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吉田凜音も参加したダンスイベント『Green Light!』のレポートが到着

11月19日、TSUTAYA O-EASTに実力派若手ダンサーが集まり、“彼ら自身が作り上げたイベントが開催される”と噂を聞きつけてやってきた。月曜平日夜というこんなにも不都合な日時に、しかも“ダンス”という表立たないアートに観客は集まるのだろうか。

開演30分前に到着、パソコンを開きライティングの準備を始める。予想に反し観客は続々と集まり始め、10分前には2階席まで満員となった。ある程度の有名アーティストでないと埋められないO-EASTが…。筆者(24歳)よりはるか年下の子たちが作り上げる舞台にとてもワクワクしてきた!

今回はキャプションごとに解説し、最終的にメインディレクターのSota(所属チームGANMI)が打ち出したテーマ『赤信号をアオシンゴウに“Green Light!”』の意味するものは何であるのかを考察していきたい。

<出演順>

1.Dr.SWAG

2.Alaventa

3.show-yA (KAENN-GUN)

4.SAYANINJA

5.GANMI(Sota+Kazashi+kooouya)+Daiki+Fumiya

6.QueenMe

7.QUART2

8.kEnkEn

9.吉田凜音

10.Aoi+Shiori Takakura

11.Yumeki

12.KikiRara

■■Dr.SWAG

日本最強SWAG少年を自ら公言するKAITAと山火を内に秘めるKAZの真逆の2人から成るチーム。2045年にワープした二人は、ドライブしながら“30年前に活躍したDr.SWAGというチームがYABAI!と聞いた、いつか動画をみてみたいな“と話す。車を降りると、1台のボロボロのテレビからベージュのコートを着たメンズ2人が踊っている映像が流れ、Dr.SWAGのショーが幕を開ける。

曲は1985年に生まれた伝説のヒップホップパーティーソング、Doug E.Fresh&Slick Rickの「La Di Da Di」をサンプリングした、The Black Eyed Peasのニューアルバムから「Constant Pt.1 Pt.2」の1曲使い。いつもとは違うシックな雰囲気を醸し出した3分のショーケースに観客はオープニングから引き込まれた。時代をクロスオーバーしたコレオグラフは長年ダンスをともにしてきた2人にしか作れないであろう。

■■Alaventa

日本最高峰のコンテスト『JAPAN DANCE DELIGHT Vol.24』で見事3位に輝いたハウスダンスチーム。Tamiaの超ヒット曲「Official Missing You」から「Amine-Caroline」と、ゆったりR&BからがっつりHIPHOPとハウサーとは思えない選曲。もはやジャンル不明、彼らだからこそ魅せられるものをいきなりぶちかましてきた。

しかしその後先輩ダンサーが登場し、説教を受ける。“お前らは足りない! 歴史を学んでないしクラブとかに出て観客の前で踊れ。中で楽しんで踊っているだけじゃだめだ”そんな言葉を浴びせられた3人がMOROHA「宿命」に気持ちをのせる。

《弱い犬だからよく吠えるんだよ/黙ってどうなる?吠え続けろ》

先輩からかけられる言葉、周りからの目。気にしない振りをしているけど本当は認められたい。その矛盾の狭間にいる僕たちが本当に信じられるのは自分自身だけ。心の叫びを吠え続けた彼らの背中はとても大きく見えた。

その後に披露されたソロダンスでは、POPPINやJAZZなどをミクスチャーしたダンスで、彼らが今挑戦し開拓しているものを披露。最後はAlaventaの王道ともいえるスキルフルなハウスダンス、3人の素晴らしい掛け合いが光ったショーケースで15分間を締めた。

■■show-yA (KAENN-GUN)

K-POPアーティスト、EXO_CBXのバックアップも務めるshow-yAによってシンクロナイズされた日本最高峰のCREW “KAENN-GUN”が表現する“私たちが生きる中で存在する世の中”。オーディションによって評価されてしまったり、他人と違うことをターゲットにいじめを受けてしまったり、世の中は汚れている。人と人は貶し、憎み合う。

セクシーな女の子たちが魅せるモノ、小学生くらいの子たちが魅せるモノ、青少年たちが魅せるモノ、とパートに分けてダンスを披露していく。そこから暗に伝わってくるのは、“良いも悪いもない、これでいい”というメッセージ。最後は誰もが街中で毎日見かけるサラリーマンが着るスーツを身にまとったマネキンを蹴り倒して幕を閉じる。言葉では中々言いたがらないかもしれないが、多くの人は定型的で無個性なものを容易に受け入れ、違いを避ける。そんな世の中に彼らは飽き飽きしているのだ。

