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ロックの原点に立ち返り全米1位に輝いたバッド・カンパニーの『バッド・カンパニー』

今年で結成45周年を迎えるバッド・カンパニー。74年のデビュー作『バッド・カンパニー』から82年の6thアルバム『ラフ・ダイアモンド』まで、レッド・ツェッペリンが設立したレーベル、スワンソング・レコードからリリースされたアルバム群が、この8月にボックスセットで発売(『ザ・スワンソング・イヤーズ1974-1982』)されることになった。

また、今年の7月6日から9月にかけて、北米ツアーが行なわれることもあって、今回はバッド・カンパニーのデビュー作『バッド・カンパニー』を取り上げる。このグループはロック界屈指のヴォーカリストであるポール・ロジャース、ドラムのサイモン・カーク(ともに元フリー)、元モット・ザ・フープルの名ギタリスト、ミック・ラルフス、ベースのボズ・バレル(元キング・クリムゾン)といった面子で結成されたいわゆるスーパーグループなのだが、彼らはグループの統一感を大切にし、時代に媚びず奇を衒ったことはしなかった。それだけに今聴いても古くなっておらず、ストレートなロックが持つ醍醐味が味わえる名作となった。

■新しいサウンドが生まれにくかった 1974年

バッド・カンパニーがデビューした1974年は、60年代後半から毎年のように生まれていたロックのさまざまな革新的なスタイルがひと段落した年であったように思う。アメリカでは70年前後に登場したシンガーソングライターやウエストコーストロックが洗練されつつあり、オールマンブラザーズを母体とするサザンロックの進化とソウルやファンクの16ビート化などが動きとしてあった。

イギリスではプログレの多様化やハードロックの様式化などが起こり、商業的にも成功するグループが増えていた。74年のロック界は、ボブ・ディランがザ・バンドと再タッグを組み『プラネット・ウェイブス』(全米1位)と、ツアーの模様を収めた『偉大なる復活』をリリースしている。アルコールやドラッグの依存症に苦しめられたエリック・クラプトンは『461オーシャン・ブールバード』(全米1位)で4年振りにロック界に復帰し、ボブ・マーリーのカバー「アイ・ショット・ザ・シェリフ」(全米1位)をヒットさせている。ピンク・フロイドは前年に『狂気(原題:The Dark Side Of The Moon)』(全米1位)でプログレを商業ベースに乗せることに成功、グランド・ファンクは『輝くグランド・ファンク(原題:Shinin’ On)』(‘74)でオールディーズのカバー「ロコモーション」(全米1位)を大ヒットさせ、ハードロックグループからの転身を図るなど、商業的な成功を得るために、スタイルの洗練化がロック界全体で意識的に行なわれたのが74年頃ではなかったかと僕は考えている。

この1、2年後には、純粋にロックを愛する当時の若者たちは、そういったロック界の大人の事情に対して、パンクロックを通じて“ノー”を突きつけることになるのだが、大人たち(かつてのロック少年たち)はAOR、フュージョン、ディスコといった音楽へとシフトしていき、世代間の壁がどんどん大きくなっていく、そんな時代であった。

■バッド・カンパニーの登場

73年に7thアルバム『ハートブレイカー』をリリース後、メンバーの不和や体調不良などが重なりフリーは消滅するのだが、ヴォーカルのポール・ロジャースとドラムのサイモン・カークはすぐに新グループ結成へと動き出す。そもそもロジャースはアメリカのR&Bやサザンソウルに大きな影響を受けており、新グループではフリー時代のようなハードロックというよりは、黒っぽい演奏のできるプレーヤーを探していた。クリムゾンを辞めたボズ・バレルはロバート・フリップから演奏がクロっぽすぎるという理由で解雇されていただけに、彼は望ましいメンバーであった。同じく、ギター奏者のミック・ラルフスはモット・ザ・フープル時代にエモーショナルで個性的なプレイを聴かせていたが、もともとはブルースバンド出身であったから、彼らとのコラボはロジャースの考えに沿ったものであった。

ちょうどツェッペリンが設立したばかりのスワンソング・レコードは大手レコード会社と違って自分のやりたい音楽ができる環境にあったため、新興レーベルではあったが契約を交わす。同時にマネジメントはピーター・グラントに任せる。グラントはスワンソングの社長でもあり、少々荒っぽい性格であったが、ツェッペリンをスターに仕立てた敏腕マネージャーとして知られる。

■本作『バッド・カンパニー』について

彼らが目指したのは、ロックを聴いたことがない人間にも分かるサウンドであった。バッド・カンパニーの音楽はシンプルでストレート、時代に迎合しない硬派のロックであり、アメリカのグループのような乾いた音が特徴だと言えるだろう。具体的にはフリーとモット・ザ・フープルを足して、スパイスとしてアメリカンロックをふりかけた感じである。ロジャースは憧れのアメリカでの成功を望んでいたのだが、本作リリース後すぐには結果が出なかったもののアメリカツアー中に全米1位を獲得し、デビュー作にもかかわらず世界中で1200万枚を超えるビッグセールスとなった。

収録曲は全部で8曲。彼らの名を一躍世界に知らしめた「キャント・ゲット・イナフ」(ミック・ラルフス作、全米5位)は、うねるベース、跳ねるドラム、ロジャースの伸びやかなヴォーカル、ラルフスのメロディアスなギターソロなど、どこを切り取ってもロックの醍醐味を体感できる名演である。フリーを思わせるハードロックの「ロック・ステディ」、ラルフスの手になる「レディ・フォー・ラブ」はモット・ザ・フープルのカバー。ボズのファンキーで重心の低いベースプレイと、ロジャースの美しいピアノが素晴らしいナンバーだ。ゴスペルっぽい「ドント・レット・ミー・ダウン」はゲストのメル・コリンズ(キング・クリムゾン他)のサックスとロジャースのヴォーカルの豊かな表現力が味わえる。「ザ・ウェイ・アイ・チューズ」はサザンソウルの影響が感じられるナンバーで、サックスもリズムセクションもアメリカ南部のミュージシャンのような泥臭い演奏を聴かせているのには驚かされる。ロジャースの抑えたヴォーカルは味わい深く、隠れた名曲だと思う。ザ・ローリング・ストーンズのような雰囲気の「ムーヴィン」は第二弾シングル曲でもあり、ライヴでは必ず盛り上がる代表曲のひとつ。アルバムの最後を飾る「シーガル」はロジャースがひとりで歌と楽器を演奏していて、フリーの初期を思わせるフォーキーなナンバーだ。

本作はリリースから45年が経過してはいるが、音自体は少しも古くなっていない。彼らの骨太のサウンドは時代に関係なく、良き時代のロックの魅力がいっぱい詰まっている。彼らのアルバムは2ndの『ストレート・シューター』(‘75)、3rdの『ラン・ウィズ・ザ・パック』(’76)まではどれも甲乙付け難い名作揃いなので、バッド・カンパニーのことを知らない若い人にぜひ聴いてもらいたい。

TEXT:河崎直人

アルバム『Bad Company』

1974年発表

<収録曲>

1. キャント・ゲット・イナフ/Can’t Get Enough

2. ロック・ステディー/Rock Steady

3. レディ・フォー・ラヴ/Ready for Love

4. ドント・レット・ミー・ダウン/Don’t Let Me Down

5. バッド・カンパニー/Bad Company

6. ザ・ウェイ・アイ・チューズ/The Way I Choose

7. ムーヴィン・オン /Movin’ On

8. シーガル/Seagull

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