TOCのソロプロジェクトとして再始動したHilcrhymeが9月2日、9ヶ月ぶりとなるライヴ『One Man』を日比谷野外音楽堂にて行なった。
昨夜から降り続いていた土砂降りの雨も上がり、曇天模様ではあるものの、気温も下がり心地よい風が吹く野音には、開場前から入場を待ちわびるファンや、グッズを求めるファンの長蛇の列ができ、そこからは久々のライヴを行う、そして新たな一歩を踏み出すHilcrhymeへの強い期待を感じさせる。そして開場すると、ソールド・アウトとなっていた野音には、超満員のファンが集い、同時に全国20箇所の映画館と連携したライブ・ビューイングと、WOWOWでの生中継を楽しむ視聴者が、Hilcrhymeの登場を待つ。
17時05分、オープニングSEと共に、ステージにゆっくりと登場するHilcrhyme。黒の衣装に身を包んだ彼の姿が見えると、客席からは大きな歓声と拍手が湧き上がる。その声援を噛みしめるかのように、そしてファンとの久々の邂逅を味わうかのように、ステージ中央で直立し、オーディエンスに向き合うTOCに、更に期待と歓声は高まっていく。
『Hilcrhyme、comeback!』。TOCのシャウトと同時に、ライヴは「トラヴェルマシン」でスタート。勢いのある楽曲のテンションに乗って、この9ヶ月の鬱屈を晴らすかのように、TOCもオーディエンスも、一気にヒートアップしていく。
世界で活躍中の墨絵画家 西元祐貴氏がこの公演の為に描き下ろした『一人でステージに立ち向かうTOC=侍』と『それを守る龍神』という絵柄が背後に掲げられたステージの中央で、イヤー・モニターを外し、直接観客の歓声を聞きながら、『9ヶ月ぶりに挨拶しなきゃね。Hilcrhymeです。今日は特別なライヴになると思います。久しぶりのライヴを楽しんでください』と呼びかけ、そのまま「パーソナルCOLOR」になだれ込む。そしてオーディエンスにクラップを求め、そのクラップにラップとトラックを連動させて「ジグソーパズル」を披露。DJの不在によって、サウンド的に『ライヴ感』が足りなくなるのではないか、という不安をライヴを通して払拭していくTOCの姿は、パフォーマーとしての力量の確かさを、改めてしっかりと感じさせられた。
雨の心配が無くなった野音に、『野外ライブ52連勝中、晴の神です』と、自らの晴れ男ぶりをアピール。そしてモードを夏に切り替え、『ヒルクライマーの夏がくるぞ!』と、「Summer Up」を披露し、会場にはファンの回すタオルの花が咲く。また『一人になった分、動きが早くなった俺についてこい! 俺が新しい時代を作る。乗っかれ!』と宣言しての「New Era」など、決意感の強いメッセージと楽曲が、印象強くリスナーに響いていく。
そして「My Place」や、TOCが客席後方に作られたステージに登壇し、客席の中で披露した「春夏秋冬」など、オーディエンスとの合唱によって彩られた楽曲も、Hilcrhymeとファンとの絆の深さを感じさせられるような、非常に美しい光景であり、暖かな空気が会場全体を包んでいく。
『9月2日、この日を待っていました。だからこそ、ちゃんと伝えさせて下さい』という言葉から、今年3月に脱退したDJ KATSUの不祥事と、活動休止について語り、深々と頭を下げるTOC。そして『自分の人生を賭けてHilcrhymeを全うする。もうバッドニュースは届けないと約束する』と宣言し、7月4日にリリースしたEP『One Man』収録の「アタリマエ」を披露。Hilcrhymeとファンとの『当たり前の関係性』が崩れてしまったことを修復し、これからまた新しく構築される関係性を『当たり前』とするという、確かな決意を提示するリリックが、オーディエンスの胸を打つ。そして「Your Smile」、「想送歌」、「愛更新」と、メロウなラップで『愛』を歌う楽曲が、連続して披露されていった。
そういった柔らかなメロディや優しさと同時に、畳み掛けるようなハードなラップもTOCの武器である。その意味でも、メロウ・ゾーンのカウンターを打つように「No.109」、「臆病な狼」、「押韻見聞録」、「続・押韻見聞録-未踏-」と、バチバチのラップ曲を披露。彼のラッパーとしての手腕の幅広さを証明する。そしてリスナーを励まし、同時に自らも励まされるという、リスナーとの深い関係性も想起させられる「Side By Side」を、膝をついて祈るのように歌い上げる。その姿からは、リスナーに自分の音楽を届けたいという、TOCの真摯な気持ちを、改めて感じさせられた。