読者はクィア(Queer)という言葉を知っているだろうか。セクシャルマイノリティを表すLGBTの末に加わったQのことである。今はLGBTQと表現することが多いのだが、異性愛者や“心と体の性が一致している人”以外の人のことを指す。しかし元々クィアは“不思議な”とか“風変わりな”という意味であり、誰にでもあてはまるもので一定の概念は存在しない。性に関してのマイノリティを肯定的にとらえる言葉であり、日本ではまだ浸透していない。ただしこれからの日本にこそ必要とされる考え方であり、KAENN-GUNは若いながらも人と違うことに対して否定的な国に訴えかけた素晴らしい作品を作ったのではないかと考える。

■■SAYANINJA

ダンスの聖地とも言われているロサンゼルスに留学し、15歳の時から日本とアメリカを行き来。自国とアメリカの価値観を手にした独自の世界観を持ったコレオグラフで若者から絶大な人気を誇るSAYANINJA。

NickiMinajやBritney Spearsなど強い女性をモチーフに、日本では見ることができないようなショーケースを魅せつけた。

しかしSAYANINJAという名前からもわかるように彼女はジャパニーズカルチャーを特に大事にしている。読者は赤丸の旗を持って歩いている人に声をかけられたらどう思うか想像してほしい。日本は愛国心に関してネガティブな思想を持っている。そこに19才の女の子はすでに着眼点を持ってきているのだ。

アメリカというダンスが生まれたといっても過言ではない国でいくら学んだとしても、彼女は日本を捨てない。SAYANINJAはアメリカナイズされた日本の原点を掘り出し、世界にその素晴らしさを伝える文化人としての立ち位置を知らしめているのだ。学校の勉強では教えてもらえない世界を彼女はダンスを通じて表現する列記としたアーティストなのである。

■■GANMI(Sota+Kazashi+kooouya) +Daiki+Fumiya

2016年VIBE DANCE COMPETITIONで日本人初の優勝を遂げ、今日本で一番キテるCREW GANMIが男子校を設立したらしい。名前は私立GANMI学園、校長先生はメンバーのKENZO。“3人がどんな学生生活を送っているのかのぞいてみましょう!”その3人とは、GANMIからSota、Kazashi、kooouya。彼らの学生時代の姿が垣間見えるようなガチ揃えかつコミックなダンスをCreepy Nutsの「中学12年生」で披露。確実にファンが見たいと思うものであり、期待を裏切らないショーケースに観客は湧いた。

そしてGANMI学園の転校生としてゲストが登場、両者ともダンスボーカルユニットの先駆けw-inds.のバックアップもこなすFumiya&Daiki。12月に来日公演を行うNAOの透き通る声に劣らず負けず、爽快でクールなダンスを披露した。Fumiyaをイケメンだからといって調子づいていると言いがかりをつけるKazashi、それに対しチビだしなんかうざいと突拍子もないことを言うFumiya。転校生VS在校生のダンスバトルで決着をつけることに。オーディエンスジャッジであったが、急遽TeensDanceCampで優勝した名古屋ダンサー、Daikiの弟子でもある中学3年生AROEが登場し、彼が優勝した。

結果両者敗北でまとまり、5人イケメン揃ったということで…嵐の「Love So Sweet 」を披露。ダンスをやったことがない、見たことがない観客も歌を口ずさみ、イベントは中間地点でありながら会場は一体感を増した。

■■QueenMe

続いては史上最年少で三浦大知バックダンサーに選ばれたRIEHATATOKYOのMacotoが教頭を勤める女子高クイン女学院の様子をお届け。クイン女学院の中心メンバーは世界中をWORKSHOPやショーケースで駆けまわるAkoとHIPHOP LEGEND Mr Wigglesもその実力を認めバトル界をも総なめするReiNa、2人合わせてQueenMe。

2018年パワープレイされた楽曲を使いながらも、メインは1996年の大ヒット曲Spice Girlsの「Wannabe」。この曲のリリックからもわかるように、“Friendship never ends.”。“友情は永遠、女子の絆は切れることなんてない!男なんて必要ないし、私たちは今を全力で楽しんでいる”そんな青春物語を綿密に描いたショーケースを披露した。しかしトラップメタルの一線を歩く6ix9ineの「STOOPID」を使うなど、小悪魔的一面も見せつつQueenMeのスキルフルなダンスに観客は度肝を抜かれた。

