大分発日本語ロックンロールの風雲児、SIX LOUNGEがミニアルバム『ヴィーナス』を完成させた。どうしようもないブルース的マインド、ドストレートなロックンロールサウンドを武器に、新たなる地図を切り開いてみせるこの3人。新作へ込めた率直な想いを訊いた。
文:秋摩竜太郎
――前作『夢うつつ』からメジャーフィールドへ殴り込みをしましたけども、実感としてはいかがですか?
ヤマグチユウモリ(Vo&Gu):やっぱり前回は、それまでよりもダントツで取材してもらう機会が多かったんですよ。ありがたいことですけど、もう同じこと言うのに疲れちゃった(笑)。
イワオリク(Ba):あとは制作のスパンが短くなったとか……それくらいですかね?
――てかリクくんすごい眠そうだけどまだ頭が回転してないでしょ(笑)。
リク:はい(笑)。
ユウモリ:夜通しセックスしてたんか?(笑)
リク:昨日、相席居酒屋に行ってきたんすよ(笑)。
――それモテるのかなあ(笑)。さて、今回の『ヴィーナス』はいつから曲作りしてたんですか?
ナガマツシンタロウ(Dr):“憂鬱なブルー”は『夢うつつ』の曲と同じタイミングでレコーディングしてました。
ユウモリ:ただ、作戦があって前作に入れなかったわけじゃなくて、単純にこの曲は次がいいなっていう感じで。
シンタロウ:うん、今回でよかった。
ユウモリ:そんとき“青に捧ぐ”も原型はできてたかもね。ちょくちょく大分に帰って作ったり、東京とかでもスタジオ入ったりしながら仕上げていきました。で、ガツっとレコーディングしたのは今年の7月。福岡のPLUMっていうスタジオで録りました。
――『ヴィーナス』というタイトルはどういうイメージで付けました?
シンタロウ:決め方は前回と同じで、レコーディング中に候補を何個か考えて、メンバーに「どれがいいですか?」って選んでもらったんですね。俺が思うのは、艶感というか、エロさみたいなものが作品にピッタリだなっていう。
――たしかにね。“憂鬱なブルー”はどう作ったの?
ユウモリ:アコギで作ったんですけど、とりあえずフェイドアウトしていきたいなあって。たしかその時期から日本のオルタナおじさんたちを聴き始めたんですよね(笑)。eastern youthとかbloodthirsty butchersとかにハマり出して。ああいう雰囲気の曲やりたいなって時期だったと思います。
――それでDの5度を半音ずつ下げるリフになったわけだ。
ユウモリ:そう、ちょっと変な、キモい音を挟んで。でもいいんですよね、そこが気持ちよかったりして。
リク:映画の主題歌っぽいなと思いますよね。エンディング感があって。
シンタロウ:展開の起伏がある。
ユウモリ:うん、でもここぞっていうピークはあんまない気がしてて。波のように終わっていく感じ。だから「マジかっけえ!」ってよりは「カッコいい……」つって終わるアルバムになったかな。
――うんうん。“青に捧ぐ”はどうですか?
ユウモリ:6/8拍子の曲を作りたくて。あのリズムに名曲じゃない曲なんかない気がして。銀杏BOYZの“惑星基地ベオウルフ”とか。
シンタロウ:“月光”も。
ユウモリ:そうだ、斉藤和義さんの。
リク:あと“なあ〜んにも”。
ユウモリ:うん、爆弾ジョニーのね。
――6/8拍子って初めてやるよね。
ユウモリ:今まで1曲もないすね。だからやってみたいなと思って、ほんとリズムありきで作りました。Aメロがすごいお気に入りで。昭和歌謡チックで大好きですね。
――「チック」なのが良くてさ。1曲聴くと、ロックンロールバンドのバラードって最高だなって思うんですよね。
ユウモリ:たしかに。歌謡曲っぽさだけじゃないですね。
――と言いつつ転調もさせてて。
ユウモリ:そう、けっこうイジくり倒してます。今まで転調やったことあるっけ?
シンタロウ:……転調?
ユウモリ:(笑)。
リク:“朝焼けプロムナード”は?
ユウモリ:あ、そっか。じゃあ初めてじゃないけど、それ以来ですね。“青に捧ぐ”のピークはどこだろうと思ったときに、いつもラスサビに向けて持っていきがちなんで、今回もそこをどう派手にしようかってことで、キーを上げたらグッとくる感じになった。ただその代わり、全体通して音程差が激しいので、歌うのは大変ですけど。
――ベースとドラムはもっと大変だったでしょ。初のビートだからね。
シンタロウ:大変でした(笑)。どこでどうしようってすごい考えて。でも一旦考えるのやめて、ぶっつけ本番でレコーディングしましたけど。
リク:ムズかったっす。けど自分的には一番好きっていうか、ライブで弾いてみたいなと思うベースラインになったかなって。
――次にできた曲はどれですか?
