斬新なタイトルが話題となっているスガ シカオの新曲「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」をはじめとした、アーティストが増殖するMVを紹介。“増殖”とひと括りにしても、CGの使い方が違ったり、そもそもCGを使っていなかったり、表現方法が異なる5本をお楽しみください!
■「フラッグを立てろ」(’17)/YUKI
本人以外をフルCGで制作したこのMVは、テレビやソファー、パソコンのキーボードなど、身近なもので作られた真っ白な世界が広がり、そこに棲みつくのは大勢のYUKIという神秘的な構成。一見不思議に思えたが《独りきりの 自由のフラッグを立てるんだ》というフレーズを聴くと、この世界は彼女の頭の中のように感じた。YUKIだけに色を付けることで、主人公は自分だけであり、同時にたくさんの可能性を秘めていることを表現。笑顔で羽ばたく仕草をする姿は好奇心のままに突き進む解放感と、自由に生きる喜びにも満ちている。鼓舞する歌詞も相まって、彼女からのエールにも受け取れる一本だ。
■「Tabibito In The Dark」(’11) /Base Ball Bear
今回の特集は“本人の増殖”をテーマに掲げているが、Perfumeなど数多くのMVを手掛ける関 和亮が監督した本作での撮影方法は特に斬新。スクリーンに映した映像と実際にセットした小道具を重ね、小出祐介(Vo&Gu)が徐々に映像に溶け込んで増殖していく部分にも注目してほしい。ひとりふたりと増えていくメンバーの姿はもやもやとした感情を表し、小出が蹴りを入れるシーンや、風船が弾けるカットは、そんな気持ちを突破しているかのよう。《何もかも忘れて 踊れ》と歌うサビと力強い演奏シーンがマッチしていて、彼らにとってライヴこそが全てを脱ぎ捨てて生きている瞬間であることが分かる。
■「バッハの旋律を夜に 聴いたせいです。」 (’11)/サカナクション
作詞作曲を手掛けた山口一郎(Vo&Gu)曰く“恋愛の歌”というこの曲。増殖と言ってもMVでは本人に似せた人形を使っていて、山口がその人形を4体も操るダンスシーンが話題となった。その人形はかつての自分の姿なのか、または取り繕っていた自分なのかとさまざまな解釈ができるが、後半では勝手に動き出したり、麻生久美子が演じる“君”が人形の山口にキスをするという本人との立場が逆転していく展開がちょっと不気味。謎の生物の目が出てくるのも意味深で、ラストのワンシーンを観ると“山口の幻想だったのでは?”と真意を掴みかける感覚が歯がゆく、結局何度も再生ボタンを押してしまう…。
■「オー!リバル」(’15) /ポルノグラフィティ
2015公開映画『名探偵コナン 業火の向日葵』の書き下ろし主題歌で、映画サイドの希望もあってヒット曲「サウダージ」「アゲハ蝶」などを彷彿させるラテン調が印象的な一曲。軽快なリズムに合わせて歩くふたり(特にヴォーカルの岡野昭仁)が増殖していくが、全て実際に歩いて何回も撮影した姿であり、ひとりひとりの動きが異なるのがポイントだ。この歩行シーンの撮影に約17時間もかけた力作で、堂々と前へ突き進んでいく画がクールにキマっているが、途中で仁王立ちやピースサインをする岡野がいるシュールさも見逃してはいけない。個人的には1分すぎくらいに手を大きく振って出てくる姿が気になるので、細かい部分にも注目を!
■「労働なんかしないで 光合成だけで 生きたい」(’19)/スガ シカオ
4月17日にリリースされたニューアルバムの表題曲で、その斬新なタイトルからして注目を浴びたファンクナンバー。“150人のスガ シカオ”が登場するMVもやっぱりインパクト大で、年齢性別を問わずカツラ、サングラス、白シャツ、お面でスガ シカオになり切るさまはかなりの迫力だ。アルバイトの迷惑動画問題に触れるようなリアルなシーンもあり、労働をテーマに置きながら“何のために生きているのか?”“幸福とは何か?”と自分自身について考え続ける歌詞が胸に刺さる。150人のスガ シカオは、自分のような人間がたくさんいることの象徴かもしれない。タイトルもMVもユーモラスであるが、それだけでなく、もう一歩近付いてじっくり楽曲を聴いてみたくなる仕上がりだ。
TEXT:千々和香苗
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