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『trialog summit』でbetcover!!が“聴けよ!”と熱いパフォーマンス

blkswn publishersのコンテンツディレクターである若林恵とソニーが仕掛ける、次世代のクリエイティブな生き方について“三者対話”を通して考えるプラットフォーム『trialog(トライアログ)』。「VOL.0」を含めてこれまでに計8回開催し、さまざまなテーマを設けては未来を見据えて対話・思考してきた中、初となる1DAYイベント『trialog summit』が9月15日(日)に渋谷ヒカリエ ホールBで行なわれた。

『trialog summit』は“多様な未来を考える12日間”として、9月11日(水)〜22日(日)にかけて渋谷〜原宿〜表参道エリアを中心に多拠点でカンファレンスや体験プログラムを行なう都市回遊型イベント『SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2019』のオフィシャルプログラムとして実施。同イベント全体のテーマである“NEW RULES.〜新しい価値観〜”を踏まえ、『trialog summit』では“Alt.Rules オルタナティブなルール/ルールのオルタナティブ”(Alt.=Alterbative:「これまでとは違う」「代わりの」の意)をテーマに設定し、4つのトークセッションおよび1つのミュージックセッションから“ほんとうに欲しい未来”を考えていく。

■■ トークセッション1 ■ News ほんとうに欲しい情報はなにか?

トークセッションには、さまざまな世代や職種のクリエイターが登壇。まずは「News ほんとうに欲しい情報はなにか?」をキーワードに、haru.(『HIGH(er)magazine』編集長)×上出遼平(テレビ東京ディレクター)×平山 潤(『NEUT Magazine』編集長)による三者対話がスタート。雑誌とテレビ番組を作ることの意義、すべてがわかりやすくなってしまっている=○×、白黒付けすぎな情報発信の危うい現状などが、メディアに携わる三者の間で議論された。たとえば、フェミニズムについて伝えたいとき。読者や視聴者に対して取っつきにくくならないようにマーケティング用語を使わないようにするといった、共感を生む、伝えるための入口・余白作りが大切という話も印象的だった。

■■ トークセッション2 ■ Fashion ほんとうに欲しい 見た目はなにか?

続いては「Fashion ほんとうに欲しい見た目はなにか?」をキーワードに、ラブリ(モデル/アーティスト)×Shun Watanabe(スタイリスト)×佐久間 裕美子(文筆家)がトークセッション。リア充を見ると自分がつまらなく感じてしまう時代のムードに触れつつ、“影響されずに生きていくには自信が必要。目の前のやらなきゃいけないことに集中したほうがいい”“誰といる自分が好きかを考える”“最初はコピーでもいいから、好きを見極めていく”“幼少期の頃の好みを思い出してみるといいかも。自分の中に蓄積しているアイデンティティがあるはず”…など、ファッションで悩む人へのヒントがたくさん飛び出し、LGBTや就活ルックについても話が広がった。

■■ Future Showcase by Sony ■

また、同イベントでは「Future Showcase by Sony」と題し、梶 望(ソニー・ミュージックレーベルズ)×水口哲也(Enhance代表、trialog共同企画)×小堀弘貴(ソニー)が、新しいVR体験を創ることを目的としたソニーグループ横断のプロジェクト『PROJECT LINDBERGH』を紹介するコーナーも。宇多田ヒカルのソニーストアでのイベント『「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」Sony Store Days』の映像を交えながら、VRでアーティストとファンの距離感が変えられるんじゃないかという試み、言い換えれば“ほんとうに欲しい未来”についてのトークが展開された。会場で『PROJECT LINDBERGH』の体験展示も実施。目の前で宇多田ヒカルに歌われる没入感の凄さなど、来場者は新しいVR体験を楽しんでいた。

■■ トークセッション3 ■ Company ほんとうに欲しい 会社はなにか?

約30分の休憩を挟んで、3つ目のトークセッションでは、酒向萌実(株式会社GoodMorning代表)×對馬哲平(ソニー株式会社最年少課長)×篠田真貴子(元ほぼ日CFO)が「Company ほんとうに欲しい会社はなにか?」をキーワードにディスカッションを展開。ここでは“会社で働くことはグッドかバッドか?”を切り口に、大企業とベンチャー企業の見え方、ソーシャルグッドのあり方へと話が広がり、“(妊娠や身内の不幸など)人生の変動を前提にした会社があったら素敵”という未来が見えてきた。“大企業はどのくらいニーズに答える準備をしているのか?”“AIの発達で人間が必要なくなるのでは?”と質疑応答の時間も熱を帯び、新しい働き方のヒントがいくつも散見できたように思う。

■■ トークセッション4 ■ Identity ほんとうに欲しい アイデンティティはなにか?

