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リトル・フィートの熱演が収録された初のライヴ盤『ウェイティング・フォー・コロンブス』

本作『ウェイティング・フォー・コロンブス』は、1978年にリリースされたリトル・フィート初のライヴ盤である。制作段階では3枚組(LP時代)となるはずであったが、レコード会社がセールス面を考えて2枚組に変更してのリリースとなった。収録はロンドンのレインボー・シアターとワシントンDCのリスナー・オーディトリアム(1977年8月1日〜10日)の2カ所で行なわれた。アルバムにはリトル・フィートの他、元ザ・ローリング・ストーンズのミック・テイラー(ギター。ロンドン公演の1曲のみ)、ドゥービー・ブラザーズからマイク・マクドナルドとパット・シモンズのふたり(ヴォーカル。リスナー公演の1曲のみ)、そして強力なタワー・オブ・パワーのホーンセクションが参加している。当初予定されていた3枚組の残りの曲は、2002年にリリースされた2枚組CD『ウェイティング・フォー・コロンブス』(デラックス・エディション)に全曲収録されている。

■リズム・セクションの圧倒的な力量

リトル・フィートのデビューアルバム『ファースト』(’71)や2ndアルバム『セイリン・シューズ』(’72)の頃は、ローウェル・ジョージ&バックバンド的な香りが漂っていたが、創設メンバーのロイ・エストラダ(Ba)が脱退し、サム・クレイトン(Per)とケニー・グラドニー(Ba)が参加してからの3rd『ディキシー・チキン』(’73)になると、個々のメンバーの力量が明らかにアップしており、グループとして一体化していく。特に前作までと比べてファンク度が増したリズムセクションのコンビネーションはロック界最強レベルにまで達していたと思う。新たに参加したグラドニーはニューオリンズ出身だけに、独特のグルーブ感を持っていることは分かるが、創設メンバーのリッチー・ヘイワードのドラミングが、それまでとは別人のような凄腕プレイになっているのだ。このふたりのすごさは、実際に僕は78年の初来日公演で見て感動を覚えた。今となってはローウェルのスライドギターよりも強く印象に残っている。

■公私にわたる ローウェル・ジョージの多忙

ローウェル自身がプロデュースした『ディキシー・チキン』は多くの音楽関係者の話題となり、この作品の後、ローウェルはハウディ・ムーン、ジョン・セバスチャン、マリア・マルダー、ケイト&アンナなど、さまざまなアーティストのバックやプロデュースを務めるようになる。

また、当時、リンダ・ロンシュタットの『悪いあなた(原題:Heart Like A Wheel)』(’74)にローウェル作の「ウィリン」が取り上げられることでリンダとの交流(公にはなっていないが交際していた)が始まり、彼女の紹介でブルーグラスグループのセルダムシーンに在籍していたジョン・スターリング(彼もまた「悪いあなた」に参加していた。本業は医者)に体調(ローウェルはコカイン中毒であった)のことを相談するうち、彼を通してセルダムシーンのドブロ奏者マイク・オールドリッジの群を抜いたスライドバーさばきに感銘を受け、彼のソロアルバム『ブルース&ブルー・グラス』(’74)にリンダとともに参加している。この時、ローウェルとリンダはスターリングの家に居候していたそうだ。

■リトル・フィートのサウンドの変化

『ディキシー・チキン』の次作『アメイジング!(原題:Feats Don’t Fail Me Now)』(’74)では、アルバムの後半でそれまでにないプログレ的な展開が登場するのだが、それは公私ともに多忙なローウェルがアルバムの収録になかなか参加せず、グループのイニシアチブをビル・ペイン(key)が取らざるを得ない状況に追い込まれていたからである。その苦しいグループ事情は次の『ラスト・レコード・アルバム』(’75)でも『タイム・ラブズ・ア・ヒーロー』(’77)でも変わらなかった。その頃にはローウェルは過食やコカインによる副作用でかなり太り、日常生活にも支障が出るほどだった。しかし、セールス的には『ディキシー・チキン』から上向きになっており、『アメイジング!』をはじめ、『ラスト・レコード・アルバム』も『タイム・ラブズ・ア・ヒーロー』も全米トップ40圏内に入っていたので、表向きには大きな問題にはならなかった。

■本作「ウェイティング・フォー・ コロンバス」について

77年の夏、同じワーナーブラザーズ所属のドゥービー・ブラザーズ、グラハム・セントラル・ステイションらとともにリトル・フィートはツアーに出ることになる。そのツアーの模様を収録したのが本作『ウェイティング・フォー・コロンバス』である。そもそもライヴアクトとして定評のある彼らだけに、演奏面に関してはまったく問題はない。あるとすればローウェルの体調だが、このパッケージツアーの期間に関しては問題なかったようだ。

