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フジファブリックが若者の光と影を描いた『TEENAGER』はゼロ年代邦楽の大傑作

8月28日、フジファブリック初のプレイリストアルバム『FAB LIST 1』『FAB LIST 2』が発売された。過去に在籍していたレベールの音源が『FAB LIST 1』、そして現在在籍しているSony Musicの音源が『FAB LIST 2』に、それぞれファン投票による投票上位15曲がそのまま収録されているので、ビギナーにもおすすめの作品集と言える。そのフジファブリックの名盤と言えば、やはりメジャー3rdアルバム『TEENAGER』だろう。

■10代のパワーと集中力

フジファブリックのアルバム『TEENAGER』について書くにあたって、何となく“10代”でググってみたら、まずは、30本塁打&85打点を記録している東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手や、レアル・マドリードからマジョルカへレンタル移籍した久保建英選手といった若きアスリートのニュースが上位に出てきた(8月24日時点)。なるほど。現時点で話題の10代と言えば確かにこのふたりだろう。異論があろうはずもない。清々しい気持ちにさせてくれる明るいニュースだ。だが、その一方で、それらに続く“10代”の検索結果としては、“「どうか生き延びて」中川翔子が夏休み終盤を迎えた学生にメッセージ”や、“「個性が持てない」悩む10代に、霜降り・せいやさん「自分も欲しい」”といったニュースが続く。“インスタで「いいね!」中毒に陥った10代モデルの告白”とか、“どうして日本の10代の少女は容姿に自信がないのか?”というものもあって、何だか穏やかではない。ニュース以外には、『10代のうちに知っておきたい折れない心の作り方』(水島広子著)や『10代のうちに考えておくこと』(香山リカ著)、『10代のための疲れた心がラクになる本』(長沼睦雄著)といった書籍を紹介するサイトも比較的上位に表示される。ネット内での“10代”は、華々しいものというよりは、どちらかとそれとは逆ベクトルでとらえられているようだ。

そのグーグル先生の見立ては、2019年8月後半の時点だけの限定的なものであることも否定できないけれども、普通に考えれば、こちらが普遍的な“10代”のとらえ方であるとは思う。甲子園で決勝近くまで進むようなスポーツエリートなどの(この言い方は好みではないけれども)、いわゆるヒエラルキー上位のごく一部の人たちを除いては、普通の“10代”の多くは《自分の存在が何なのかさえ 解らず震えている》といったところではなかろうか(《》は尾崎豊「15の夜」より引用)。自我の未成熟さゆえに、時に無軌道であったり無鉄砲であったりしながら事を進めたり、その逆に答えの出ない自問自答について悩んだり、他者との距離の取り方に苦しんだりもする。すでに“10代”を通過した人であれば、これにはある程度、同意してもらえるのではないかと思う。たまに“もし10代の頃に戻れるとしたら…”といった問答を見聞きすることがあるけれども、個人的には、後先考えずに突き進める向こう見ずなところはちょっと欲しいかもと思ったり、人生の経験値は現在のままで身体だけが若返るようならそれも悪くないかもと思ったりする一方で、もう一度あの時期を丸っと過ごすのは正直しんどいかなと思ったりと、ちょっと複雑だ(あくまでも個人的には…です)。読者のみなさんはそれぞれの“10代”をどんな風に振り返るだろうか。

アルバム『TEENAGER』リリース後のインタビューで、志村正彦(Vo&Gu)はそのタイトルについて以下のように語っている。

“中学生~高校生のはちきれんばかりのパワーってあるじゃないですか。あの集中力に負けてはいけないと思ったんです。いろんなことを経験して、あの時とまったく同じことはできないけれど、これからも追い続けていくっていうことを象徴した曲が「TEENAGER」。アルバムもそうしたいと思ったんです。ロックをやる限り、永遠にロック少年でいたいという決意がありますから。26~27歳で少年というのもどうかと思いますけど(笑)、潔く言っちゃう。ジャケット写真は女の子がぶら下っていて、顔も引きつってる。それがロック。ロックの定義は重力に逆らうことなんです。丸くならないで尖っていたい、逆らい続けることがロックですから!”

《どっかにスリルはないかい?/刺激を求めてエブリデイ/方向指示器はないやい/行勤しなけりゃ分からない》《僕らはいつも満たされたい》《僕らはいつも求めたい 君にも僕は求めたい》《ティーンネイジャー ティーンネイジャー 何年先だって/いつでも追いかけてたいのです/難解です 難解です 君のアンサー/今すぐ教えてほしいよ》(M13「TEENAGER」)。

■先達へのオマージュを隠さず

「TEENAGER」の歌詞も含めて、志村の見解は見事なものだと思う。ある意味で正鵠を射た発言だと思えるし、“10代”のポジティブな面をとらえている様子がスパッと潔い。実際、アルバム『TEENAGER』は奔放な作品だと言える。フジファブリックの全作品をちゃんと聴いたことがない筆者のような、完全な半可通でもそれはよく分かる。特にサウンド面。いい意味で躊躇していない。

最もそれが分かるのはM8「ロマネ」だろう。1、2拍目はベードラ、3拍目がスネアで、4拍目は休符というリズム──♪ドンドンパ、ドンドンパ♪は、同曲の歌詞の《世界は僕を待ってる/「WE WILL ROCK YOU」もきっとね 歌える》を待つことなく、多くの人がQueenのオマージュであることは分かると思う。それでも歌詞をこうしてしまう辺り、まったく迷いがない印象だ。“開き直ってる”という言い方が適切かどうか分からないが、無鉄砲な感じに思えるところがいい。