■■QUART2

Abema TV主催『GENERATIONS高校』ダンスカップで見事準優勝を果たしたRenaとamaneから成るQUART2が共学校の様子を描いた。テーマは“DANCE×FASHION 全て女の子に捧げる物語”。全身青の体操着で登場したRenaは同級生のおしゃれ男子に恋をするが、地味で陰キャラであることを理由にフラれてしまう。おしゃれ番長amaneの支えとともに、ファッショニスタP→★(TEMPURA KIDZ)に指導されRenaは美しい姿に変貌を遂げる。

K-POPアーティスト SURANとDEANによる楽曲Walkin’や、彼女たちの代表作KehlaniのUndercoverで踊るなど、今の中高生にクリーンヒットするショーケース作りとなっていた。若者のセンスに特に敏感なQUART2ならではの才能が露呈したものになったのではないだろうか。

■■kEnkEn

フィリピン人は他のアジア人よりも音楽能力が長けているという噂を聞いたことはないだろうか。確かに歌が上手い人が多いというイメージがあり、Youtubeにも歌唱動画が山ほどある。しかしそれは先天的能力ではなく、文化なのだ。車や工事の音が響き渡る騒音社会で、民族舞踊などで小さい時から音楽に慣れ親しんでいる子供たちは、踊ることにも歌うことにも抵抗がないうえ、大声で歌っていたとしても誰も文句を言わない。日本であれば、ストリートでパンクロックを演奏すれば警察に止められてしまう。つまりフィリピンの日常はより音楽に近いのだ。環境が生み出したフィリピンの音楽的感覚と、日本人の繊細さの間に存在するのがkEnkEnである。

ほぼストーリーなくダンス力だけで勝負したショーケース、言わずもがな彼のセンスは凄まじい。また彼はレゲエカルチャーが好きなのか、積極的に音も技術もジャマイカニュアンスを取り入れ、オリジナリティを深めていた。ゲストにはQueenMeからAko、QUART2からamane 、この後コレオグラファーとしても登場するYumekiが。kEnkEnがサウンドメイクした楽曲で、一斉に4人が机上で披露するタット(手技)は圧巻であった。全てをクリエイティブする彼の才能は宇宙にも通用すると断言できる。

■■吉田凜音

インディーズ時代のバンド活動や、ラッププロジェクト『RINNE HIP』が評価され、2017年にビクターエンタテイメントよりメジャーデビュー。SKY-HIも彼女のラップスキルを讃えるなど音楽シーンからの支持も得、現在NIKEとABC-MARTのTVCMにも抜擢されるなど、活躍の幅を広げている吉田凜音。ダンスが好きで、ダンスシーンにも注目している 彼女のたっての希望があり、今回のイベントに参戦が決定した。

そんな現役女子高生17歳の吉田凜音が一流若手ダンサーとのパフォーマンスを4曲披露した。ラップだけでなく、和のテイストを取り入れたり、メロウな楽曲もキュートな歌声でこなしたりと17歳とは思えない幅の広さ、ダンスイベントながらもオーディエンスは彼女に夢中になった。Youtube120万回再生を突破しているパーティアップでは観客も一緒に盛り上がりを見せていた。“ラップというとなんだか怖くて、近寄りがたい”その概念をぶち壊すとんでもない御出座し、時代の変遷を感じる実に素晴らしいパフォーマンスであった。

<セットリスト>

2.Ride On Turtle –NATT!(あやの&はるな)

2. Kesalan Blues –SAYANINJA

3. Eye Candy –QueenMe

4. パーティアップ –QUART2

■■Aoi+Shiori Takakura

アメリカと日本を行き来しながら、独自のダンスを発信し続ける実の姉妹ユニット、Aoi+Shiori Takakura。2人の名はAoiとShiori、椅子を使ったヒールダンスにまるでブロードウェイの世界に引き込まれたような感覚に陥った。Yanis MarshalやCandace Brownといった大御所とも共演を果たしているからなのか、20歳なり立てとは思えない雰囲気を醸し出している。