このツアーには『アメイジング!』から時々バックを務めているタワー・オブ・パワーのホーンセクションも参加し、彼らの歯切れのよいバックアップもあってリトル・フィートの演奏は文句なしの完成度になっている。まさにロック史に残る名演の連続を記録したドキュメントだ。

収録曲は全部で15曲(デラックス・エディションは27曲)。ライヴは観客の熱狂ぶりを伝える導入部分から、最もリトル・フィートらしい変則セカンドラインの代表曲「ファットマン・イン・ザ・バスタブ」でスタート。ローウェルのヴォーカルもスライドもスタジオ録音(『ディキシー・チキン』に収録)をはるかに凌駕する名演になっている。ペインのキーボード&シンセは『アメイジング!』以降のスタイルで随所にプログレっぽさが見え隠れしており、ローウェルのダイナミックなスライドプレイと相俟ってバランスのとれた仕上がりだ。特にローウェルのコブシの効いたヴォーカルは、スタジオ録音では60パーセント程度しか出してないのかと思わせるほどのうまさである。リズムセクションはどの曲もシャープこの上なく、技術に裏打ちされた白熱したインタープレイが繰り広げられている。

本作に収録されたナンバーは全曲ハイライトと言えるが、中でも「オールド・フォークス・ブギ」から9分近くにも及ぶ「ディキシー・チキン」への流れは素晴らしい。ここでのペインの力強いピアノのタッチはスタジオ盤を大幅に膨らませた内容で、リスナーは最後まで傾聴せずにはいられない緊張感がある。「ウィリン」「セイリン・シューズ」「コールド・コールド・コールド」といった初期のナンバーは、どれもかなりの重量級にアレンジされているし、グラドニー加入後の「スパニッシュ・ムーン」や「スキン・イット・バック」のような曲についても、スタジオ盤しか聴いたことがなければ改めて惚れ直すのではないだろうか。

このアルバムをリリースしてからわずか1年後の1979年、ローウェル・ジョージは心不全で亡くなってしまう。まだ34歳の若さであった。この後、グループは一旦解散するのだが、87年に残ったメンバーに新たな面子を加えて再結成し、少しメンバーが変わりながら現在も続いている。ただ、良いバンドであることは認めるが、残念ながらローウェル在籍時のリトル・フィートとはまったく性質の違うものである。なお、ドラムのリッチー・ヘイワードは2010年に、ギターのポール・バレルは2019年に亡くなっている。

TEXT:河崎直人

アルバム『Waiting For Columbus (Warner Bros.)』

1978年発表作品

<収録曲>

■DISC1

1. JOIN THE BAND/ジョイン・ザ・バンド

2. FAT MAN IN THE BATHTUB/ファット・マン・イン・ザ・バスタブ

3. ALL THAT YOU DREAM/オール・ザット・ユー・ドリーム

4. OH ATLANTA/オー・アトランタ

5. OLD FOLK’S BOOGIE/オールド・フォークス・ブギー

6. DIXIE CHICKEN/ディキシー・チキン

7. TRIPE FACE BOOGIE/トライプ・フェイス・ブギー

8. ROCKET IN MY POCKET/ロケット・イン・マイ・ポケット

9. TIME LOVES A HERO/タイム・ラヴズ・ア・ヒーロー

10. DAY OR NIGHT/デイ・オア・ナイト

11. MERCENARY TERRITORY/マーシナリー・テリトリー

12. SPANISH MOON/スパニッシュ・ムーン

■DISC2

1. WILLIN’/ウィリン

2. DON’T BOGART THAT JOINT/ドント・ボガート・ザット・ジョイント

3. A APOLITICAL BLUES/アポリティカル・ブルース

4. SAILIN’ SHOES/セイリン・シューズ

5. FEATS DON’T FAIL ME NOW/頼もしい足

6. ONE LOVE STAND/ワン・ラヴ・スタンド

7. ROCK AND ROLL DOCTOR/ロックン・ロール・ドクター

8. SKIN IT BACK/スキン・イット・バック

9. ON YOUR WAY DOWN/オン・ユア・ウェイ・ダウン

10. WALKIN ALL NIGHT/ウォーキン・オール・ナイト

11. COLD,COLD,COLD/コールド、コールド、コールド

12. DAY AT THE DOG RACES/デイ・アット・ザ・ドッグ・レース

13. SKIN IT BACK(Outtakes First Issued on “HOY-HOY!”)/スキン・イット・バック(「軌跡」アウトテイク)

14. RED STREAMLINER/レッド・ストリームライナー

15. TEENAGE NERVOUS BREAKDOWN/ティーンエイジ・ナーヴァス・ブレイクダウン

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