2019年は再始動から10年目。現メンバーとなったアルバム『服部』から30年目。そして、川西幸一(Dr)が還暦=60歳…つまり60年目。これらの数字を足して100ということで、“ユニコーン100周年”と、何だかよく分からない理屈だが、それなぞらえて、3月27日に新作『UC100V』をリリースしたばかりのユニコーンが、4月6日から全国ツアー『ユニコーン100周年ツアー“百が如く”』をスタートさせる。ユニコーンの名盤は以前、『ケダモノの嵐』を紹介したので、今回はメンバーのひとり、奥田民生の作品をピックアップしてみた。
■本格ソロデビュー25周年
奥田民生が本格的にソロ活動を開始したのは1994年だから、今年ソロデビュー25周年を迎えたことになる(本格的に…というのは、ユニコーン時代の1992年に「休日/健康」というシングルを発表しているため)。ユニコーンは1987年デビューで1993年に解散。2009年に再結成したのはみなさんご存知のことだと思うが、それでもメジャーでの活動は実質16年くらいなので、もはやソロでの活動のほうがずっと長いわけだ。
奥田民生がどういう人かというと、これはある世代以上の方であればわりと多くの方が同意してくださると思うが、なかなか掴みどころのない人ではあると思う。いや、掴みどころがなかった…というべきか。ソングライティングのセンスは言うまでもなく一線級で、出す音は容赦なくロック。問答無用に当代随一のロックアーティストのひとりであることは論を待たないはずだが、その一方で、オフステージでの佇まいは極めてカジュアルで、所謂強面的な威圧感は微塵もない。○○○○○○や●●●●ほどには寡黙ではないし、ライヴのMCでは観客を笑わせるようなこともあったように思うけれども、リップサービスが得意でなかったのか、解散前のユニコーン時代はインタビュアー泣かせな面もあったようだ。筆者は奥田民生から話を訊いたことはないのだが、直接ユニコーンを取材した人物で「民生はたぶん本当のことを喋ってくれないよ」と言っていた人もいたし、某音専誌では饒舌に語らない民生に業を煮やしたのであろう、ユニコーンのローディーだった人物をインタビュアーに仕立て上げていたことを薄っすら記憶している(記憶が曖昧なのでローディーじゃなかったかもしれない。間違っていたらゴメン)。
ユニコーンは特異なバンドで、メンバー5人全員が作詞作曲を手掛けるばかりか、5人それぞれに一応メインのパートはあるものの、ヴォーカルのみならず、楽曲によってメンバーの担当する楽器が異なるのは当たり前。それはレコーディングにおいてもそうで、ギタリストがギターを弾いてないとかベーシストがベースを弾いてない楽曲が今でも普通にある。現在のリーダーはABEDON(再結成前は川西幸一)であるが、リーダーがバンドの全てを司るのではなくて、楽曲毎に異なるメンバーが主導権を握ってそれに他のメンバーが追従するというスタイルのようだ。5人全員がメインヴォーカルを担当したのが4thアルバム『ケダモノの嵐』(1990年)だから、解散から再結成までの期間を差っ引いても、バンドの歴史の中ではこの無政府共産主義的体制がほとんどで、ユニコーンは誰かひとりが突出することのない、メンバーはほぼ完全にその5分の1を担うバンドと言える。
“掴みどころがなかった…というべきか”と書いたが、上記のように考えると、ユニコーン時代の奥田民生が掴みどころのないのは当然で、5分の1で5分の5の全貌を探るのは難しいし、その5分の1にしても他の4つの5分の1が複雑に絡み合っているからして、少なくとも簡単にひと口で語れるものではなかったことは無理もない。それゆえに、対峙する方からは掴みどころがないように感じられることもあっただろうし、場合によってはのらりくらりとした印象を持たれたのかもしれない。
今さらながらにそんなことを考えたのは、それはもちろん奥田民生の『29』を聴いたからであって、本作はバンド解散後のソロデビュー作であることから、余計にバンドとソロの差異、ユニコーンと奥田民生との関係性を感じさせるアルバムなのである。以下、ザッと収録曲を説明していく。
■奥田民生の成分を全注入
何と言っても特徴的なのは、アルバムのオープニングM1「674」と、ラストのM12「奥田民生愛のテーマ」との楽器は全て奥田が演奏しているということだろう(厳密に言うと、M1「674」には“太鼓持ちトーク”という分かったような分からないようなパートで、ユニコーンの元マネージャーである鈴木銀二郎氏が参加している)。作品の頭とお尻にこうした楽曲を配置しているのは間違いなく意図的で、ソロアルバムの第一弾であることをより鮮明にしている。M1「674」はアコギ2本にパーカッションという比較的シンプルな構成だが、M12「奥田民生愛のテーマ」はギター、ベース、ドラムがしっかり入った完全なバンドスタイル。奥田本人は“チープでもいい加減でもいい”という想いで臨んだそうであるが、そこにバンドを離れてソロでやっていこうとした決意が感じられる。ドラムはユニコーン時代にも叩いていただけあって決して聴けないというような代物ではなく、ザクザクしたエレキと相俟ったオルタナ的サウンドは容赦なくロックだ。実にカッコ良い。
奥田は2010年に公開の多重録音の現場を観せるライヴ(しかもツアー!)『ひとりカンタビレ』を敢行しているが、その原型と言っていいかもしれない。ブレのない人だ。ちなみに、M1「674」、M12「奥田民生愛のテーマ」以外に、M6「女になりたい」とM7「愛する人よ」とでベースを、M7「愛する人よ」とM8「30才」とでシンセサイザーを弾いている。
