Music Information

『音楽旅団』は宝石の原石のようなBEGINの確かな才能を感じることができる逸品

昨年12月にはアルバム『PotLuck Songs』を発表したことも記憶に新しいBEGINだが、その収録曲である「君の歌はワルツ」が2月22日からロードショー公開される映画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』の主題歌に。現在、『第23回 BEGINコンサートツアー 2019』の真っ最中で、2月24日の東京・中野サンプラザ公演の他、3月の愛媛、大阪もソールドアウトと、結成30周年を経てもなお人気の衰えない沖縄県石垣市出身の3人組である(東京公演は4月に追加公演が決定!)。今週はそんな彼らのここまでの足跡とともに、デビュー作品である『音楽旅団』にスポットを当ててみる。

■セールス面に左右されない強さ

BEGINの足跡にさほど詳しいわけではないので、まずはそのプロフィールを調べることから始める。さすがに結成30周年、並びにデビュー25周年を超えたバンドなだけに、多作であることに目を惹かれた。シングルは2018年8月に配信された「飛んで火に入る腹の虫」が45作目。アルバムは2018年12月に発表した『Potluck Songs』が40作目。まぁ、シングルは再発を含めての数字で、アルバムはベスト盤やBOXセット、ライヴ盤等を含めての数字なので、その作品数はびっくりするほどのものではないのかもしれないが、そのチャートリアクションには少し驚いた。若干ご無礼な物言いが含まれると思うので、メンバー、関係者、ファンへは先に謝罪しておくけれども──何と言うか、結構渋い印象だ。鈍いと言ったほうがいいかもしれない。

Wikipediaによれば、シングルではデビュー作の「恋しくて」の4位が最高。その他で目立つのは35th「笑顔のまんま」(2009年発表・BEGIN with アホナスターズ名義)の12位くらいで、ベスト10入りはおろか、50位台も案外少ない。所謂アルバムアーティストであるならそういう傾向もあるだろう。そう思ってアルバムのほうを見ると、こちらも似たような感じで、最高が『BEGIN シングル大全集』(2005年発売)の5位。あとのベスト10入りは2作ほどで、ざっと見た感じでは50位前後が多い感じではある。そうは言っても出典がWikipediaだしなぁ…と思い、オリコンのwebサイトも見てみる。だが、こちらは彼らのシングル、アルバムそれぞれのランキングであって、その全作品の過去最高位が示されているわけでもなかったので、結局のところ、Wikipedia以上の情報を引き出せなかった(と言っても、オリコンのランキングが不完全だとか悪いとか言いたいのではない。念のため)。一次資料が入手できなかったので正確なところではないだろうが、BEGINが大きくチャートを賑わしてきたアーティストではないことを何となく認識したところである。

誤解のないようにお願いしたいが、かと言って別にBEGINを腐したいわけでも、ディスりたいわけでもない。むしろ逆だ。アーティスト、バンドにとってマネジメント会社もレコード会社も終身雇用の就職先ではない。それどころか、プロスポーツの選手同様、複数年契約で結果が出なければ契約を更新できないことが当たり前の世界である。全てがその限りではないのだが、概ねそうだと言っていい。3年間で3枚アルバムを制作して、その後については双方で協議とか、たぶんそんな感じだ。コンスタントに結果が出ていてもレーベルを変わることはあるが、その逆のケースはほとんどないだろう。レーベルが何度か変わってもマネジメント会社は変更しないことは多いが、それにしても売上や動員が芳しくなければ果ては契約解除というのが常ではなかろうか。これもまた、全てがその限りではないだろうが、大きく間違ってはいないと思う。

もう一度、BEGINのチャートリアクションの話に戻る。シングルで言えば、1st「恋しくて」→2nd「Blue Snow」→3rd「YOU/これがはじまりだから」が4位→25位→82位と新作が出る度に順位を下げている。アルバムも1st『音楽旅団』→2nd『GLIDER』→3rd『どこかで夢が口笛を吹く夜』で7位→不明→27位と最高順位を落としている上に、レーベル移籍第一弾であった4th『THE ROOTS』はさらに順位を下げ、74位という結果であった。この数字の推移だけ見ると、その数年後に姿を消すようなバンド…とは言わないまでも、25年後にメジャーで活動しているとは思えない結果ではある。

