一瞬一瞬が革命だ――。今ツアーで毎公演のオープニングを飾ってきたSEの冒頭に英語で囁かれるこのフレーズ“Every moment is a revolution.”を全身全霊で体現し続けてきた旅だったに違いない。7月6日にスタートし、全国15都市を回ったOBLIVION DUSTのツアー『Gods Of The Wasteland Tour 2019』が9月1日、神奈川・横浜Bay Hallにてついにファイナルを迎えた。
前ツアー『Us Against Them Tour 2018-19』の終盤に左手首を骨折、現在も療養中であるK.A.Z(Gu)の不在を乗り越えて、KEN LLOYD(Vo)、RIKIJI(Ba)、サポートメンバーのARIMATSU(Dr)、YUJI(Gu)、RYO(Gu:7月27日より参加)という特別編成で敢行された今回のツアー。さらには全15公演を4ブロックに分けてデビューからの4作のアルバムを1ブロックにつき1作ずつ割り当て、ライヴの主軸として展開するというコンセプトの下に行なわれたツアーでもあった。
冷静に考えればワンツアーで4枚分のアルバムを踏襲するなど無謀の極みとも言える試みだが、それを見事に成し遂げてしまうのだから目を見張らずにいられない。しかも各ブロック内でも毎公演、セットリストを替えて臨むというこだわりようだ。“Gods Of Butterfly”と冠され、彼らの4thアルバム『BUTTERFLY HEAD』を中心に据えた埼玉からこの横浜公演までの最終ブロック3公演も然り。チャレンジングな旅のゴールを見届けようと駆けつけたオーディエンスの大歓声を浴びながら最終日は『BUTTERFLY HEAD』の1曲目でもある「No Regrets」で幕開けた。
穏やかならざる予感を秘めた「No Regrets」のずっしりと重いグルーヴが聴く者のみぞおち深くから揺さぶる。マイクを固く握りしめては右に左にとアグレッシヴな歌声を轟かせるKEN、RIKIJIのベースラインはいつにも増して扇情的だ。YUJIのハードエッジなサウンドに、ヘヴィネスの間隙を突くようにして立ちのぼるRYOの流麗なフレーズのコントラストが耳になんとも快い。ARIMATSUが放つビートに力強く支えられたアンサンブルはよりいっそうダイナミックに響いた。
“横浜、元気ですか? 『Gods Of Wasteland Tour』、ここが15カ所目、言わば終点となります。次の発車はいつになるかわかりませんので、思いきり楽しんで帰ってください。よろしく!”
「Never Ending」「Death Surf」とライヴの定番曲を早くもドロップ、瞬く間に熱狂と陶酔の坩堝と化したフロアにKENがそう告げると、ひときわ大きな歓声でオーディエンスも応える。メンバー同様にすべてを出し切る覚悟でここに集まっているのだと言わんばかり。ステージとフロアが常にお互いガチンコでぶつかり合ってきたからこその信頼と絆が目に見えるかのようだ。
ローを効かせたサウンドにサビでのハイトーンなヴォーカルがセクシーかつスリリングに絡む「Crawl」、押し出しの強いリフが躍動を煽る「Which Half Do You Own?」と再び『BUTTERFLY HEAD』の楽曲を畳み掛けたかと思うと「Lolita」や「Haze」といった鉄板チューンを折りに触れて投げ込むことで昂揚に化学変化を起こし、と展開は奔放自在。振り返るに2000年11月にリリースされた『BUTTERFLY HEAD』だが、その翌年、OBLIVION DUSTは一度、解散の道を選んでいる。作品が孕むそうしたギリギリの緊迫感は10数年余を経てもなお健在で、加えて最終日というのっぴきならなさも相俟っているのだろう。この日のステージには迫力という言葉を超えた並ならない闘志がみなぎっていた。
また、これまでの“Gods Of Butterfly”のブロックではやってこなかったという「Forever」もこの日は披露。分厚いディストーションに色を挿すメロディアスな旋律、『BUTTERFLY HEAD』の中では唯一の日本語を含んだ歌詞が新鮮だ。BメロでKENのヴォーカルをRIKIJIが追いかけるようにしてコーラスする輪唱スタイルも印象的な「Lucky #10」のポップ感にはOBLIVION DUSTの懐深く豊かな音楽性を改めて知らされた。
“今回のツアーに来てくれた方々、メンバーを代表してありがとうございます。本当にみんなのおかげでやってこれていると思ってます。ま、別れというのは寂しいものではございますけど、残りパパッとやって帰ろうかな、と”
終盤のMCでKENはそう口にした。前半の感謝は本気の言葉、後半はその照れ隠しだろう。9月23日には急遽、ファンクラブイベントとして東京・下北沢GARDENにてライヴ&トークが開催されることも自ら告知すると、“最後は暴れて、横浜の街を帰るときにちょっと恥ずかしいぐらいビチョビチョになってください”と挑発。間髪入れずに「Selfish」へとなだれ込み、一気呵成に駆け抜ける。
オーディエンスも一緒になって大合唱した「Evidence」ではクラウドサーファーが続出。“横浜! F×ck! F×ck! F×ck! カモン!”とKENが喉を振り絞ってシャウト、ステージからフロアーに目がけて水を撒きまくった「Sink The God」で興奮はクライマックスを突き抜けてなお激化の一途をたどった。
ラストは「Designer Fetus」だった。両手にマイクの“2本使い”でフロアーに声を求めては自身の歌声を弾丸のごとく飛ばすKENの勇姿、ここにきてまたひと回りもふた回りもフロントマンとしての存在感が増したのではないだろうか。KENだけではない、バンド全体がより屈強な佇まいを手に入れている。
OBLIVION DUSTにとって『Gods Of The Wasteland Tour 2019』はある意味、イレギュラーなツアーだったとも言えるかもしれない。逆境に挫けず、むしろ前進を選んだ彼らが手にしたもの、各地で革命を起こし続けたその真価はこの先に明らかとなるのだろう。それが今はただ待ち遠しい。
photo by 田中和子
text by 本間夕子
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