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職人ミュージシャンたちの旨味が凝縮されたスタッフの『スタッフ!!』

“よく歌い、よく跳ねる”、それがスタッフの音楽だ。有名無名を問わず、数え切れないほどのレコーディングセッションに参加した職人気質のミュージシャンたちが、シンガーを迎えずに自分たちの「歌心あるパフォーマンス」を披露するためにリリースしたアルバムが本作『スタッフ!!』である。都会的で瀟洒なフュージョン作品が登場し始めた76年、南部のソウルやR&B、スワンプロックなどの作品を支えてきた彼らはデビューした。泥臭いグルーブ感と骨太のサウンドを武器に、インスト曲ではあるが、まるで歌っているかのような人間味あふれる演奏で聴く者を魅了した。21世紀に入って、多くのフュージョン作品が古臭くなっていくなか、本作は未だに新鮮な旨味に満ちていて、繰り返し聴きたくなるアルバムである。

■フュージョンのタイプ

そもそも、フュージョンといってもいくつかのタイプがあって、人によって好きなスタイルは異なる。ひとつは、ジャズをベースに訓練を積んだ超絶テクニックを聴かせるスタイル。ギターならジョン・マクラフリンやアル・ディメオラ、ベースならジャコ・パストリアスやスタンリー・クラーク、ドラムではビリー・コブハムやデイブ・ウェックル、キーボードならジョー・ザヴィヌルやジョージ・デュークといった超絶技巧を持ったアーティストたち。

もう一つは、ソウルやR&Bをベースにした強力なグルーブ感と「味」を感じさせるスタイル。ギターならコーネル・デュプリーやデヴィッド・T・ウォーカー、ベースではチャック・レイニーやゴードン・エドワーズ、ドラムではバーナード・パーディーやスティックス・フーパー、キーボードではリチャード・ティーやジョー・サンプルといった過不足のない技術(めちゃくちゃ上手くてツボを押さえた演奏)で勝負するアーティストたちがいる。

■スタッフのメンバー

スタッフのメンバーはベースのゴードン・エドワーズを中心に、ギターにはコーネル・デュプリーとエリック・ゲイル、ドラムにクリス・パーカーとスティーブ・ガッド、キーボードにリチャード・ティーという6人編成である。メンバーのバックボーンは上記のフュージョンのタイプに当てはめると完全に後者で、ソウルやR&Bをベースにしたサウンドが持ち味である。彼らは基本的に長い間歌伴を務めてきたミュージシャンである。デュプリーやエドワーズがバックを務めていたキング・カーティスやハンク・クロフォードはインストバンドじゃないかと言う人がいるかもしれないが、カーティスやクロフォードのグループはサックスがシンガーの代わりを務めているので変形歌伴だと言えるだろう。

■ドラムの人選

ただ、不思議なのはドラムの人選である。ここはエドワーズをはじめ、デュプリーやティーと一緒に数多いセッションをこなしてきたバーナード・パーディーが本来は打って付けのはずなのだが、なぜかパーディーはスタッフには参加しなかった。

最初、僕はパーディーのパワーを求めてクリス・パーカーとスティーブ・ガッドのツインドラムにしたのかと考えたのだが、実際には当時ブレッカーブラザーズのメンバーとしても活動していたパーカーがツアーで抜ける可能性が高かったために、ガッドをセカンドとしてスタンバイさせていたというのが真相のようだ。パーディーほどのグルーブ感は持ち合わせていないのは確かだが、パーカーは弟のエリックとともに住んでいたウッドストックでは大きな信頼を得ていた優秀なドラマーであり、69年頃にはすでにプロとしての活動をスタートさせている(51年生まれなので、プロデビューはなんと18歳)。71年になるとサイケデリックロックのホリー・モーゼズのメンバーとしてデビューするもののアルバム1枚のみで解散する。その後はウッドストックでポール・バタフィールドのベターデイズに参加し、ロジャー・ホーキンスやアル・ジャクソンのような渋くて重いドラムプレイで大きな評価を得る。

スティーブ・ガッドも当時はまだそんなに知られていなかったが、ジョー・ファレルやボブ・ジェームスといったCTIでのプレイをはじめ、ロック界ではケイト&マクガリグルやハース・マルティネスといった渋いSSW系の作品で、ジム・ケルトナーばりのシンコペーションの効いたプレイを既に披露していたのである。

スタッフはドラムのふたり以外は黒人のプレーヤーであるが、リーダーのエドワーズはシンプルでヘヴィなパーカーとガッドのプレイに惚れこんだのだろう。アレサ・フランクリンやキング・カーティスなど、ニューヨークのスタジオでの仕事が多かったエドワーズ、デュプリー、ゲイル、ティーらの特徴と、マスルショールズ系のような特徴を持つパーカー、オールマイティの技術を持つガッドのコラボレーションで、新しいサウンドが生み出せると考えたのではないか。

