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『LINDBERG III』から考察するLINDBERGの軌跡とその勝因

令和最初の邦楽名盤紹介となる今回は、昭和最後の年に結成されて平成元年にメジャーデビューしたLINDBERGをピックアップ。そのキャッチーな楽曲もさることながら、渡瀬マキの(Vo)キャラクターも手伝ってポップな印象が強いロックバンドではあるが、少し調べてみると、それはそれで間違いではないものの、決してポップなだけの存在ではないことも見えてきた。結成に至る過程から彼女らの本質を考察してみる。

■LINDBERGに至るまでの道のり

「今すぐ Kiss Me」を始め、「Dream On 抱きしめて」や「BELIEVE IN LOVE」などのヒット曲を出したLINDBERGは、1990年代を代表するロックバンドのひとつだ。1stシングル「ROUTE 246」の発売が1989年4月で、1990年2月発売の2nd「今すぐKiss Me」が最初のヒットであったから、そこだけで見たら、デビューから順調に売れたバンドだと思われるだろうが、実はそうではない。渡瀬マキにとってLINDBERGはメジャー最初の音楽活動ではなく、言わば2度目のデビューであったのである。そもそも彼女は1986年に『1986ヤングジャンプクイーン』でグランプリを獲得して芸能界入り。青年誌でのグランプリ獲得と言っても今のグラビアアイドルとは少し違うものではあったようだが、彼女の最初のキャリアは所謂アイドル活動であった。1987年には歌手として1stシングル「パールモンド・Kiss」をリリースし、以降2枚のシングルを発表している(通算3作のシングルを発表)。

個人的には彼女のデビュー時のことはわりと覚えている。いや、恐縮ながらもはっきりと言わせてもらえば、アイドル時代の渡瀬マキ(当時は渡瀬麻紀)の楽曲はほぼ印象にないので(失礼)、デビュー間もない彼女がTVバラエティー番組に出演していたことを覚えていると言い換えたほうがいいだろうか。その番組は『正義の味方株式会社』。さらに正確に白状すれば、番組自体がどんな内容であったのかも忘れてしまったが、Wikipediaによれば[視聴者からの手紙などによる依頼を受けて彼らのもとへ赴き(主に関東地方)、隊員全員で力を合わせて様々な作業の手伝いをする模様を放送]([]はWikipediaから引用)とあるので、『探偵!ナイトスクープ』の亜流みたいなものだったものだったのだろう。出演者が全員、ツナギを着ていたような記憶も薄っすら残っている。

まぁ、その『正義の味方株式会社』は、当時絶大な人気があった『夕やけニャンニャン』の直前の時間帯に放送されていた番組なので(『正義の~』が16時30分からで、『夕やけ~』は17時00分から)、おニャン子クラブ観たさにチャンネルを合わせているところに流れてくる番組といった感じだったのだろう。いつまでやっていたのかも覚えていないが(Wikipediaによるとどうやら2クールで終了したようであるが)、小柄な渡瀬が奮闘する姿に何か感じるものがあったのか、なぜか彼女のことは記憶に残っていた。

そして、LINDBERG。最初のヒット曲「今すぐKiss Me」の発売は1990年2月だったが、この楽曲は所謂“月9ドラマ”の『世界で一番君が好き!』の主題歌として同年1月からオンエアされていたので、リリース前からその歌声は耳にしていたと思うが、その時はヴォーカルが渡瀬だとは気付いていなかったと思う。最初にそれを認識したのは彼女たちが歌番組『歌のトップテン』に出演した時。ブラックジーンズに長袖Tシャツという姿だったと思う。いかにも当時のビートパンクバンドらしい出で立ちで登場した渡瀬を見て、“おっ、彼女はあの時の!”とスワッとしたことを思い出す。番組司会の和田アキ子にアイドル歌手だったことを指摘された渡瀬だったが、“どうしてアイドルを辞めてバンドを始めたのか?”と訊かれて “嫌やったから”と関西訛りで笑って答える姿も印象的だった。

