大きいお友達を騒がせた『怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』に登場する“強制帰宅ビーム”を食らいたいとコーヒー片手に電子タバコを吸っているみなさん、あるいは掛け布団の裏側で生暖かい暗闇を瞠目しているみなさん、さっさと起きてください。名残惜しくはありますが、『ルパパト』は終わってしまいました。そして、本日はまだ月曜日です。金曜日までの道のりはまだまだ遠い上に、どうせ乾いたパンのようなお花見イベントがねじ込まれます。それでもすれすれのところで踏み止まって、「今日だけは生きよう」と耐えてください。肺の裏側に鉛のごとく張り付いている孤独をピカピカに磨き上げるためのお金を獲得してください。琴線に触れるもの、心を揺さぶって肌をざわめかせる楽しみは、たったひとりで贅沢に味わえばいいのです。誰かと分かち合うことなく、何かの輪に組み込まれることなく、しれっと、したたかに夜道を歩く。そんな生き方も悪くありません。
■「LATE SUMMER LAKE」(’87) /松任谷由実
1987年に発表されたアルバム『ダイアモンドダストが消えぬまに』の収録曲ですが、漫画『波よ聞いてくれ』に《堕落は虹の光に哀しいほど似ているかと》というサビの一節が登場したので思い出しました。あの頃と比べて今はひどくひもじい時代となってしまいましたが、歌詞は今も昔も変わらない、時間という財産を溝に捨てる享楽と刹那主義、生き急ぐ焦燥感を想起させるものになっています。小刻みなドラムスティックの脈拍から幕を開け、パーカッシブなシンセサイザーの日焼けした音色と風に揺らめくカーテンのような残響が心臓に擦り傷を作り、間奏部分に挿入されるか細い語りが架空の記憶を作り、誰のものでもないノスタルジーの中で共振していきます。
■「1999」(’19)/集団行動
集団行動が4月3日にリリースするニューアルバム『SUPER MUSIC』の収録曲から。記憶の泡が浮かんでは弾けるようなワウギターからスタートを切る、“99歳のわたし”と“19歳のわたし”が交錯する夢物語です。齋藤里菜の風通しのいい伸びやかな声がふたつの時間を自在に行き交い、《この世のどこかに もっと 美しいことが あるような気がして》という仄かな希望が諦観を乗り越えて巣立っていく様が爽快。自身を象っていた個をなくして、まっさらなピカピカの“音楽”と化した演奏隊がふとした瞬間に留め金を破り、ストリングスやシンセサイザーの豊潤な音色が跳ね回る賑やかさも素晴らしく、うら寂しさを漂わせるテーマをするりと飲み干せるポップスに昇華させています。
■「夜な夜な夜な」(’02)/倉橋ヨエコ
2008年に音楽家を“廃業”し、消息を絶った倉橋ヨエコ。豊満な声量と朗朗とした歌唱、ジャズと歌謡曲で編み込まれた豪奢で躍動的な楽曲とは相反して、その歌詞は陽の当たらない人間の暗部を曝け出すものでした。「夜な夜な夜な」は2002年に発表された『婦人用』に収録されている楽曲で、世間と自身の歩幅が噛み合わない理不尽さが総毛立つようなグランドピアノとシンバルで浮き彫りにされ、また千々に引きちぎらんばかりの声で歌い上げられています。彼女の曲を聴くたびに「孤独とはやり切れなさに声を殺してひとり泣く夜を意味するものだ」と感じていたのですが、《反省文 反省文 反省文 提出します」「感想文 感想文 感想文 お待ちしてます》という歌詞は、“#病み垢さんとつながりたい”によって連なる傷の舐め合いと塩の塗り合いを予感していたようにも思えます。
■「Can’t Stop」(’02) /Red Hot Chili Peppers
今夏『SUMMER SONIC』のヘッドライナーを務めるRed Hot Chili Peppersが2002年に発表した楽曲ですが、コミカルな小芝居を展開する大人気ない成人男性たちと、あれだけ荒ぶりながらも均衡を保ったままの4人の鉄壁さに、何百回でも脳みそがちぐはぐに断裂します。今はソロミュージシャンとして活動する元メンバーのジョン・フルシアンテが掻き鳴らす冬枯れの木立を劈く稲光のごときギター、アンソニーの情緒的なラップと霧のように絡むハイトーンのコーラス、暗号のごとく散りばめられた歌詞の言葉遊びに隠された反骨心。それらを抱擁する流麗なメロディーラインがスターぶりを見せつけてくれます。
■「YOSOMONO」(’15)/ECD
昨年逝去したECDが2015年にリリースした『Three wise monkeys』から。ダブをベースに足元を揺るがすように響くむせび泣きのギター、サンプリングされたカラスの鳴き声、《ヨソモノでけっこう お前らの輪には 絶対入らねえ ヨソモノでけっこう》というパンチラインがゴミにまみれた夜明けの道玄坂とリンクするので、出勤前の自分を鼓舞するために毎朝再生していました。ストリーミングでも立体感と空間の輪郭が際立つトラックの中にECDのフロウが跳弾する生々しさに、こんな時代だからこそ生きていてほしい人から不帰の旅に出てしまうことへの虚しさを覚えますが、自分の涙を拭うのは自分しかいないのだと思い知らされます。
TEXT:町田ノイズ
町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。
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