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SURFACEの才気あふれるデビュー時を1stアルバム『Phase』から検証する

10月7日、SURFACEが通算8枚目となるオリジナルアルバム『PASS THE BEAT』を発売したということで、今週は彼らのデビュー作『Phase』を取り上げる。1998年に颯爽とデビュー。その楽曲がテレビドラマやアニメの主題歌となり、一躍メインストリームに躍り出た二人組バンドには、どんな特徴があったのかを改めて本作から紐解いてみた。出来上がった以下の原稿を読み返してみると、SURFACEが天下人とならなかったことを憂うようなニュアンスがいささか強くなっているような気がするが、その辺は誤解のないように、この場を借りて補足させてほしい。デビューから2000年代にかけての彼らの活躍っぷりは十分すぎるものであったし、2018年に再始動しているわけだから、これからてっぺんを奪ることも十二分にあり得る。むしろそうなってほしいと思う筆者である。

■SURFACEがデビューした時代

1998年5月に発表したデビューシングル「それじゃあバイバイ」が同年4月にスタートしたドラマ『ショムニ』オープニングテーマに起用され、ドラマの高視聴率も相俟ってスマッシュヒット。その翌年2月に発売された4thシングル「なにしてんの」はドラマ『お水の花道』エンディングテーマとなり、「それじゃあバイバイ」を上回るチャートリアクションを示した。ちなみに「なにしてんの」は今のところ、SURFACEのシングルでは歴代最高セールスとなっている。1999年3月には、今回紹介する1stアルバム『Phase』を発表し、本作をチャート2位に叩き込んでいる。…と、この経歴からすれば、デビュー時のSURFACEは、この上ない…わけではないけれども、新人アーティストとしては実に華やかスタートを切ったと言える。上出来のデビューどころか、将来を嘱望される大型新人として音楽シーンの期待を一気に背負わされていても何ら不思議でない実績である。

ところが…である。SURFACE がデビューした1998年はCDの売上がピークを迎えた年で、いわゆる“CDバブル”のまさに絶頂期であった。[この年は1990年代で唯一、累計売り上げが2ミリオンを超えるシングルが1枚も出なかった]とやや陰りが見え始めた頃ではあったものの、それでもシングルのミリオンセラーは実に14作にも上った「それじゃあバイバイ」もヒットしたことは間違いないけれども、“この上ない”わけではなく、大量にその上があったのである。また、この1998年は[女性アーティストの当たり年で、宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、MISIA、椎名林檎、aiko、Kiroro、鈴木あみ、モーニング娘。など、この年から翌年にかけてビッグセールスを記録する歌手が多く、メディアが彼女たちのことを「1998年デビュー組」と呼ぶことがある]という曰く付き(?)の年でもあった。アルバム『Phase』のチャート2位というのは新人としては大健闘も大健闘、十二分の成績なのだが、同じ週の1位は宇多田ヒカルの『First Love』。[新人アーティストの1stアルバムとしては当時異例の初動売上200万枚超えを記録し、オリコン集計による累積売上765万枚は日本国内のアルバムセールス歴代1位の記録となっている]という『First Love』である。今となっては歴史上の偉人と認識する人がいてもおかしくないほどの超弩級新人がその上に鎮座されていたのだ。“相手が悪かった”という言い方が適切かどうか分からないが、ことセールスを含む音楽シーンにおけるポジショニングを考えると、SURFACEのデビューは決してタイミングがいいとは言い難い時期ではあったとは思う。

以後、SURFACEが発表した音源は、まずシングルは5th「なあなあ」(1999年7月)、6th「君の声で 君の全てで…」(1999年11月)がチャートトップ10入りを果たし、2001年5月リリースの11th「その先にあるもの」までその大半がトップ20を下回ることはなかった。アルバムも、2nd『Fate』(2000年)が『Phase』と同じく2位。3rd『ROOT』(2001年)もトップ10入りしているので、右肩上がりとはいかなかったが、チャート的には安定していたとは言える。あとはてっぺんを奪るだけであったように思う(ちなみに2nd『Fate』が2位の時の1位は平井 堅『THE CHANGING SAME』で、翌週の1位がその年の年間アルバムチャートでも1位となった倉木麻衣『delicious way』で、ここでもまた上には上、超強敵がいた…)。CDバブルに塗れた(翻弄された?)という言い方が適切かどうか分からないけれど、世が世ならSURFACEは天下を奪っていたバンドかもしれないと思うのである。(※上記[]は全てWikipediaからの引用)