しかしながら、ご存知の通り、BEGINは今もメジャーフィールドにいる。そればかりか、メジャー進出以降、一度もマネジメント会社を離れたこともなく、レーベルは数度チェンジしているものの、いずれも所謂インディーズではないし、レーベルと契約しない期間が長く空いたりしたこともない。これには、もちろんマネジメント会社が大手でいろんな意味で余裕があるところもあるのだろうし、もしかするとBEGINの3人が条件面で細かいことをまったく言わない人たちなのかもしれないとか(真面目な話、そこに交渉があるのは当然だろうけど…)、セールス面だけに左右されない何かがBEGINに備わっているからであることは間違いない。その何かのうち、最も大きな要因はと言えば、これはもう、このバンドの音楽性に他ならないであろう。今回、BEGINのデビューアルバム『音楽旅団』を改めて聴いたが、未加工でもその価値が高いことが分かる宝石の原石のような、彼らのポテンシャルが詰まった作品であることを再確認させられた。この才能を簡単に手放す馬鹿な事務所、メーカーは、今も昔もいないだろう。

■聴き手を選ばない親しみやすい歌声

まず、比嘉栄昇(Vo&Gu)の歌声である。聴き手を選ばない、とてもいい声だ。ブルースシンガーはハスキー(“しゃがれた”と表現した方がいいか)であったり、喉の奥から絞り出すようであったり、わりとアクの強い声を持つミュージシャンが多いのだが、彼の声はいい意味で特徴がない。強いて言えば、どちらかと言えば細い声だと思う。また、歌が上手いのは間違いないが、それを殊更に誇示するようなところもない。少なくともアルバム『音楽旅団』では派手にフェイクを利かせているような箇所は確認できない。生真面目というよりも、朴訥な印象を受けるヴォーカルである。

昨年末、BEGINがラジオ番組に出演した際、初めて買ったCDがシングル「恋しくて」だったという番組の女性アシスタントが、『三宅裕司のいかすバンド天国』(以下、“イカ天”)での彼らの演奏に触れて、“それまでブルースというものを聴いたことがなかったので衝撃だった”と仰っていた。仮に比嘉の声がB.B. KingやAlbert King、あるいは憂歌団の木村充揮のようであったら、彼女はBEGINに興味を持ったであろうか。比嘉の声の汎用性の高さというか、その親しみやすさは初期BEGINの推進力となったことは議論を待たないであろう。

もちろん、M8「恋しくて」は問答無用に素晴らしいし、アルバム『音楽旅団』収録曲はどの曲でもいい歌声を聴くことができるのだが、個人的にはM4「白い魚と青い魚」を推したい。のちのシングル「笑顔のまんま」や、本作で言えばM3「SLIDIN’ SLIPPIN’ ROAD」、M6「いつものように」、M10「星の流れに」のようなポップな楽曲も悪くはない。だが、先ほど、“どちらかと言えば細い声”と評させてもらったが、この感じはマイナー調に合うと思う。切ない系のラブソングならなおいい。M4「白い魚と青い魚」は歌詞内の物語が誰にでも分かるものではないので、切ない系のラブソングではないのかもしれないが、そうとしか感じられない綺麗な歌声である。物悲しさを助長していているかのような上地等(Key)の鍵盤の絶妙な絡み具合も素晴らしく、そこも聴きどころだと言える。

■ブルースだがそれだけでない音作り

前述の通り、ブルースバンドと言われていた初期BEGIN。オープニングM1「SOUND OF SUNRISE」からしてアコギの単音弾きがまさしくブルージーで、間奏ではボトルネック奏法を披露している。この他にも随所でブルース然としたサウンドを聴くことができるが、本作『音楽旅団』は決してそれ一辺倒ではない。のちに18thシングル「涙そうそう」(2000年発表)や23rd「島人ぬ宝」(2002年発表)で沖縄音楽=島唄を取り入れたり、あるいはJ-POP寄りにもなっていくBEGINの、現在のスタイルの萌芽とも言うべきものを見ることができる。