『これからもHilcrhymeを見ていてくれないか、居場所にしてくれないか』というMCから、暖かで、そして強いメッセージ性を感じさせる“涙の種、幸せの花”を披露し、ライヴは一旦終了。会場からのアンコールに応えて再登場したTOCは、先程のかしこまった説明ではなく、『信じられないよ、ふざけるなよ』と、DJ KATSUへのあからさまな感情を顕にする。しかし、やはり12年に渡ってタッグを組んできたDJに抱く感情は、怒りだけではないのだろう。別の道を歩むことになったDJに向け、「Good Luck」でエールを送る。その割り切れない感情は、非常に人間らしく、それがTOCの描くリリックの『愛』に繋がっていくのだろうと思わされた。
『今年はファンクラブ・ツアー“桃源郷”も開催するし、デビューから10周年を迎える来年には、全国20箇所を巡る全国ツアーや、他にもいろんなプロジェクトが進んでいるから、期待してて』と、これからの活動に意欲と期待を感じさせる言葉を、リスナーに届けるTOC。そして『9月2日、今日は門出の日になりました。だから改めてデビュー曲をここで披露します』と、「純也と真菜実」をパフォーム。ステージにはマッピングを盛り込んだ映像が映し出され、楽曲の世界観をビジョンとしても表現する。
『去年から今まで、弱気になったこともあった。だけどみんなのお蔭でひとりじゃないってことに気づけました。本当にありがとう。俺は今日、この言葉を届けたかったんだ』と宣言し、ライブのラストはHilcrhymeの代表曲である「大丈夫」を披露。曲の途中ではトレード・マークのサングラスを外し、観客とダイレクトに向かい合い、観客と共にサビを歌い上げる。そこに見えるのは、オーディエンスとHilcrhymeとの幸せな関係性だろう。共に信頼し、支え合い、愛し合う。そのつながりを強烈に感じさせる楽曲と展開は、本当に感動的な光景だった。そして『Hilcrhyme、comeback!』と、登場と同じ言葉で、ライヴは幕を閉じた。しかしその言葉は、オープニングの『宣言』とは違い、エンディングでは『確信』に変わっていた。
3時間弱、披露した全26曲すべての曲をフルレングスで歌い上げるという、非常にタフなライヴを、まさに『One Man』で成し遂げたHilcrhyme。その全てから充実の作品構成とパフォーマンス能力の確かさ、そして新体制となったHilcrhymeのネクスト・レベルが感じられる力強いライヴは、希望の香りを十分に漂わせながら、幕を閉じた。彼がステージを降りると同時に、このライヴとの別れを惜しむかのような、ぽつりぽつりと涙雨が降り出した。しかし、Hilcrhymeはまた次のライヴで、この雨を晴らしてくれるだろう。そう信じる事ができる、充実のライヴだった。
Text by 高木“JET”晋一郎
【セットリスト】
1.トラヴェルマシン
2.RIDERS HIGH
3.パーソナルCOLOR
4.ジグソーパズル
5.Summer Up
6.恋の炎
7.New Era
8.パラレル・ワールド
9.My Place
10.エール
11.ルーズリーフ
12.春夏秋冬
13.アタリマエ
14.Your Smile
15.想送歌
16.愛更新
17.No.109
18.臆病な狼
19.押韻見聞録
20.続・押韻見聞録-未踏-
21.Side By Side
22.涙の種、幸せの花
-EN-
1.Good Luck
2.FLOWER BLOOM
3.純也と真菜実
4.大丈夫
■『Hilcrhyme TOUR 2019“Hill Climb”』
2月02日(土) 広島 HIROSHIMA CLUB QUATTRO
2月03日(日) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2月09日(土) 福島 郡山 HIPSHOT JAPAN
2月11日(月・祝) 神奈川 Yokohama Bay Hall
2月16日(土) 千葉 柏PALOOZA
2月17日(日) 静岡 浜松窓枠
2月23日(土) 熊本 B.9 V1
2月24日(日) 福岡 DRUM LOGOS
3月02日(土) 岐阜 club-G
3月03日(日) 兵庫 神戸 THE CHICKEN GEORGE
3月09日(土) 長野 CLUB JUNK BOX
3月16日(土) 愛媛 松山WstudioRED
3月17日(日) 香川 高松オリーブホール
3月21日(木・祝) 石川 金沢EIGHT HALL
3月23日(土) 大阪 なんばHatch
3月30日(土) 北海道 札幌 PENNY LANE24
3月31日(日) 宮城 仙台Rensa
4月06日(土) 愛知 名古屋 DIAMOND HALL
4月07日(日) 東京 Zepp DiverCity Tokyo
4月13日(土) 新潟 新潟LOTS
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