その後のLINDBERGの活躍は軽く前述した通りだが、デビュー間もなくヒット曲に恵まれたバンドではあったとはいえ、そこまでの道徳は決して平坦なものではなかったことは、渡瀬の経歴を振り返っただけでも想像するに難くない。バンドのメインコンポーザーだったと言える川添智久(Ba)のキャリアからもそれを垣間見ることができる。若かりし頃の彼のプロフィールは細かく明らかにされていないものの、氷室京介やGLAYのサポートで知られるドラマー、永井利光が「僕が宮崎から一緒に出て来て苦楽をともにした」と発言しているのを見つけた(『TOSHI NAGAI×TAKURO(GLAY)対談 TOSHI祭り!BUZZ☆DRUM~30th Anniversary & Birthday~Produced by GLAY』より)。永井のオフィシャルサイトによれば、彼が上京したのは18歳の時とある。1982年のことだろう。川添も永井と同じ年に上京したとなると、1989年のLINDBERGのデビューまで凡そ7年間を費やした計算になり、彼もまた決して楽な道のりを歩んできたミュージシャンでなかったことが分かる。

■作品に宿る彼女たちの意気込み

3rdアルバム『LINDBERG III』は「今すぐ Kiss Me」のヒットを受けて、前作である2ndアルバム『LINDBERG II』から5カ月という短いインターバルでリリースされた作品だ。2ndアルバム『LINDBERG II』も1stアルバム『LINDBERG I』から7カ月後に発表されているので、約1年間で3枚のアルバムを世に出していたことになる。これだけでも当時の彼女らの意気込みが十分に伝わってくるのだが、作品に宿るハツラツとした感じにもLINDBERGのやる気を見出すことができる。『LINDBERG III』のオープニングを飾るM1「LITTLE WING ~Spirit of LINDBERG~」の歌詞はこうだ。

《誰もがみんな口を揃えて/無駄なことだと 白い目で僕を見るけど》《小さな翼は びくともしない/夜の向こうにある 未来探すよ》《小さな翼が 僕を呼んでる/涙の向こうに 未来探すよ/強い雨の日も びくともしない/明日を信じて 飛び続けるよ》(M1「LITTLE WING ~Spirit of LINDBERG~」)。

バンド名の由来でもある、1927年に大西洋単独無着陸飛行に成功したCharles Augustus Lindberghになぞらえながら、周りからどう見られようと前へ進もうとする決意がそこにある。しかも、それは能天気でノープランな挑戦ではなく、《夜の向こうに》や《涙の向こうに》とあることから、挫折を理解した人の弁であることも分かるし、そこまでの彼女たちの歩みを重ねると実に味わい深い歌詞である。さらには──。

《6月の雨さえ いつかあがるから》《It’s A Rainy Day 明日こそは/靴音はずませ 天気になる/あの子の心も 天気になる/私の瞳も 天気になる》(M12「RAINY DAY」)。

と、アルバムのフィナーレで“いつか雨はあがる”と言っているのも清々しいところだ。

《忘れないで授業ぬけだし/二人で見た限りない空/忘れないで負けそうなとき/臆病にならないで》(M10「忘れないで」)。

《Ready Go! 普段着で/今すぐに/行けるよ 夢の向こうに!》(M11「READY GO!」)。

ロストラブソングと思しきM9「SILVER MOON」がある一方で、上記のようなポジティブシンキングがLINDBERGの特徴であると言えるが、それもM1「LITTLE WING ~Spirit of LINDBERG~」に見出せる、わずかな後ろ向き──言わば1パーセント以下のネガティブさがあることで余計に溌剌とした印象になっているのだろうし、だからこそ多くのリスナーの心に響いたのだろう。