ここで『〜スタッフだって踊りたいの〜 エンジェルコウ美活 ヒールを学ぶ編』と題した企画が始動、途中からEn DANCE STUDIOのSTAFF エンジェルコウがスペシャルゲストとして加わり、3人はDestiny’s Childを思わせるダンスを披露、Green Lightの他メンバーとはまた違った側面から魅せつけた。高倉姉妹は煌めくニューヨークの夜の街を演出、他出演者もK-POPの楽曲を使ったりレゲエの振りを取り入れたりしている。若いながらに日本文化だけでは収まらない広い視野を持ちアウトプットしているところも彼らの魅力に違いない。

■■Yumeki

日本だけでなく韓国や中国を主にアジアで絶大な人気を誇るYumeki。アンニュイな雰囲気とは裏腹に、踊っている時のYumekiは誰も止めることができないだろう。Yumekiのコレオグラフは特に表面的なストーリー仕立てはなく、高レベルなダンサーを添えてショーを披露した。彼の独特なセンスや能力にインスパイアされた仲間たちによるダンス、特に印象的だったのがYumekiとQUART2のRenaとamaneによるコラボレーションパートだ。彼らは元々ViAというチームを組んでいて、数々のコンテストで入賞を遂げていた。ファンにとっては念願の復活、たまらないシーンとなった。

確かに彼自身の体のアイソレーション技術は唯一無二で世界レベルだ。しかし、彼の振り付けや音取りはキャッチーでシンプルであるにもかかわらずとてもコアであり、その境目はプロ受けも一般受けもする絶妙なラインを通っている。Yumekiの今後の活躍に更なる期待が膨らんだ。

■■KikiRara

オオトリはなんとこの4人、KikiRara。説明不要ではないだろうか。2014年に始動してから、数々の大規模なダンスコンテストで優勝を勝ち取り、2016年には全世代の一流ダンサーが集まる『ZERO CONTEST 2016』で優勝を飾った。これを機に個々の活動が忙しくなりKikiRaraとしてショーを見られる回数が減ってしまった。

コンテストを多くこなしてきた彼女たちは3分のショーケースを披露することが多かったが、今回は約20分。共同生活をするKikiRara HOUSEという設定、普段の4人プライベートが垣間見えてしまうという特典つきだ。オープニングでは普段と違いおふざけのシーンもあったが、全て一球入魂の気持ちで演じていた。遊びも仕事も本気な4人のライフスタイルがここで伝わる。

そのあとは、MIKU/Hinami/くるみ/NAnAの順にソロショー、1人1人が全く違うそれぞれを表現し、観客の気持ちを忙しくさせた。目覚ましが鳴った後慌てふためきながら起床し急いで正装に着替えた彼女たちは、4人のキレキレのダンスを披露。それぞれのスキルはもちろんだがKikiRaraの持ち味である掛け合いは息を呑むほどであった。

そしてEn STAFFのエンジェルコウの天才的MCの後、衣装チェンジした4人が登場。なんと『ICE CREAM FINAL 2015』OPEN部門にて準優勝したDestiny’s Childの「Say My Name」ネタの復活である。曲が流れた瞬間、観客はこの日1番の盛り上がりを見せた。今日は私たちにとってもゼロからのスタートと語るKikiRaraが魅せた原点の美しさは、現状維持どころか更に輝きを増していた。

2017年にHIPHOPという音楽ジャンルが世界で初めてROCKを上回る売上を更新した。勿論最初からそうではなく、初めはゲットーな街で黒人たちがひそひそとパーティするために作られた音楽でありレコードなどの販売はなかったのである。しかし、こんなにもかっこいい音楽を仲間うちだけで楽しんでいるのはもったいないと考え立ち上がった若者たちが紆余曲折しながらようやくここまで来たのだ。

まだまだダンスというアートは、メジャーシーンのものではなくお金を稼げる人もほんの1部に過ぎない。しかしここにいるメンバーは自分たちが大好きなダンスを、どうにかして多くの人に知ってもらいたいと心から願っている。1人では怖くて触れられないものに同じ心の勇者たちが立ち上がり、この赤信号を青信号に変えて渡ろうとしているのだ。誰も正解などわからない、途方もない道を。

『赤信号をアオシンゴウに“Green Light!”』ダンスの未来は明るいはずだと彼らは見に来ていた中高生に希望を与えていた。平成が終わりに差し掛かっている今、私たちは細くもぐっと詰まった一筋の光が差した瞬間を目撃することができたのだ。

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