ユウモリ:“ラストシーン”ですね。できたとき、「これはもう最高だ!」と思ってすぐメンバーに聴かせて。「これだぜ!」って思いましたね。今のやりたいことを全部詰め込んで、でもちょっと前のSIX LOUNGEっぽさもありつつ。ガムシャラ感があるけど綺麗で、すごい好きですね。サビで初めてがっつりオンコードを使いました。Dから、ルートだけ半音ずつB♭まで下がるんですけど。
――ラインクリシェだね。
ユウモリ:そういうやつなんすね(笑)。俺、Dの押さえ方が変わってて、中指、薬指、小指を使うんですけど、そこから薬指だけ動かしてCに行くのがすげえ気持ちよくて。クセになりそうです。
――歌詞はどう?
シンタロウ:すこし前のっていうか、最近書いてなかった感じで書こうと思ったんですよ。で、逆に新鮮になったかなと。
――この曲もだし、作品として《ブルー》とか《青》って言葉がたくさん出てきてますよね。
シンタロウ:今回多いです。でも意識したわけじゃなくて。なんか気づいたらよう使ってるなと。それをコンセプトみたいにするのは嫌だなと思ったんで、なんとなくですね。
――シンタロウくんの言葉にはもともとブルースのフィーリングがあったと思うんですね。特に『夢うつつ』の時期は顕著。ブルースって憂鬱の歌だと思われてるけど、ほんとは憂鬱が根底にあるからこその妄想というか、幻想を歌ってると思うんですよ。まさに夢見心地ってかさ。だからブルーって言葉が出てきたのは驚かないんだけど、今作はより、憂鬱があるから夢を見てるってことを全部バラしつつ、そこで終わってないんですよね。ブルースとかロックンロールの一歩先に行ってる感じがあるなあと。
シンタロウ:そうすね。俺はこうするんだみたいな意志が、今回は強く出たかもしれないです。先を見てる感じがあるというか、《朝を待つ》(“憂鬱なブルー”)みたいな。
――リクくんは“ラストシーン”についてどう感じてます?
リク:曲としてはすごい、ポップであり、メロウであり、でもロックンロールでありっていうのが俺らっぽいなと思います。ベースは一番悩んで。特にサビ。めっちゃ動くのがいいのか、何もしないのがいいのか、中間がいいのか。ガツンって感じのサビじゃないんで、ベースでガツンとさせるべきなのかっていう。でも制作の期限があるんで、これだって決めてレコーディングしましたけど、まだ自分のなかでフレーズが出てきそうだなって感じてるんで、もしかしたらライブで変わるかもしれない。進化しつづけてる曲だと思います。
――なるほどね。そのあとに作った曲が……?
ユウモリ:“MARIA”と“MIDNIGHT RADIO”が同時ですね。“MARIA”は一番メロディアスな気がします、いろんなメロディが出てくるんで。コード進行はロックの基本形って感じで、そこにいろいろ付け足しました。で、暗い曲にはしたくなかったんで、始まりは暗い感じだけど、最後は明るいCで終わるっていう。後半に行くにつれて光が見えてくるみたいなイメージですね。けっこうライブを想像してたとこもあって、Cで終わったらすげえよさそうっていう感覚があったんですね。
シンタロウ:“MARIA”は最近のSIX LOUNGEというか、『夢うつつ』と近い匂いがする曲で。歌詞もそうなんすけど。言いたいことが“くだらない”と似てる。
――ドラミングもこだわってますね。
シンタロウ:鳴らし方を工夫してみました。バコバコしないで、いいドラムの音を出したくて。それだけですごいイメージが変わるんだなって勉強になりましたね。“青に捧ぐ”とかもそうですけど。
――めっちゃいいなと思います。でもほかのバンドよりはバコってる気もするけど(笑)。
ユウモリ:バコバコテレビすね(笑)。
リク:は?(笑) 俺的にこの曲は、カッコいい系で、セクシー系で、スレンダーな女の子って感じですね(笑)。
――Bメロとかすごい動いてますが。
リク:そうですね。ちょうどベンジーさん(浅井健一)と中尾憲太郎氏が一緒にやってるやつ(浅井健一& THE INTERCHANGE KILLS)のアルバムを聴いて、中尾氏のベースがめっちゃカッコよくて。
ユウモリ:なんで“さん”じゃねえの?
リク:いやもっと敬意を込めて(笑)。じゃあ中尾氏さんの──。
ユウモリ:それは変!
リク:うるせえな! 中尾さん(笑)のベースがカッコいいなと思って、NUMBER GIRLも初めてちゃんと聴いてみて。あ、すげえカッコいい人なんだって気付いたんで、その感じをちょっと意識してみました。だから音も粘りっけのある歪みにして。
――聴いてこなかったんだね。
リク:全然通ってこなくて。名前ぐらいしか知らなかったんですけど、それこそHISAYOさん(tokyo pinsalocks/a flood of circle/ GHEEE)と話したときに──。
――フラッドと2マンした5月23日の打ち上げだ。
リク:はい。そこでHISAYOさんの思う一番すごいベーシストに中尾さんの名前をあげてて。それがきっかけでしたね。
――じゃあ“MIDNIGHT RADIO”については?
