デイヴ・メイスンの才能が開花するのは、コロンビアレコードに移籍して初のリリースとなる4thソロアルバム『忘れ得ぬ人(原題:It’s Like You Never Left)』(’73)からである。ブリティッシュロッカーならではの陰影のある曲想とアメリカ西海岸の明るいサウンドが同居したサウンドが独壇場で、特に、ジム・クルーガー、マイク・フィニガン、リック・イエーガーといった馴染みの顔ぶれが揃った5thアルバム『デイヴ・メイスン』(’74)からライヴ盤の7thアルバム『情念(原題:Certified Live)』(’76)までが全盛期と言えるのではないか。今回取り上げる『アローン・トゥゲザー』(’70)は、当時は新興レーベルのブルーサムレコードからリリースされた彼のデビューソロアルバム。コロンビアレコードではポップロックのアーティストとして成功したわけだが、その前に在籍していたブルーサムレコード時代はスワンプロックのテイストにあふれたサウンドで勝負していたのである。リリースされた当時、アメリカのアーティストたちをバックに迎えてスワンプロックをやること自体が珍しかったが、本作を皮切りにエリック・クラプトンの『エリック・クラプトン』(’70)やジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』(’70)など、ブリティッシュ・スワンプのアルバムが次々にリリースされ、後のブリティッシュロックシーンに大きな影響を与えることになる。
■スティーブ・ウィンウッドとの確執
デイヴ・メイスンはブリティッシュロック界に大きな足跡を残したトラフィックの創設メンバーのひとりである。ヴォーカルだけでなく、ギターやソングライティングに自信を持っている上、自己顕示欲の強いメイスンはウィンウッドと事あるごとに衝突し、デビューアルバムをリリース後に脱退するのだが、しばらくすると舞い戻り、現在はロッククラシックにもなっている名曲「フィーリン・オールライト」を提供する。当時のことをウィンウッドは「メイスンはトラフィックを自分のバックバンドだと思っていたようだ」と回想している。
■デラニー&ボニー&フレンズへの参加
トラフィックを飛び出したメイスンは69年に渡米し、デラニー・ブラムレット(デラニー&ボニー)とレオン・ラッセルに面倒を見てもらいながら、本場のスワンプロックの洗礼を受けている。そして、クリーム〜ブラインド・フェイスを脱退したクラプトンとともに、デラニー&ボニー&フレンズのメンバーとしてツアーに参加し、強力なライヴアルバム『オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン』(’70)をリリースする。このアルバムにはメイスンの代表曲のひとつである「オンリー・ユー・ノウ・アンド・アイ・ノウ」が収められている。
余談だが、この時のツアーメンバーにはカール・レイドル(Ba)、ボビー・ホイットロック(Key)、ジム・ゴードン(Dr)らが参加しており、このあとクラプトンは彼らとデレク&ザ・ドミノスを結成するわけだが、最初の頃のリハにはデュアン・オールマンではなくデイヴ・メイスンが呼ばれていた。
■本作『アローン・トゥゲザー』について
そして、デラニー&ボニーをはじめとして、ジム・ゴードン、カール・レイドル、リタ・クーリッジら現フレンズのメンバーの他、レオン・ラッセル(彼もまた、かつてはフレンズのメンバー)人脈から、ラリー・ネクテル(ブレッドのメンバー)、クリス・エスリッジ(フライング・ブリトー・ブラザーズのメンバー)、ジム・ケルトナー、ジョニー・バーベイタ、マイケル・デ・テンプルといった凄腕のアーティストたちが大挙参加して、本作がレコーディングされた。エンジニアには職人アル・シュミットとブルース・ボトニックが、プロデュースはメイスン本人とトミー・リプーマが担当した。今考えると、かなり豪華なメンバーが参加しており、新興のブルーサム・レコードとしてはかなりの経費が掛かったと思われる。
収録曲は全部で8曲。アルバムは『オン・ツアー〜』でも取り上げられた「オンリー・ユー・ノウ・アンド・アイ・ノウ」から始まる。ロックしていたデラボニ・バージョンと比べると本作のアレンジはアコースティック中心の落ち着いたアレンジになっている。メイスンのギターはコロンビア時代のゆっくりしたスタイルとは違い、クリーム時代のクラプトンを彷彿させるテンションの高い演奏である。
「シュドゥント・ハヴ・トゥック・モア・ザン・ユー・ゲイヴ」と「サッド・アンド・ディープ・アズ・ユー」はトラフィック時代に披露していた曲の再演で、特に「サッド・アンド・ディープ・アズ・ユー」はメイスンのお気に入りのナンバーで繰り返し演奏している。「キャント・ストップ・ウォリイング,キャント・ストップ・ラヴィング」「ワールド・イン・チェインジズ」「ルック・アット・ユー・ルック・アット・ミー」などは陰影のあるナンバーで、ブリティッシュ的な香りが漂っている。中でも7分以上に及ぶ「ルック・アット・ユー・ルック・アット・ミー」は後半のドラマチックなギターソロが聴きものだろう。ロックンロールの「ウェイティン・オン・ユー」と、少しカントリー風味のある「ジャスト・ア・ソング」はコロンビア時代へとつながるキャッチーな音づくりになっている。
数十年振りに改めて本作を聴き直してみると、デイヴ・メイスンがスワンプに挑戦したという感じではなく、あくまでもメイスンの音作りであり、コロンビア時代に開花した彼の資質は、この時点で既に完成していたことが再認識できた。メイスンの骨太のヴォーカルと巧みなソングライティングは本作以降も成長を続け、5thアルバム『デイヴ・メイスン』で頂点を迎えることになる。
『アローン・トゥゲザー』は決してメイスンの最高傑作ではないが、本作がエリック・クラプトンやジョージ・ハリスンらをはじめとした他のブリティッシュロッカーをスワンプロックに向かわせ、70年代ロックのマイルストーンの一つになったことは確かである。
TEXT:河崎直人
アルバム『Alone Together』
1970年発表作品
<収録曲>
1. オンリー・ユー・ノウ・アンド・アイ・ノウ/Only You Know And I Know
2. キャント・ストップ・ウォリイング,キャント・ストップ・ラヴィング/Can’t Stop Worrying, Can’t Stop Loving
3. ウェイティン・オン・ユー/Waitin’ On You
4. シュドゥント・ハヴ・トゥック・モア・ザン・ユー・ゲイヴ/Shouldn’t Have Took More Than You
5. ワールド・イン・チェインジズ/World In Changes
6. サッド・アンド・ディープ・アズ・ユー/Sad And Deep As You
7. ジャスト・ア・ソング/Just A Song
8. ルック・アット・ユー・ルック・アット・ミー/Look At You Look At Me
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