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MONKEY MAJIKのハイブリッドロックの本質を『thank you.』から考える

20周年記念公演『MONKEY MAJIK Road to ~花鳥風月~』を行なっているMONKEY MAJIK。通算12枚目のオリジナルアルバム『northview』もリリースされ、アニバーサリーイヤーのムードが否応にも盛り上がってきた。メンバー全員が現在も宮城県在住の加日混合バンド。彼らの音楽性を『thank you.』から探ってみよう。

■加日混合のハイブリッドロック

MONKEY MAJIK公式サイトのプロフィールにこうある。「フロントマンのカナダ人兄弟・Maynard-メイナード(Vo&Gu)とBlaise-ブレイズ(Vo&Gu)、日本人のリズム隊・TAX-タックス(Dr)とDICK-ディック(Ba) からなる仙台在住の4ピースハイブリッドロック・バンド」。

ハイブリッドとは“Hybrid”のこと。自動車を始め、あらゆる工業製品や技術に使われているので改めて訳すまでもないだろうけれど、異種のものを組み合わせたもの…という意味である。重箱の隅をつつくようだが、上記プロフィールが“ハイブリッド・ロックバンド”ではなく、“ハイブリッドロック・バンド”となっている点に注目してみた。

MONKEY MAJIKは加日混合メンバーのロックバンドだからその構成がハイブリッドであるということを示すのであれば、ハイブリッドなロックバンドということで“ハイブリッド・ロックバンド”と表記するのが適切なように思う。だが、“ハイブリッドロック・バンド”となっているということは、ハイブリッドロックがバンドにかかっている。つまり、彼らはハイブリッドなロックをやっているバンドということだ。それでは、ハイブリッドロックとは何かと言うと、件の和訳を当てはめれば、異種のものを組み合わせたロックミュージックということになる。

加日混合バンドであることも間違いないので、MONKEY MAJIKがハイブリッドなロックバンドであると言っても差し支えないはずであるから、“ハイブリッド・ロックバンド”としてもいいのである。そこを“ハイブリッドロック・バンド”としているには、おそらくそういう意図があるのだろう。彼ら自身もマネジメントも“そんなことはない”と言うかもしれないが、そんなことはあるのである。以下、彼らのメジャー第1弾アルバムであった『thank you.』からそれを紐解いていきたい。

■ヒップホップ以降のサウンド

まず、今となってはそれをハイブリッドと言ってはいけないのではないかと思うけれど、リリースの時点でそう呼んで良かったと思われるサウンド面から片付けていく。

M1「turn」がアコギとパーカッションから始まっているのが象徴している通り、MONKEY MAJIKのサウンドはアコースティック寄りと言えると思う。もちろんエレキも使っているし、M5「雪合戦」辺りはハードロックなテイストがあったりもするので、あくまでも“寄り”である。これはイメージでしかないが、木綿的な柔らかさというか、オーガニックな雰囲気というか、少なくともアルバム全体を通しては鋭角的な印象は薄い。アンサンブルも比較的シンプルである。

その中でも聴き逃せないのは、ヒップホップ的要素である。M2「another day」やM5「雪合戦」でのスクラッチノイズ、M8「all by myself」やM12「種」での同期するリズム音辺りがそれを感じるところ。M1「turn」やM12「種」でのラップ的な歌唱もそれっぽい。あと、全体的にループミュージック的なサウンドアプローチも目立つ。印象的なギターリフがリピートされて、そこにヴォーカルが乗っていく。そんなスタイルが多い気がする。

もちろんMONKEY MAJIKはMaynardにしてもBlaiseにしてもギターを弾いているし、生のステージもやっているわけだから、サンプリングしたものをループさせてはいないことは確実だろうけど、そのベーシックなバンドアンサンブルは、いかにもヒップホップ以降のサウンドといった印象である。M2「another day」やM7「between the lines」、M10「Around The World」といったファンキーなナンバーもその印象を後押ししているし、ややレゲエっぽいM3「thank you」もそうであろう。

ただ、その辺はすでに断りを入れた通り、ことさら彼らのハイブリッドを強調すべきことではないとは思う。1990年代前半には日本のヒップヒップも浸透していたわけだし(「今夜はブギー・バック」や「DA.YO.NE」のヒットは1994年)、2000年代も半ばになると所謂ミクスチャーと言われる音も珍しいものではなくなっていた。オーガニックなバンドサウンドにヒップホップ的な手法を取り込んだことは確かに異種なるものの組み合わせではあるし、MONKEY MAJIKの特徴ではあるけれども、そこが最もハイブリッドな点ではないということだ。

■日本語詞の巧みな操り方

それでは、どこがハイブリッドかと言うと、これはもうお分かりの方も多かろう。歌詞である。MONKEY MAJIKの歌詞には、英語と日本語という、まさしく異種の言語が混在している。

《I wanna fly/Fly me up so high/Take me to the skies/I won’t get by/いつまでも君の声が僕の心で響く/If you can’t believe me take me home》(M6「fly」)。

上記が典型である。日本で作られた楽曲の中に英語が出て来ることは珍しいものではない。というか、2000年代ともなるとそれが普通だったと言える。パンクでは全編英語詞がスタンダードだったほどだ。だが、それも日本語詞の中に英語詞が出て来る場合であって、英語詞の中での日本語詞…というとそれほど頻出することではなかったと思う。「fly」は発売当時、全国のFM33局でパワープレイを獲得しているのだが、ラジオから流れてきた「fly」を初めて聴いた知り合いが、“洋楽かと思って聴いていたら、いきなり《いつまでも》と日本語が出て来てびっくりした”と言っていたことを個人的には思い出す。