The Beatles(M5「Chocolate Panic」の他、サイケな音作りは随所で聴ける)やThe Doors(M6「Strawberry Shortcakes」とM7「Surfer King」のキーボード)など、オマージュはいろいろと感じられるところであるが、そうした海外のロックレジェンドだけでなく、志村がミュージシャンを目指すきっかけとなったという奥田民生、ユニコーンからの影響もありありと分かる。M3「B.O.I.P.」はメロディーも含めてももろにユニコーンっぽい。これはユニコーンのプロデューサーとして知られている河合誠一マイケル氏がアルバム『TEENAGER』を手掛けていることに関係しているのは間違いないが、そもそも河合氏を招いておいてユニコーンっぽいことをやるというのは、肝が据わっているというか、童心を隠していない証拠であろう。M1「ペダル」は仮タイトルが“自転車泥棒”だったというから、その辺は確信犯的だったのだと思われる(「自転車泥棒」は名曲の誉れ高い、ユニコーンの4thアルバム『ケダモノの嵐』(1990年)収録曲)。

個人的には、M2「記念写真」はメロディーのポップさと“写真”というキーワードがFlipper’s Guitarを感じたところだし、M9「パッション・フルーツ」のデジタルをフィーチャーしたディスコティックさは、電気グルーヴ「Shangri-La」を彷彿させられた(「パッション・フルーツ」は歌い方も電気っぽい感じ)。実際のところ、彼らがどの辺まで意識的だったのか分からないけれども、それまで以上にさまざまな音楽要素をバンドへと取り込んでいったことは確実であろう。

しかも、それを眉間に皺を寄せながら…ではなく、キャッキャッ言いながら、楽しく臨んだ結果であったことは想像するに難くない。先ほども引用したアルバム『TEENAGER』リリース後のインタビューで、山内総一郎(Vo&Gu)は本作のレコーディングを以下のように振り返っている。

“やれることはやったという感じはあります。レコーディングマジックが起きてプレイを変えたり、そういうことが結構あったんです。「B.O.I.P」や「Chocolate Panic」のエンディング、「ペダル」のアタマとか、要所要所ありますね。みんなが曲に対して、歌に対して、向き合ってレコーディングができたんじゃないかな。今後のレコーディングの楽しみが増えたと思います。(中略)デモを作っているところから、今までとは違うので。これまではセッションで土台を作ってましたから。ただ、制限も出てくるんです。デモを出した時点である程度完成しているじゃないですか。それを超えるというのは難しいんですけど、まったく別物と考えてやるようにしました。その曲のあるべき姿を突き詰められたと思います”

前向きな台詞が詰まっていて、『TEENAGER』のレコーディング現場の充実ぶりをうかがうことができる。The BeatlesやQueen、そしてユニコーンがそうであったように、フジファブリックもまたロックバンドのセンス・オブ・ワンダーに辿り着いたのであろう。“レコーディングマジック”という言葉に合わせてか、志村は「曲を作ってメンバーと合わせた時に、“自分ではこれは浮かばないな”というフレーズが出てくるとうれしいですね。そういうバンドマジックを求めてやっていきたいです」も述べている。

■名曲中の名曲「若者のすべて」

サウンドにおいてミュージシャン的な遊び心が発揮されたことで、歌詞もそれに呼応するかのように、前述したM13「TEENAGER」の他、M3「B.O.I.P.」やM5「Chocolate Panic」、M6「Strawberry Shortcakes」など、勢いで迫るものが多く見受けられる。志村が言った“はちきれんばかりのパワー”が言葉や物語にも封じ込められていて、まさに“10代”ならではの迸るものを感じるところである。しかし、アルバム『TEENAGER』がそれだけで終わっていないことはファンならば、いや、ファンならずともよくお分かりだろう。“10代”ならではの悩み、苦しみ、あるいは踏ん切りのつかなさを描いた側面があってこその『TEENAGER』である。その点、M1「ペダル」やM2「記念写真」の歌詞もいいが、何と言ってもM4「若者のすべて」に止めを刺すであろう。フジファブリックを代表する一曲であるだけでなく、ゼロ年代の日本のロックを代表する一曲、中には平成邦楽屈指のナンバーと言う人もいるほどの名曲中の名曲だ。ここで改めて歌詞を載せるまでもないかもしれないが、以下がサビのフレーズである。

《最後の花火に今年もなったな/何年経っても思い出してしまうな》《ないかな ないよな きっとね いないよな/会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ》(M4「若者のすべて」)。

後半で《僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ》と言っているから、《僕》は誰か他の人物に向けて歌っているのであろうが、具体的なシチュエーションはほとんど示されないまま、《僕》の逡巡──それもどうやら想像の中で躊躇っていると思われるようなフレーズが続いていく。朴訥とした感じのAメロから、若干開放的なBメロを経て、キャッチーだが上品で流麗なサビへとつながっていく歌の旋律と併せて、どこか寄る辺ない感じがありつつも、穢れなく清廉な印象。具体性に乏しい内容故に想像の余地はかなりあって、聴き手それぞれが好きな解釈ができたり、勝手に自身と重ねたりできる。優れた芸術作品の必要条件を備えた、見事な楽曲である。M4「若者のすべて」なくしては、アルバム『TEENAGER』は成立しなかったとすら思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『TEENAGER』

2008年発表作品

<収録曲>

1.ペダル

2.記念写真

3.B.O.I.P.

4.若者のすべて

5.Chocolate Panic

6.Strawberry Shortcakes

7.Surfer King

8.ロマネ 

9.パッション・フルーツ

10.東京炎上

11.まばたき

12.星降る夜になったら

13.TEENAGER

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