サウンド面で言えば、どちらかと言えば60、70年代洋楽を意識した音が多い印象。洋楽要素はユニコーンでも相当に披露しているので今さら驚くようなことでもないが、より絞り込まれている感じと言ったらいいだろうか。バラエティーに富んでいるというよりも、一本筋が通ったアルバムと言えるかと思う。ゴリっとしたエレキギターが聴けるM2「ルート2」やM3「ハネムーン」、ヘヴィなギターリフのM9「BEEF」といったR&Rもいいが、サイケデリックなサウンドを導入したM5「これは歌だ」とM8「30才」、ブラス入りのR&BナンバーM11「人間」辺りに、より奥田の趣味性を感じるし、この辺からは遡ってユニコーンにおける“奥田民生の成分”の割合や位置を想像させるところではある。
メロディーは今となっては“民生節”と言っていい、奥田民生らしいものが並んでいる。先行シングル曲でもあるM10「愛のために」がポップだった反動からか、それに続くシングル曲だったM4「息子 (アルバム・ヴァージョン)」やM3「ハネムーン」はマイナーだったりするが、それでも十二分に魅力的な旋律である。この他、(個人的な好みを言って申し訳ないが)M1「674」の《ばか野郎》と《ばか野郎》の箇所や、M11「人間」の《今 ヒマにまかせて こんな事 考えている》の箇所のメロディとコードは本当に素晴らしく、改めて彼のコンポーザーとしての非凡さを痛切に感じるところである。
逆に言えば、これもまたバンドでの奥田民生の成分”の割合や位置を感じるところだし、仕方がないことではあるけれども、否が応にも奥田のソロアルバムである輪郭がはっきりとしている。M6「女になりたい」では、笑顔のままで歌うことで(口角を必要以上に上げて歌ったということだろうか?)別人のような歌声を聴かせているが、これもそう。The Beatlesがそうであったように、ユニコーンもアルバム内では様々なヴォーカルを聴くことができたわけで、M6「女になりたい」で声を変えたのは、奥田が考えるアルバムにとっては自然なことであったのかもしれないが、声を変えたことで、かえってバンド時代のアルバムとの差異を感じざるを得ないところはあったような気はする(あくまでも個人的な見解。悪しからず)。
■歌詞に見るソロ活動への決意
最もソロアルバムであることを意識させるのは歌詞だ。何しろ、先行シングル曲M10「愛のために」がこんな調子だ。
《ここらへんで そろそろ僕が/その花を咲かせましょう/愛のために あなたのために/引き受けましょう/あー 燃えているんだぜ 僕ごのみの/ワールド オブ ワールド/荒れる海原に船を出せ》(M10「愛のために」)。
それまで「ジゴロ」やら「服部」やら、「大迷惑」やら「働く男」やら「ヒゲとボイン」を書いてきた人である。真面目な物言いがなかったわけではないが、少なくとも力強いメッセージを放つタイプではなかった。M10「愛のために」にしても全面的に熱い志を吐露した…という感じではなく、そこが奥田らしくもあるのだが、それにしても、本格ソロデビューの第一弾で《そろそろ僕が/その花を咲かせましょう》とか《燃えているんだぜ》とか《荒れる海原に船を出せ》とか言うのだから、そこに決意が込められていたことは疑いようもない。以下の歌詞も深読みすれば、ソロ活動に向かう意思をうかがうことができる。
《頭の中 がらんどう/エンジンが ただ悲鳴をあげて/次の丘を越えれば/光が見えて来る Yeah!》(M2「ルート2」)。
ソロ活動への決意ではないが、M4「息子 (アルバム・ヴァージョン)」にもそれまでの奥田とは若干異なるメッセージが感じられていい。
《ほうら 君の手はこの地球の宝物だ/まだ誰もとどかない明日へ/ほうら 目の前は透明の広い海だ/その腕とその足で 戦え/ほうら 目の前は紺碧の青い空だ/翼などないけれど 進め》(M4「息子 (アルバム・ヴァージョン)」)。
これを初めて聴いた時、奥田自身が子供を授かったのかと思っていたら、そういうことでできた歌詞ではないというのは何とも奥田らしいところだが、それにしても、ここまでストレートなメッセージソングというのは当時の彼の作風としては珍しかったし、若干の驚きをもって受け止めたリスナーも少なからずいたかもしれない。
これ以外には、《人間は 死ぬまでに どれだけ/自分の事 他人の事/おぼえていれるでしょう》《広島の人は 今も僕の事/思い出せるだろうか》というM11「人間」や、《君もいっしょに歌って あぁ 僕といっしょに歌って》というフレーズはリスナー、オーディエンスに向かったものとも思えるM12「奥田民生愛のテーマ」と、真摯なイメージの歌詞は比較的多い。真面目になりすぎるのを嫌ったのか、M6「女になりたい」やM9「BEEF」のようなユニコーン時代を彷彿させるおふざけ要素を含んだ歌詞もあるにはあるが、割合としてその程度ということは、これまたバンドとの違いを感じるところではある。
TEXT:帆苅智之
アルバム『29』
1995年発表作品
<収録曲>
1.674
2.ルート2
3.ハネムーン
4.息子 (アルバム・ヴァージョン)
5.これは歌だ
6.女になりたい
7.愛する人よ
8.30才
9.BEEF
10.愛のために
11.人間
12.奥田民生愛のテーマ
【関連リンク】
奥田民生がバンドとの違いを示した本格的ソロデビューアルバム『29』
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