いや、それにしても、仏語や独語、北京語、広東語、ハングルとかが混じっているならまだしも、混ぜ具合が違っても英語を混ぜるのはハイブリッドとは言い難い…という指摘もあるかもしれない。分からなくもない。よって、そのMONKEY MAJIKの英日混合詞の特徴をもう一段階深堀りすると──日本語詞のメロディーへの乗せ方が絶妙かつスムーズであることが挙げられると思う。英語詞はMaynardとBlaiseが、日本語詞はTAXが作っている。それぞれが各言語のネイティブなだけあって当然おかしな箇所は見受けられないし、音符への言葉の乗せ方も実に巧みだ。筆者は日本語以外喋れないので、正直言って英語詞についてはよく分からないけれども、日本語のイントネーションに不自然なところをあまり感じないのである。M6「fly」の《いつまでも君の声が》が顕著であろう。この他にも気付いたところをいくつか挙げると──。

《日差しが強くなるほどに動き出す僕の心/訳なく流れる汗君の手を取る/静寂から抜け出して迷わず行こう/夏の風に押されてあの場所へと…》(M2「another day」)。

《わがままを言って困らせないでよね》《一人じゃヤダって、脹れてみせるけど》《Down 理解はしてる。君の気持ちあの日のまま》(M11「STAY」)。

《もしも一つだけ願いが叶うなら/僕らの育てた花が咲くことを》《二人の出会いが重なるように/夢のつぼみをつけるのさ》(M12「種」)。

M2「another day」の歌はやはりラップ的でもあって、あまりメロディーの抑揚がないところも日本語的と言えるかもしれないが、《訳なく》《夏の》辺りのイントネーションを強調しているところに──何と言うか、日本語への敬意のようなものすら感じるのである。

Maynardは外国語指導助手として東北地方の小中学校で英語を教えていたというから早い時期から日本語は話せていたのだろうし、Blaiseにしても日本語で会話しているのをテレビで拝見したこともあるので、両名とも流暢に日本語を操れることは分かる。だが、そうは言っても彼らの母国語は英語と仏語であるからして(※カナダは二言語主義)、日本語を話す様子は、ぎこちないとは思わないが、少なくともメジャーデビューの時点では、日本語が母国語ではない人の話す日本語といった感じであったことは否めない。

それが悪いと言うことではなく、日本語が母国語ではない人が日本語で歌うと、かつてThe Policeの「De Do Do Do, De Da Da Da」(1980年)の日本語詞版であったり、Styxの「Mr.Roboto」(1983年)がそうであったように、発音やイントネーションが微妙に感じられるものだ。その微妙な感じが楽曲のおもしろさにもなっているのでこれもまた否定するものではないのだが、日本語のネイティブにとっては違和感があることは確かだろう。しかしながら、MONKEY MAJIKの楽曲でそれをあまり感じないのは、ヴォーカルふたりの語学力はもちろんのこと、日本語歌詞の作詞センスが絶妙であるからではないかと思う。

■J-POPのマナーへの敬意

さらに、その歌の展開が極めて日本的な点もMONKEY MAJIKのハイブリッドロックの特徴であろう。彼らの楽曲には所謂Aメロ、Bメロ、サビがある。Cメロがあることも珍しくない。『thank you.』ではM6「fly」、M10「Around The World」のシングル曲が特に分かりやすいのだが、ジャストJ-POPなのである。M10はソウル、ファンク色が強く、その上、イントロではチャイナなテイストも加味しているから、そこだけで見たらややマニアックではあろう。しかしながら、実験的になってないのは、巧みに歌詞を乗せた件の歌メロをJ-POPのマナーに則って展開させているからであろう。

それが親しみやすさ、ポップさにつながっていると思われる。まぁ、M10はそれを徹底したがゆえに…だろうか、サビでの日本語がやや外国人的になってしまっているように思えるのはちょっと残念な気がしなくもないが、それにしても一般的にはその発音だけでは感情の起伏に乏しいと言われる日本語にエモーションを与えることには成功していると思う。そう考えると、それも十分にハイブリッドな要素と言えるのかもしれない。

さて、これは個人的な感想になるが、最後にもうひとつ。そうした加日混合のバンドがそれぞれの音楽的バックボーンも上手く融合、昇華させたものが(少なくとも『thank you.』における)MONKEY MAJIKの特徴であり、それが彼らのハイブリッドロックと言えると思う。ただ、あえて分析すればそういうことであって、それは決して小難しいものではないということを強調したい(そもそも本稿は“・”の位置にイチャモンを付けているようなものであるし…)。端的にそれが分かるのはタイム。

『thank you.』は全12曲で収録時間42分程度、M6「fly」が4分を超えるが、あとはどれも3分程度である。短けりゃいいというものではないだろうが、少なくとも流行歌、大衆歌は聴きやすいほうがいい──というか、聴きやすいから流行歌、大衆歌になるのだ。そこもまたMONKEY MAJIKの優れたところであり、その点もハイブリッドと言えるのかもしれない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『thank you.』

2006年発表作品

<収録曲>

1.turn

2.another day

3.thank you

4.on and on

5.雪合戦

6.fly

7.between the lines

8.all by myself

9.delayed

10.Around The World

11.STAY

12.種

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