■鋭く耳に飛び込むフレーズ

『Phase』を久しぶりに聴いて、このバンドが天下獲りのポテンシャルを備えていたバンドであることを再認識した。何というか、その収録曲はちゃんとポップミュージックとしての体裁を成しているのである。まず、メロディーから言うと、どれもこれもしっかりキャッチー──こういう言い方をしてもいいかどうか分からないので思うがままに書くと、メロディアスというのではなく、あくまでもキャッチーだ。単にいいメロディーという感じではなく、リズム、歌詞と相俟ってこそ、その旋律が鋭く耳に飛び込んで来るようなスタイルというのが、少なくともデビュー時点でのSURFACE楽曲の特徴だと思う。シングル曲はどれもそれが当てはままる。

3rdシングルにもなった「さぁ」が最も強力だろう。この曲のポイントはサビ頭の《さぁ》である。2文字だ。カタカナにするまでもなく、音節、音階はひとつでしかない。そこに楽曲タイトルにもなった《さぁ》を乗せたのはお見事だと思うし、テンポやその前後の音階でその《さぁ》が強調されるようなサビを作り出したことはほとんど発明と言って良かろう。こちらがどんなに弛緩していても、シャープに耳へと飛び込んで来る音階と言葉。聴き手の意識をピンポイントに刺激するキャッチーさは、彼らならではの比類なきものと言える。この「さぁ」はお笑いコンビのコロコロチキチキペッパーズが『キングオブコント2015』で同曲を大フィーチャーしたコントを披露したことで、リリースから15年振りに再び脚光を浴びることになったが、コロチキがああいうかたちで「さぁ」をネタにしたこと自体、この曲がとてつもなくキャッチーであることの証明だとも思う(※ご存知ない方は“コロコロチキチキペッパーズ さぁ”でググると動画が検索できるので、それを見てもらうのが何よりも分かりやすい)。

M2「さぁ」ほどではないせよ、M9「それじゃあバイバイ」やM10「まだまだ」もなかなか強力だ。「それじゃあバイバイ」はサビ終わりの《バイバイバイ》、「まだまだ」はサビ前の《まだまだ》が鋭く耳に飛び込んで来る。また、M3「なにしてんの」のイントロ、アウトロで聴こえてくる《暗い イヤ イヤ イヤ 辛い イヤ イヤ イヤ》や、サビに重なる《なにしてんの》もなかなか印象的である。彼らのスタッフも、おそらくはメンバーもそれがSURFACE楽曲の訴求ポイントであることをはっきりと自認していたのであろう。前述の通り、シングルにその傾向が表れていることがその何よりの証左であるが、このアルバム『Phase』にもそれを見出せる。本作はM11「冬の終わり」までミッド~スローナンバー、バラードがない。そのあと、M12「ジレンマ」がラストなので、つまり全12曲中、落ち着いたナンバーが1曲しかないのである。まぁ、ミッド~スローがないアルバムなんてナンボでもあるので、ことさらそれが珍しいとは言わないけれども、この時点ではやはりその鋭いキャッチーさこそがSURFACEであり、『Phase』ではそれをことさらに推したのでは、と考えられる(※これはあくまでも個人的な感想であると前置きしておくが)。失礼ながら今聴くとM11「冬の終わり」は入れなくなっても良かったのではないかと思うほどに、この時期のSURFACEらしさのみがグイグイと迫って来るのである。その意味で『Phase』には新人バンドらしい瑞々しさ、清々しさがあって、若さ漲るアルバムという言い方ができるかもしれない。

■バラエティー豊かなギターロック

『Phase』のサウンド面も見ておこう。SURFACEは椎名慶治(Vo)と永谷喬夫(Gu)のふたりとは言え、その基本はバンドサウンドである。強いて言えば、ブラックミュージックのテイストを注入している楽曲が多いとは言えるものの、ユニット的な形態ゆえにか、何かひとつのジャンルに強くこだわっている印象はない。そして、これもヴォーカル&ギターのスタイルならではのことであろうが、どの曲もギターを強調する展開が必ずあることも、サウンド面での特徴である。

弾き語りでもイケそうなナンバーでありながらもビートをしっかりと効かせたM1「空っぽの気持ち」、ホーンセクションをあしらってリズム&ブルースの香りを注いだM2「さぁ」から始まり、M3「なにしてんの -Sweet Horn Mix-」、M4「ふたり」ではシティなのかアーバンなのか分からないけれどキラキラとしたシャレオツなサウンドを披露。かと思えば、M5「FACE TO FACE -がんばってます-」ではラップ風のコーラスやジャジーなエッセンスを取り込んだり、M6「線」ではラテンのフレイバーをまとっていたりと、単調に聴かせない工夫がなされている。M7「バランス」、M8「ひとつになっちゃえ」はハードロック的なアプローチ。M9「それじゃあバイバイ -Phase Mix-」では再びブラスを聴かせるとともに絶妙なグルーブを醸し出し、M10「まだまだ」ではアップライトベース的サウンドも印象的な、これまたジャジーなサウンドを聴かせてくれる。そして、ブルージーで落ち着いた雰囲気のM11「冬の終わり」、わりとプレーンなバンドアンサンブルで迫るM12「ジレンマ」で締め括る。ひと口に言えば、どれもリズミカルでダンサブル、ファンキーなロックチューンということになるだろうが、それぞれ楽曲毎にいろいろと工夫が施されていることがはっきりと分かる仕様だ。