ユウモリ:これは作ってみたら、けっこういろんな曲に似てたりして。でもまあカッコいいからいっかって感じで。このコード進行を使うロックンロールバンド多いんだなっていう。短いですけど、一番ストレートなカッコよさがあるなと。
シンタロウ:最初にスタジオでやったときに、めちゃくちゃ好きな曲だなと思って。歌詞は嫌いなラジオのことを書いてるんですけど(笑)。
――嫌いなの?(笑)
シンタロウ:まあでもラジオに喩えるのが一番わかりやすかったから。こっちもそっち(リスナー)と一緒みたいな感覚、仲間みたいなイメージで。だから聴いてほしいんだわ、みたいな。“MARIA”もそんなニュアンスがあります。
――《主役になれない/僕らのヒーロー/ベッドの上で今/膝を抱えて待ってる》とか、そうそう!ってなります。
シンタロウ:(笑)。で、ヒーローも、ヒーローになり切れてない、完璧じゃないけどってイメージ。自分もそうだし。そういうのがカッコいいと思ってて。
――今の話はSIX LOUNGEの秘訣的なところだよね。全体的に生き辛さみたいな、要するにポップじゃない内容も多かったりするけど、それでも大衆性を獲得できてるのは、こっちもそっちも一緒みたいな想いがあるからなんだろうと。
シンタロウ:もっと届いてほしいなと思いますよ。すごい憂鬱な気分というか、どうしようもない感情を書くことで救われる自分がいて。で、同じような気持ちを持ってる人が、ハッピーな曲ではないけど、聴いたら繋がるような、ひとりぼっちが繋がっていくような、そういうものをもっと強く、太くしていきたいなっていうのがあって。それをモロに書いたのが“MIDNIGHT RADIO”かな。
――こんな率直に話してくれるの初めてでちょっと感動してます(笑)。そこがシンタロウくんの根本でしょうね。“ピアシング”に関しても教えてください。
ユウモリ:もともと1分以内の短い曲を作りたくて。ライブの終盤でバーン‼︎とやって帰るみたいな曲がほしかったんですよ。だからスタジオで、「これ最高だろ!」ってふたりに聴かせたら、「ああ…」みたいな感じでしたけど(笑)。
シンタロウ:リハんときだった。
ユウモリ:そうだ、ライブの当日リハでした。「ちょっと叩いて!」「リク弾いて!」つって最速ででき上がりましたね。「これ最高やからもうこれで行くわ!」って。
シンタロウ:押し切ったね(笑)。
ユウモリ:完全に押し切りました。「この尺じゃないとダメ!」っつって。だから大満足です。
シンタロウ:歌詞のイメージもすぐに湧いて。人間の汁がドバドバ出るような感じ。で、突き刺すみたいな意味でタイトルを付けて。最高じゃんこれって思ってます。
――じゃあ最後に、12月から始まるツアーへ向けた意気込みをお願いします。
ユウモリ:対戦相手がいないので、つまりワンマンなので、対戦相手はもしかしたら自分なのかもしれない。今のちょっとカッコよかったな(笑)。まあとにかく、バスっとキメられたらいいかなと思います!
――次、リクくん。
リク:みんな、絶対に来てくれよな!
――ほらやっぱ絶対締まんない気がしたから、先に振ってよかった(笑)。
全員:はっはっはっはっは。
シンタロウ:いや俺も締めたくないですよ(笑)。まあワンマンツアーで、こんなに何本も回るのは初なんで、呑みすぎたりせず、1本1本大事にやっていきたいなと思ってます。
ユウモリ:ちなみに今、俺はノーパンです!(笑)
リク:みんな絶対に来てくれよな!(笑)
ミニアルバム『ヴィーナス』
2018年10月17日発売
【初回盤】(CD+DVD)
UPCH-7462/¥2,750+税
<収録曲>
■CD
01.MARIA
02.MIDNIGHT RADIO
03.青に捧ぐ
04.ピアシング
05.ラストシーン
06.憂鬱なブルー
■DVD ※初回盤のみ
『SIX LOUNGE TOUR 2018 “夢うつつ” at LIQUIDROOM 2018.06.20』ライヴ映像
01.10号線
02.STARSHIP
03.ふたりでこのまま
04.ZERO
05.ORANGE
06.SHEENA
07.LULU
08.トラッシュ
09.SUMMER PIXY LADY
10.メリールー
11.くだらない
12.俺のロックンロール
13.僕を撃て
ほか、オフショット映像
【通常盤】(CD)
UPCH-2176/¥1,800+税
<収録曲>
01.MARIA
02.MIDNIGHT RADIO
03.青に捧ぐ
04.ピアシング
05.ラストシーン
06.憂鬱なブルー
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