乗り切れていないところが見受けられるものの、決して相性は悪くない。

ベースにはキング・カーティスのバックも務める名手ジェリー・ジェモット、ドラムはドニー・ハサウェイのライヴ盤でもお馴染みの一流セッションプレーヤーのハーブ・ラヴェル、セカンドギターにはニューヨークを代表するギタリストのヒュー・マクラッケン、そしてキーボードにはCSN&Y人脈のポール・ハリスが参加している。エンジニアには、後にザ・バンド、ローリング・ストーンズ、ジェシ・デイヴィスなどを手掛けるジョー・ザガリノがシムジクの要請で加わっているのも興味深いところだ。

収録曲は全部で9曲。「No Good」のような3連のブルースもあるが、ジェリー・ジェモットのファンク的なシンコペーションが新しいスタイルとなっている。「So Excited」「You’re Losin’ Me」「Cryin’ Won’t Help You Now」のようなファンク系ブルースは今聴いてもカッコ良い仕上がりで、サザンロック的な感覚も感じられる。10分に及ぶ「You’re Mean」はソロを回すだけのジャムセッションで、長尺曲が多かった当時のロックシーンを意識したものであろう。

そして、何と言っても本作の目玉は、彼の代表曲のひとつ「The Thrill Is Gone」である。彼のソウルフルなヴォーカルとドラマチックなギターソロが堪能できる作品というだけでなく、この手のアルバムには珍しいストリングスとソウル風味のエレピが、これまでにないスタイルのブルースを生み出している。この曲はR&Bチャートで3位、ポップチャートでも15位となって、翌年のグラミー賞受賞につながっていく。

■本作以降のレコーディング

本作の成功もあって、翌年の『インディアノラ・ミシシッピ・シーズ』はレオン・ラッセル、キャロル・キング、ラス・カンケル、ジョー・ウォルシュらが参加した極めてロック色の濃い作品となっており、こちらも極上の仕上がりである。71年にはアレクシス・コーナー、ピーター・グリーン、スティーブ・ウィンウッド、クラウス・フォアマン、スティーブ・マリオット(ハンブル・パイ)、ジム・ゴードン(デレク&ドミノス)、リンゴ・スターなどなど、豪華なメンバーが参加したロンドン録音の佳作『イン・ロンドン』をリリースしている。そして、72年にはジョー・ウォルシュ、タジ・マハール、ジェシ・デイヴィスらをゲストに迎えた『L.A・ミッドナイト』で、ロック界にもB・B・キングの名前を印象付けることになる。

TEXT:河崎直人

アルバム『Completely Well』

1969年発表作品

<収録曲>

1. ソー・エキサイテッド/So Excited

2. ノー・グッド/No Good

3. ユーアー・ルージン・ミー/You’re Losin’ Me

4. ホワット・ハップンド/What Happened

5. コンフェッシン・ザ・ブルース/Confessin’ the Blues

6. キー・トゥ・マイ・キングダム/Key to My Kingdom

7. クライン・ウォント・ヘルプ・ユー・ナウ/Cryin’ Won’t Help You Now

8. ユーアー・ミーン/You’re Mean

9. スリル・イズ・ゴーン/The Thrill Is Gone

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