Music Information

リスナーに媚びないロックスピリットを提示したジョン・メイオール&ブルースブレイカーズの『ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』

ヤードバーズのリードギタリストとして一世を風靡したのがエリック・クラプトンである。ヤードバーズはリスナーに媚びないロックスピリットを持った最初期のロックグループとして知られているのだが、実際にはデビュー直後から徐々にポップ路線へと舵を切っていたのである。真のブルースを追求していた硬派のクラプトンにとって、ヤードバーズに参加して名声は得たものの、ティーンエイジャーを相手にした“売るため”の音楽を提供することに嫌気がさしていた。そして、彼は65年にヤードバーズを脱退し、ブリティッシュブルースを先導していたジョン・メイオール&ブルースブレイカーズに参加、その翌年に本作『ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』をリリースする。当時イギリスでは大きなブルースブームがやってきており、本作は全英チャートで6位まで上昇するヒットとなる。クラプトンの最初の絶頂期とも言えるディストーションの効いた切れ味鋭いギターワークをはじめ、本作におけるグループの演奏は単なるブルースの焼き直しではなく、真の意味でのロックスピリットを持った普遍的な名作に仕上がっている。

■アレクシス・コーナーと ジョン・メイオール

60年代中期までは“ロック”と言ってもポピュラー音楽の一ジャンルであり、メジャーレーベルに所属している以上、売れることが最優先の課題であった。イギリスでブルースを追求していたアレクシス・コーナーは裕福な家庭に育ったため、お金のために音楽をやっていたわけではなく、良い音楽を演奏するためだけに活動していた。彼は後進の若いミュージシャンたちにブルースやジャズの精神を伝え、徐々にフォロワーを増やしていった。その教えを受け、コーナーの右腕ともいえる存在になったのがジョン・メイオールである。

メイオールもまた裕福な育ちであり、生活に追われることなく良い音楽を生み出すために活動していたのである。イギリスでは、ブルースの本場であるアメリカと違って本物のブルースマンが身近にいるわけではなく、他国の文化であるブルースをデフォルメしたり変形させたりすることが自由に行なわれていたのかもしれない。コーナーやメイオールはブルースとジャズを混ぜ合わせるなど(もともとジャズはブルースの変形でもあったわけだが…)、イギリスならではのブルースの形態を模索する中で、クラプトンをはじめ、ピーター・グリーン、ミック・フリートウッド、ミック・テイラーらのようなロックフィールを持ったミュージシャンを育てていく。そして、彼らもまたメイオールと同じようにブリティッシュブルースロック界を牽引していくのである。

■ジョン・メイオール &ブルースブレイカーズのデビュー

メイオールは63年にブルースブレイカーズを結成、数枚のシングル作品をリリース後、65年にライヴアルバム『ジョン・メイオール・プレイズ・ジョン・メイオール』でデビューする。この時のメンバーにはメイオールの他、フリートウッド・マックの中心的存在となるベースのジョン・マクヴィー、ドラムには後にスワンプロックグループのマクギネス・フリントを結成するヒューイ・フリント、ギターにロジャー・ディーンらがいた。この時の演奏はR&Bのテイストを併せ持ったブルースバンドそのものであり、ライヴだけにノリを重視した作品となっている。当時としては本格派のブルースを聴かせているものの、残念ながら平均的なレベルを超える作品ではない。

■ハードなクラプトンのギターワーク

ブルースブレイカーズのデビュー作がリリースされてすぐヤードバーズから合流したクラプトンは、当初はブルースの原理主義者的な追従者ではあったものの、当時のアメリカで流行となっていたサイケデリックロック的な演奏も取り入れ、独自のギタースタイルを創りつつあった。彼のギタースタイルが完成するのはブルースブレイカーズを脱退した後のクリーム時代になるのだが、メイオールはクラプトンのアンプを歪ませたディストーションのかかった音と、ライヴ時の攻撃的なギターワークを高く評価していた。なので、クラプトン加入後のアルバムも最初はライヴ盤を予定していた。実際、ベースにジャック・ブルース(後にクラプトンとともにクリームを結成)を迎えてライヴ録音もしていたのだが、音がちゃんと録れてなかったようでリリースは見送られることになる。この時のライヴ録音はその後いろんなコンピレーションで紹介されているので、興味がある方は探して聴いてみてほしい。

■本作『ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』について

本作をレコーディングするにあたってクラプトンが準備したのは、マーシャルのギターアンプを使ってギブソンレスポールの音を歪ませることだった。本作を通して聴ける彼のギターはロックの新しい指針となり、このアルバムがリリースされてからは多くのギタリストが本作で聴けるようなチューンアップを施すのである。このセットアップがハードロックの誕生を後押ししたことは間違いないだろう。

アルバムの大きな特徴としては、クラプトンのギターが冴え渡っていることに尽きる。ブルースナンバーを中心に演奏しているが、すでにハードロックの萌芽を感じさせる先鋭的なプレイで、彼がギターの神様と呼ばれるようになるのは、本作でのギタープレイが圧倒的であったからに他ならない。音作りも含めて、まさに革命的なギターワークを披露している。ブリティッシュロックのギタリストにはハイテクニックの猛者が多いが、その理由は本作に影響を受けたミュージシャンが多いからである。『ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』はブルースロック作品であるにもかかわらず、全英チャートで6位まで上昇しており、当時のクラプトン人気を窺わせる結果となった。

収録されているのは12曲、オーティス・ラッシュの渋い「オール・ユア・ラブ」のカバーを始め、フレディ・キングの「ハイダウェイ」、メンフィス・スリムの「ステッピン・アウト」といったクラプトンが後に何度も取り上げるシカゴブルースナンバーが半分、R&B(レイ・チャールズ)1曲とオリジナルが5曲というセレクションだ。なお、ロバート・ジョンソン作の「ランブリン・オン・マイ・マインド」では、クラプトンがプロになって初めてリードヴォーカルを担当している。

クラプトンは本作一枚に参加しただけでグループを脱退、同年夏には本作のセッションで共演を果たしたジャック・ブルースと、グレアム・ボンド・オーガニゼーションに在籍していたジンジャー・ベイカーとの3人でクリームを結成、ブルースを基盤にしながらもインプロビゼーションに重きを置いたまったく新しいロックの世界を切り開き、ロックシーンに多大な影響を与える存在となる。クラプトンの転機(ロックの転機とも言える)となった重要作が、本作『ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』なのである。本作をリリースした時、クラプトンはまだ21歳(!)であった。

TEXT:河崎直人

アルバム『Blues Breakers with Eric Clapton』

1966年発表作品

<収録曲>

1. オール・ユア・ラヴ/All Your Love

2. ハイダウェイ/Hideaway

3. リトル・ガール/Little Girl

4. アナザー・マン/Another Man

5. ダブル・クロッシン・タイム/Double Crossing Time

6. ホワッド・アイ・セイ/What’d I Say

7. 愛の鍵/Key To Love

8. パーチマン・ファーム/Parchman Farm

9. ハヴ・ユー・ハード/Have You Heard

10. さすらいの心/Ramblin’ On My Mind

11. ステッピン・アウト/Steppin’ Out

12. イット・エイント・ライト/It Ain’t Right

【関連リンク】
リスナーに媚びないロックスピリットを提示したジョン・メイオール&ブルースブレイカーズの『ブルース・ブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』
John Mayallまとめ
John Mayall’s Bluesbreakersまとめ
ONE N’ ONLY、2ndシングル「Dark Knight」発売&リリースイベントも決定