ギターはM1「空っぽの気持ち」で刻まれるアコギから随所でその楽曲を彩るいい仕事をしている。M4「ふたり」のシティポップ感(※アーバンポップ感かもしれない)は間奏やアウトロでのギターソロがそれを増長しているし、M6「線」のスパニッシュな感じのギターあってのことだろう。M7「バランス」でのリフやギターソロからLed ZeppelinやRed Hot Chili Peppersを想像してしまうのは安易だろうし、それらを彷彿させると言ってしまうは流石に持ち上げ過ぎだろうが、少なくとも古今東西のロックと彼らがやろうとした音楽は地続きであることが分かる。また、これも個人的に思うこと…と前置きするが、ギターが楽曲を彩りつつも、それが過剰じゃないところに好感が持てる。本作収録曲での永谷のプレイは決して控えめではないが、これ見よがしでもないと言えばいいだろうか。冗長でなく、丁度いい感じなのである。その辺が関係してもいるのだろう。この『Phase』の楽曲はタイムが全て4分以内なのだ。最も長いのがM4「ふたり」で、それでも3分54秒。凡そ3分半程度で、ポップミュージックとはどういうものであるのかをしっかりと踏まえているかのようである。そう考えると、今さらながらに好感度が増すところではある。

歌詞に見る等身大の時代性

キャッチーなメロディー、ダンサブルで彩り鮮やかなロックサウンドに乗る歌詞は、基本的には前向きさを露呈しつつ、M10「まだまだ」でM9「それじゃあバイバイ」の歌詞を自ら引用してみせるなど、なかなか面白いことをやっている。

《アッカンベーしてさよなら 胸をはって無茶をやれ/変に迷い悩むのは 時間のムダってもんでしょう/今が楽しいから あなたも自由に/生きるようにしてみたら? それじゃあバイバイバイ》(M9「それじゃあバイバイ」)。

《まだまだ 歌い続けよう 自分のために/答えはその先にあるはずだから/「胸をはって 無茶をやれ」って/そういえばこりゃ僕が言ったセリフだ》(M10「まだまだ」)。

また、当時の彼らの世代の等身大のライフスタイルが描かれたものが多く見受けられるのも見逃せない。それは今になって思うと、2000年頃の日本の世相を映しているかのようにも思える。

《学生時代からの親友さえ/3ヶ月以上も音沙汰がない/こんな夜中に洗濯機回す/渦の中に思い出消える》《ドアノブにぶら下げた/コンビニ袋の中に/空き缶ばかりがまた増えてゆく》(M1「空っぽの気持ち」)。

《しこたま飲んで 騒いでみても/君はガードが固い/勢い任せに ぶっちゃければ/今すぐホテルに 連れこみたい》《あぁもうじれったい 裸になっちゃえ/何もかもさらけ出せば 楽になれんだろう?/ゼロになれんだろう?/愛をぼったくれホラホラ/いくら出してでも 僕が買ってやる》(M8「ひとつになっちゃえ」)。

今となっては流石にM8はコンプラ的にアウトな内容だろうが、M1で綴られている悲哀を加味すると、そこに、バブル崩壊のあと、ITバブルも崩壊して、本格的かつ急速に景気が悪化していた当時の混乱っぷりを見るようでもある。椎名がその辺をはっきりと意識していたのかどうかは分からないけれども、少なくとも肌感覚で不穏な空気を感じ取っていたことはうかがえる。音楽家に限らず、優れたアーティストは予想を切り取り、未来を予見するというが、こうした歌詞はSURFACEが優れたロックバンドであることを示しているかのようだ。ここでもまた彼らが、世が世であれば天下を奪るバンドであったことを感じてしまうのであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Phase』

1999年発表作品

<収録曲>

1.空っぽの気持ち

2.さぁ

3.なにしてんの -Sweet Horn Mix-

4.ふたり

5.FACE TO FACE -がんばってます-

6.線

7.バランス

8.ひとつになっちゃえ

9.それじゃあバイバイ -Phase Mix-

10.まだまだ

11.冬の終わり

12.ジレンマ

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