■ジョー・コッカーとの出会い

黒っぽく枯れた声を持つイギリスを代表するシンガーのジョー・コッカーは、1972年までは同じくイギリスのグリース・バンドをバックに従えて活動していたが、アメリカに渡りリチャード・ティー、コーネル・デュプリー、チャック・レイニー、バーナード・パーディーらをバックに迎え、『アイ・キャント・スタンド・ア・リトル・レイン』(‘74)『ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル』(’75)の2枚の力作を立て続けにリリースする。このセッションにエドワーズは参加していないが、ティーとデュプリーに思いの他コッカーの歌と自分たちの音楽がマッチしたことを聞き、新グループの構想を練っていく。

そして、コッカーは翌年には結成されたばかりのスタッフをバック(パーカーは参加していない)に迎えた『スティングレイ』(‘76)をリリース、この作品では彼らの持ち味である歌を活かす最高の演奏を聴かせてくれたのである。コッカーの長い音楽生活の中でも、この『スティングレイ』は間違いなく彼の最高傑作であり、バックを務めたスタッフはコッカーとの『スティングレイ・ツアー』でも大成功を収めている。

■本作『スタッフ!!』について

76年に本作がリリースされた時、華麗なテクニックを披露するタイプのフュージョンでなかったがゆえに、シンプルかつ歌心のあるグルーブ感に物足らなさを感じるリスナーは少なくなかったと思う。彼らの狙いはシンガー不在でも如何に歌心にあふれた演奏ができるかどうかであり、過不足のない演奏に加えパーカッシブかつ人間味の感じられるリズムを演出することでもあった。それは華美な演出とは正反対の結果となり、特に若いリスナーには地味すぎるサウンドに映ったようだ。ところが、フュージョンのファンではないSSW系のサウンドを好む日本人たちに彼らの音楽は圧倒的に支持され、78年には日本公演時のライヴ盤(日本でのみリリース)も制作されているほどだ。

収録されているのは全部で9曲。全曲、名演と言っていい。特にリチャード・ティーはピアノ、エレピ、オルガンと八面六臂の活躍だ。ピアノはパーカッションのように弾き、ゴスペルライクな泥臭い演奏を聴かせる。逆に、エレピとオルガンは都会的なプレイで好対照となっている。デュプリーとゲイルのギターは歌心にあふれるもので、勘所を押さえた燻し銀のような風情が感じられる。パーカーとガッドのドラムはツインドラムであることを感じさせないぐらい抑えたプレイで、歌伴好きにはたまらないドラミングである。ライヴの時は観客へのサービスで派手なドラムソロもやるのだが、スタジオ録音時は自分の役割をしっかりわきまえている。エドワーズのベースはどっしりと重く、出る時は出ると言ったベーシストの鑑のようなプレイである。デビッド・フッドやドナルド・ダック・ダンが好きなら間違いなくハマる。

「ハウ・ロング・ウィル・イット・ラスト」はゲイル作で、初出はチャック・レイニーの初ソロ作『ザ・チャック・レイニー・コーリション』(‘72)。デュプリーの初ソロ作『ティージン』(’74)にも収録されているが、本作所収バージョンの出来が最高だと思う。アルバムの白眉は「ウォント・サム・オブ・ジス」「ルッキング・フォー・ザ・ジュース」「素晴らしき恋の想い出(原題:Reflections Of Divine Love)」「ハッピー・ファームス」あたりか。「ウォント・サム・オブ・ジス」のティーのピアノ独演部分から後半の盛り上がる部分は彼らの十八番のセクションで、素晴らしいグルーブ感が味わえる。

残念なことに、1993年にリチャード・ティー、94年にはエリック・ゲイル、2011年にコーネル・デュプリーが亡くなっており、スタッフの演奏は2度とライヴでは聴けないのである。もし、彼らの音楽を聴いたことがないなら、本作もしくは『ライヴ・アット・モントルー 1976』か『ライヴ・スタッフ』(‘78)あたりを聴いてみてほしい。また、デュプリーのソロでライヴ作『Uncle Funky』(‘92)は、ベースにウィル・リー、キーボードはリチャード・ティー、ドラムにはエリック・パーカー(クリス・パーカーの弟)を迎えて、スタッフ時代に負けず劣らずの素晴らしい演奏を繰り広げており、オススメ(入手困難だが、この時のDVDもあり)だ。

TEXT:河崎直人

アルバム『Stuff 』

1976年発表作品

<収録曲>

1.フーツ/FOOTS

2.いとしの貴女/MY SWEETNESS

3.ウォント・サム・オブ・ジス/(DO YOU) WANT SOME OF THIS

4.ルッキング・フォー・ザ・ジュース/LOOKING FOR THE JUICE

5.素晴らしき恋の想い出/REFLECTIONS OF DIVINE LOVE

6.ハウ・ロング・ウィル・イット・ラスト/HOW LONG WILL IT LAST

7.サン・ソング/SUN SONG

8.ハッピー・ファームス/HAPPY FARMS

9.ディキシー/アップ・オン・ザ・ルーフ/DIXIE / UP ON THE ROOF

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