80年代初頭から中期に流行したシンセポップのチープなサウンドからの反動か、80年代中頃になると重厚なヘヴィメタルに人気が集まる。90年代にはニルヴァーナやパール・ジャムをはじめとするオルタナティブな感覚を持ったグランジのグループが圧倒的な勢力で世界へと展開していった。カート・コヴェインやエディ・ヴェダーら、60sロッカーのようなスーパースターを輩出するものの、90sに求められるのは等身大のロッカーであった。その頃、CMJ(カレッジ・メディア・ジャーナル)で人気を集めたのはREMやべックといったオタク系ロッカーだったことがその証明になるかもしれない。
今回紹介するウィーザーもスター性のないアマチュアグループ的風貌であったが、シンプルなビートと軽妙なパワーポップテイストが大いに受けた。特に彼らのデビュー作となる『ウィーザー(ブルー・アルバム)』は、国内外を問わず未だに数多くのフォロワーを生み続けているエポックメイキングな作品である。
■第2次ブリティッシュ・インベイジョンとアメリカのインディーズ
80年代初頭のアメリカでは、打ち込み主体のシンセポップに背を向けた人力演奏志向のアーティストたちはインディーズで活動していた。あまり陽の目を見ることがなかったことが幸いしてか、地域ごとに個性あるサウンドが生み出されていくにつれ、この頃から各地でインディーズレーベルが増加している。メジャーのチャートでは第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンもあって、ヒューマン・リーグ、デュラン・デュラン、ウルトラヴォックス、ユーリズミックスなどに代表されるイギリスのニューロマンティックに注目が集まっていたのだが、その頃からアメリカの学生たちの間ではインディーズのグループが聴かれ始めていて、そのあたりは当時のCMJチャートを見ると一目瞭然である。
80年代後半になると、その後のロックシーンを予言するような重要なアルバムが相次いでリリースされている。オルタナティブの核ともなった頭脳派ノイズバンド、ソニック・ユースの『デイドリーム・ネイション』、メタルバンドとは一線を画した爆音グループ、ダイナソーJrの『バグ』、メタリカやレッチリの注目作がリリースされ、90年代オルタナティブはすぐそこに来ていたと言えるだろう。
■短命だったグランジブームと ブリットポップの波
そして91年、ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』とパール・ジャムの『テン』がリリースされる。これらのアルバムによってグランジ/オルタナティブが世界中のリスナーに認知されることになる。94年にはグリーンデイの『ドゥーキー』が1000万枚以上のセールスを記録し、グランジ熱は頂点に達していた。
イギリスでも、アメリカのオルタナティブ勢に影響を受け、ビートルズ以来のイギリス王道サウンドとも言えるブリティッシュポップを武器に、オアシス、ブラーらのブリットポップ勢がブレイク、同時にジャミロクワイやブラン・ニュー・ヘヴィーズのようなアシッドジャズも生まれている。第2次ブリティッシュ・インベイジョン以降、90年代半ばにしてアメリカとイギリスのロック事情はかなり違ったものになるのだが、風土や文化の違う国だから好まれる音楽が違うのは至極当然のことだと思う。
■アマチュアバンドのような 風貌のウィーザー登場
その後、アメリカではグランジ熱が急速に冷め、代わって台頭してくるのはスター不在のグループたちだ。その原型となるパワーポップのスタイルは80年代の初頭すでにフィーリーズやThe dB’sが提示したものであったが、彼らはまだ地域的なグループから脱皮できてはおらず一般リスナーに対する認知度は低かった。
92年にロスで結成されたウィーザーは、インディーズ的なCMJとメジャーそのもののMTVの両者に認められたスター不在のオタク的要素を持つグループの最右翼であった。ウィーザーはギターとボーカルのリヴァース・クオモをリーダーに、同じくギターとヴォーカルのブライアン・ベル(当初、ジェイソン・クロッパーがギターであったが、デビュー作のレコーディング中に辞めたため、入れ替えで参加)、ベースとヴォーカルのマット・シャープ、ドラムのパトリック・ウィルソンの4人組で、ほとんどの曲をリヴァースが手掛けている。
■本作『ウィーザー(ブルー・ アルバム)』について
94年に本作『ウィーザー(ブルー・アルバム)』はリリースされるが、所属していたゲフィンレコードの意向でシングルは出さなかった。リリース当初はさほど売れなかったが、まずシアトルのラジオ局で「アンダン〜ザ・スウェター・ソング」がヘビーローテーションされたのを機にシングルリリースが決定、続いて当時飛ぶ鳥を落とす勢いのスパイク・ジョーンズ(白人のほう)が監督した同曲のミュージッククリップがMTVでオンエアされるとたちまち火がつく。シングル2作目の「バディ・ホリー」もPVをスパイク・ジョーンズが手掛け、これが大ヒットする。結局、MTVのビデオ・ミュージック・アワードで4部門受賞したこともあって、本作はあっと言う間にミリオンセラーとなりデビュー作にして全米チャートで16位という成功を収めた。現在では300万枚以上のセールスを記録しており、オルタナティブロックとしては異例の売り上げとなっている。
この成功は彼らが意図したものなのかどうかは分からないが、少なくともラジオ局、MTV、CMJなどさまざまな連携によって生み出されたものである。本作のシンプルなビートバンドとしてのスタイルは、当時の肥大化したグランジシーンで疲弊した観客に向けた癒やしの存在という位置付けであったのかもしれないが、今聴いても彼らのサウンドは古くなっておらず、プロデュースを担当したカーズのリック・オケイセクの手腕もさることながら、“やはりウィーザーはすごいぞ!”と思わせるスピリットを持っていると思う。
収録曲は全部で10曲。パフォーマーとして華があるわけでも派手なテクニックを見せるわけでもない。しかし、リスナーと同じような等身大の若者の内面を、さわやかな疾走感に乗せて正直に歌う姿に感動するのである。不器用だが誠実さを感じるグループである。
これまで、何度も発売するとアナウンスされながらリリースされなかった彼らの13枚目にあたる『ウィーザー(ブラック・アルバム)』が3月1日にようやくリリースされることになった。アルバムのリリースに合わせてピクシーズとのダブル・ヘッドライナーによるツアーも決まっているので、興味のある人はこれを機にウィーザーを聴いてみてください♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Weezer (The Blue Album)』
1994年発表作品
<収録曲>
1. マイ・ネーム・イズ・ジョナス/My Name is Jonas
2. ノー・ワン・エルス/No One Else
3. ザ・ワールド・ハズ・ターンド・アンド・レフト・ミー・ヒア/The World Has Turned and Left Me Here
4. バディ・ホリー/Buddy Holly
5. アンダン~ザ・スウェター・ソング/Undone〜The Sweater Song
6. サーフ・ワックス・アメリカ/Surf Wax America
7. セイ・イット・エイント・ソー/Say It Ain’t So
8. イン・ザ・ガレージ/In the Garage
9. ホリデイ/Holiday
10. オンリー・イン・ドリームズ/Only in Dreams
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