■押し引きのバランスが絶妙

そうしたリアリティーを損ねていない歌詞が、エッジーなギターサウンドに彩られながらもメジャー感の強い開放的なメロディに乗せられているのだから、LINDBERGの楽曲が大衆に支持されないわけはなかった。しかも、1980年代半ばにREBECCA、BOØWYがブレイクし、そこから“イカ天”に代表されるバンドブームへの流れの中で、すでにロックバンドは巷で認知されてたわけで──結果論であることは承知で述べるけれども──渡瀬がアイドルではなくロックバンドのヴォーカリストの道を選んだのは正解だったのだろう。

『LINDBERG III』のM1「LITTLE WING ~Spirit of LINDBERG~」は、フィードバックノイズが強調され、ディストーションがほどよく聴いたエレキギターの音から幕を開け、全体的にも如何にも90年らしいドライかつシャープなサウンドを聴くことができる。これもこのバンドの特徴であろう。以降、M4「ROLLING DAYS」でスカっぽいカッティング、M7「MODERN GIRL」でブルージーなリフ、M11「READY GO!」ではハードロック的なアプローチと、多彩な表情を見せるが、いずれも弾き過ぎず抑え過ぎず、押し引きのバランスがいい印象がある。

例えば、M8「YOU BELONG TO ME」の間奏のギターソロは所謂速弾きで、HR/HM系だったらこの3倍…いや5倍くらいの長さがあってもおかしくない気もしなくもないが、そうなっていない。また、所々でU2的な雰囲気があったり、Bryan Adams風味があったりもするのだが、それもまったくこれ見よがしでなく、どこか奥ゆかしさを感じるほどのバランスで入っている。ギター以外でも、M2「RUSH LIFE」ではタンバリンやパーカッションがブラックミュージック的なダンサブルさがあったり、M7「MODERN GIRL」の後半ではサイケなストリングスが聴けたりと、ロックバンドのマナーに則ったようなサウンドを聴くこともできるのだが、これもまた長すぎず、まったくマニアックに聴こえないのである。この辺りが即ち大衆を意識したものかどうか分からない。分からないから想像でしかないけれども、アルバムとはいえ、ロックバンド然としたサウンドをこれ見よがしに示さなかったことは、LINDBERGが多くのリスナーに親しまれたことと無縁ではなかった気がする。

最後にもう一点、今回『LINDBERG III』を聴いて改めて感じたLINDBERGの特徴を記しておこうと思う。LINDBERG楽曲の歌メロは、多くのシングル曲を手掛けた川添に限らず、平川達也(Gu)も小柳昌法(Dr)も、誰が作る曲にしてもとてもキャッチーであることに議論を待たないと思うが、そのどれもが渡瀬の声のレンジにとてもマッチしている印象が強い。もちろん、そもそも渡瀬は幅広い音域を歌いこなせるだけのヴォーカリストではあるのだろうが、いたずらに高音低音を強調することなく、サビにつながるBメロ後半やサビの聴かせどころでいい具合の音域に突入しているのである。全体的には高音域ではあるのだが、無理のないギリギリの高音と言おうか。古のハードロック的ハイトーンヴォーカルとも、もちろんコンテンポラリーR&Bでのファルセットとはまったく異なる、(誤解を恐れずに言えば)嫌味のない声なのである。これはLINDBERG楽曲の溌剌さをベストに表現していたとは言える。そんなふうに考えると、改めて言うことでもなかろうが、LINDBERGというバンドは、歌詞、サウンド、メロディー、その全てにおいて、絶妙なバランスを発揮していたバンドであったのだろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『LINDBERG III』

1990年発表作品

<収録曲>

1.LITTLE WING ~Spirit of LINDBERG~

2.RUSH LIFE

3.今すぐKiss Me [ALBUM MIX]

4.ROLLING DAYS

5.TOUCH DOWN

6.VOICE OF ANGEL

7.MODERN GIRL

8.YOU BELONG TO ME

9.SILVER MOON

10.忘れないで

11.READY GO!

12.RAINY DAY

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