「Identity ほんとうに欲しいアイデンティティはなにか?」をキーワードにした最後のトークセッションでは、陳暁夏代(DIGDOG llc.代表)×TAITAN MAN(Dos Monos)×若林 恵(blkswn publishers)が登壇。自分の表現がそのまま本人と捉えられすぎてしまうことの悩ましさに始まり、日本独特のカテゴライズ感が浮き彫りになっていく。カテゴライズの種類が少なすぎる上、無理に分けていて、結果何かを殺してしまっているかもしれない問題。他人は他人と割り切れないフィルターバブル状態のSNS。議論が熱を帯びる中、“自分らしさや俺の本質とは何かなんて神学論争にしかならない。その本質論からいかに脱却するか”“人は変わっていくものなので、アイデンティティも変動的でいい。意見が毎日変わるのがリアル”という考え方には多くの人がハッとさせられたのではないだろうか。

■■ ミュージックセッション ■

そして、『trialog summit』を締め括るミュージックセッションでは、“いま観ておくべきミュージシャン”としてヤナセジロウによるソロプロジェクト、betcover!!が登場し、「異星人」「中学生」など4曲をアコギ弾き語りで披露。小学5年でギターを手にして、中学で曲作りを始め、今年のメジャーデビューまで、ルールに縛られることなく突き進んできた彼は、トークパートで“横文字がわからないんですよ。頭がいい感じの言葉は嫌ですね。僕は絵本が大好きで、長谷川集平さんの『トリゴラス』とか。言葉数が少なく、子供にわかるような言葉で説明できて、そこから宇宙が広がるような。それが一番頭がいいと思う”と話したり、“betcover!!ってバンドをやってるんですけど、ここにいる人は誰も知らないみたいなんで……聴けよ!”とユーモラスに呼びかけたりと、強烈なインパクトを残す。パフォーマンスにおいては、時に激しく、時に繊細に声を震わせながら、情感豊かな楽曲を只ならぬセンスをもって聴かせ、“Alt.Rules オルタナティブなルール/ルールのオルタナティブ”を表現してみせた。

初の大型カンファレンスとなった『trialog summit』。これまでの当たり前が大きく変わりつつある“情報”“見た目”“会社”“アイデンティティ”をテーマにしたトークセッションを通して、参加した面々はそれぞれにオルタナティブなルールを考え、ルールというもののオルタナティブを想像していたように見受けられた。未来の社会がどうあってほしいのかを考えるヒントにももちろんなったはず。この日の経験を彼らがどう生活に反映させていくのかが楽しみだ。

■【関係者 コメント】

■若林 恵(trialog代表、blkswn publishers)

「上出さんが映像のことを“非言語の表現”と言ってたのは、けっこう重要かなと思いました。あと、Shunさんが出してた“おいしい”ってキーワード、あの判断軸も実はすごく有効性の高いものな気がします。主観や客観、自分のいろんなものを擦り合わせることができるのかなと。それと、篠田さんが話してたライフイベントの話。要するに、人生が不確実なものという前提が大事なんです。今の会社って“現行のシステムを動かすためには人が不確実であったら困る”になってるけど、それを逆に考えないといけない。最後のアイデンティティ問題も、“一貫性のある存在じゃないと困る”という前提の中から要請される何かでしかない可能性がありますよね。不確実や流動を前提とした社会を作っていけば、“自分はこうでなければならないかもしれない”とかアイデンティティを規定して、それに沿って生きなきゃいけないみたいな考え方自体も、もしかしたら放棄されていく可能性もあるかなっていうのはちょっと思いました。そこがあらためて確認できたのは大きいです」

■水口哲也(trialog共同企画、Enhance代表)

「今まではもっと短い時間の中でやってきたのが、休日に昼から夜までずっとやるっていう、初のサミットっぽい試みだったんですけど、非常に面白かったですね。本当に多岐にわたるというか、テーマも拮抗する、ある意味で相対するものになってて。最後の2つのトークセッション“会社”“アイデンティティ”なんかは特にそうだと思うんですよ。こういった対比するようなテーマを、特に若い世代の人たちが、同じ若い世代の人たちに囲まれて話す感覚はすごく刺激的でした。これまでに9回『trialog』をやってきましたけど、オーディエンスに30歳以下の人が増えてきたりしたおかげもあって、『trialog』自体のアイデンティティもどんどん変化し続けてる。そんなことを感じる一日でしたね」

■betcover!!

「今日のイベントはアウェーでとても緊張しました。イベントに惹かれたのは正直ヒカリエで演奏してみたかったのと、しかも音楽で出るのは僕だけってところで目立てるかなと(笑)。実際、デカいステージで気持ちよかったです。僕はけっこう肉体的で“ボカーン”みたいな感じの人間なので、デジタルの“ピコピコ”みたいな何を考えてるかわからないインテリの方たちの前で演奏するのも面白かったですね。来場者の方はオルタナティブに縛られてるというか、“ルールから逃げなければ!”っていうルールに縛られてるようにも見えたりして。でも、僕はルールも好きですけどね。そのほうが想像力が生まれるので。たとえば、ハワイの子供は怪獣が街を破壊することを想像できるのかなと、こないだふと思ったんですよ。日本に窮屈さがあるからこそ、社会やビルを“バコーン!”と一瞬で破壊するゴジラが生まれたんじゃないかって。だとしたら、ルールも“いいんじゃね!?”って感じます。トークセッションは難しかったですね。ラベリングの話とかは自分も年齢のことを取り沙汰されるのが以前はすごく嫌でしたけど、今はなんとも思わなくなりました。“結局、自分次第なんだな”って気付いたんです。誰に何を言われようと、周りがどうであろうと、自分がやることやって、自分が納得すればいいやって」

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