島唄要素はM3「SLIDIN’ SLIPPIN’ ROAD」。三線とブルースギターの融合がとてもいい感じの、オキナワンR&Rとでも言うべきナンバーだ(《30になったとき/うまいバーボン飲むのさ》《30になったって/奴とバーボン飲むのさ》は、少なくとも一部は“泡盛”か“古酒”にすればもっと良かったと思うのだけれども…あくまでも個人の感想です)。

L.A.録音だからなのか、また、この頃のメンバーが洋楽に傾倒していたこともあってなのか、分かりやすく米国音楽も取り込まれており、カントリー調のM2「流星の12弦ギター」とM5「8月の森へ行こう」、アメリカ民謡風なM6「いつものように」、ジャジーなM10「星の流れに」と、多彩である。ただ、それにしてもルーツミュージック然とした感じではなく、しっかりとポップに仕上げているのがポイントとは言える。M10「星の流れに」が最も分かりやすいだろうか。後半のThe Beatles「Hey Jude」を彷彿させる《LaLaLaLa……》は最初に聴いた時は若干戸惑ったものの、聴き手を意識したものだと考えると合点もいくし、好意的にも受け取れる。確かにそのサウンドはブルースと呼べるものであったが、強い悲哀を感じさせるような内向的なものではなく、メロディーやコードは開放的なものなのである。その辺は所謂J-POPに通じるものであったと思う。M9「砂の上のダンス」のサウンドの優雅な感じはヨーロッパ的でアルバムの中では少し異質な印象もあるが、それにしてもメロディーはフォーク調で親しみやすいというのも、同じことではなかろうか。

この辺りはもともとBEGINがコテコテのブルースバンドではなかったことにも起因しているのだろう。[結成当初はハードロックを演奏していたが、下手だと指摘され、のちにブルース調の楽曲を作るように]なったというのは有名な話([]はWikipediaからの引用)。前述のラジオ番組に出演した時には、島袋優(Gu)がそれまでアコースティックギターの弦を張り替えたことがなかったことを笑いながら白状していた。それゆえにか、メジャーデビューしてからは、関西のベテランブルースバンドである憂歌団やサウス・トゥ・サウスのライヴに誘われることもあったそうだが、そこにも今ひとつ馴染めなかったという。さらにはナッシュビルへ行った時、3人とも洋楽コンプレックスが解けたとも語っていた。おそらくそれは1993年発表の5thアルバム『MY HOME TOWN』制作時のことだろう。曰く、「洋楽に近付けば近付くほどカッコ良いという想いがあった。だけど、そんなことはないんじゃないか? 絶対ここには入れないと思った」とのこと。そこから自分たちができる音楽を考えたことが、彼らが今、島唄を演奏していることへとつながっていったとも言っていた。

デビューは華々しかった彼らだが、無論ここまで苦労と無縁だったわけではなく、冒頭で述べたチャートリアクションが鈍い時期には大分逡巡したところもあったそうである。しかし、そんな中でも現在に通じる自分たちの音楽性を確立することができたのは、(彼らを支えた事務所、メーカーがいたことはもちろんのこと)未完成だったかもしれないが、その片鱗とも言える要素を第一作目からキチンと入れ込んでいたからだろう。デビュー作にはそのアーティストの全てがあるとはよく言うが、『音楽旅団』もまたそのひとつである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『音楽旅団』

1990年発表作品

<収録曲>

1. SOUND OF SUNRISE

2. 流星の12弦ギター

3. SLIDIN’ SLIPPIN’ ROAD

4. 白い魚と青い魚

5. 8月の森へ行こう

6. いつものように

7. 追憶のシアター

8. 恋しくて

9. 砂の上のダンス

10. 星の流れに

11. ほほ笑みに続く道

【関連リンク】
『音楽旅団』は宝石の原石のようなBEGINの確かな才能を感じることができる逸品
BEGINまとめ
琴音、初ワンマンツアーのバンドメンバーを発表