10月11日。大型台風19号が日本に上陸しようとしていた。テレビ、ラジオ、SNSなど、あらゆるメディアで注意勧告がされている中、下北沢のGARAGEでは、GRASAM ANIMAL企画の3マンライブを開催。“こんな日に人なんて集まるのだろうか”と思って会場へ行くと、彼らのライブ見たさに多くの観客が集結していた。あの日、僕は下北沢の地下でミラーボールの下、音楽ラバーズたちの宴を目撃した。これは、その記録と記憶のレポートである――。
トップバッターは男女混合の4人組ロックバンド、No Buses。全曲英詞のスタイルで、今、日本国内だけでなく海外のリスナーにも支持をされている彼ら。だからこそ、1組目にして観客の期待もかなり大きかった。スモークのかかった薄暗いステージに姿を現すと、近藤大彗(Vo&Gu)が“……こんばんは、No Busesです”と静かに挨拶をしたのをきっかけに演奏へ。1曲目は今年9月にリリースしたばかりで、彼らにとって初の全国流通となる1stアルバム『Boys Loved Her』から「Sleepswimming」を披露。爽快感を含みつつ、どこか不穏で攻撃的。楽しくノレるだけじゃない、複合的な魅力がそこにあった。そのまま間髪入れずに「Slowday」「Cut My Nails」「Dirty Feeling」を演奏。曲を重ねるごとにフロアーを飛び跳ねる人が増えていく。そして、MCに突入すると近藤が再び口を開いた。“どうも、こんにち…いや、こんばんは。今日はお足元の悪い中、っていうか…ありがとうございます(笑)”たどたどしく喋るその様は、妙に微笑ましかった。そして、話はイベント出演の経緯について。“7月くらいに、GRASAM ANIMALの歌代くんと船橋の定食屋で食事をして、その後に喫茶店へ行ったんですよ。僕はシフォンケーキで向こうはかき氷を食べて。なんか、中学生のデートみたいな感じだったんですけど。その時にイベントに出ることを決めて…っていう感じでして”。MCでは素朴な好青年だが、演奏になると精悍な顔つきに変わる、その緩急に惹かれた。こうして、およそ30分のステージは観客の大きな拍手とともに幕を閉じた。
2組目は神戸を拠点に活動をしているThe Songbards。The Beatles、Oasisに傾倒しているだけあって、骨太なビートとポップス度の高いメロディーが魅力だ。1曲目は「雨に唄えば」で《止まない雨はないなんて》と歌い上げ、当日の天候に合わせた選曲で初っ端から自分たちの世界へ観客を誘った。その後「ハングオーバー」「Time or Money?」を歌ってMCへ。“正直、今日の企画に誘ってもらうまでGRASAM ANIMALを知らなかったんですけど…”と上野皓平(Vo&Gu)。“だけど(今日のライブに)呼んでいただいた後に、YouTubeでMVを観たら「これ、めっちゃ好きなやつちゃうん!?」と思って。リハーサルを見て、もっと好きになりました”と好意を伝えた。そして4曲目に歌った「Inner Light」が特に素晴らしかった。Aメロを歌い出した途端、会場にフワッと金木犀の香りが運ばれたような錯覚を起こすほど、秀逸なメロディーとアレンジ。さらに「春の香りに包まれて」では、優しい春の風が顔を撫でる心地良さを感じた。The Songbardsの楽曲は素朴なアレンジや演奏のテクニック以上に、聴く人に情景や匂いを想起させてくれる。ラストに選んだのは「太陽の憂鬱」。2分50秒のロックンロールは、出だしの1音を鳴らした瞬間に会場をダンスフロアに変えた。計8曲、表情豊かな楽曲を演奏して満面の笑みでステージを完走した。
ラストはこの企画の発起人である、GRASAM ANIMAL。木屋和人(Vo&Gu)は以前、とあるインタビューで“俺らは過去の音楽史すべてに勝たなければいけない”と話していた。それだけ音楽に対する向き合い方がストイックであり、その言葉を裏付けするように独創性も非常に高い。この日、ステージに姿を見せると1曲目「Sir, Fried Monster」から会場の空気を掌握した。ファンクネスで妖艶で、なんかエロい。目の前のお客さんはジャンプでなく、腰をクネクネさせて彼らのビートに身を委ねている。2曲目「HERO」を歌い終えたところで、木屋が口を開く。“リリースがあるとかじゃないんですけど、なんか楽しそうだなと思って今回の企画を考えてみました。今日はみなさん、本当にありがとうございます。心の底から思ってます、ありがとう”。観客から拍手が送られる中、自身の心境を告げた。“嫌なことを言うと、3カ月前までは心の底から「ありがとう」と思えなかったけど、俺の中で変革が起きまして。すごい感謝があふれて止まらないんですよ。次、絶対に「Bali High」はやりたい”という宣言通り3曲目は「Bali High」を披露。そして“俺ら、いろんな曲があって。一体どんなバンドなんだって言われるんですけど、別にどんな曲があっても良いじゃないか、音楽って愛でしょ!って曲をやります”と言って4曲目には「POCARI SWEAT」を演奏した。僕は、彼らの作る踊れる曲も好きだが、メロディメーカーっぷりを堪能できる歌モノも好きだったりする。続く「ヤモメ」や「抱きしめたい」もまた、もっと評価されるべき優れたポップスだと思う。“まだまだ見えないことがいっぱい。良いことが沢山待ってるよ! 楽しいよ! みんな楽しいんだ!”と木屋が突然、何の脈絡もない言葉をハイテンションで言い放ち、「Y字路より」「LOVE OIL」を演奏して本編が終了。しかし、このまま観客が帰るはずもなく、すぐさまにアンコールへ突入。再びステージに姿を見せた4人が最後に歌ったのは「俺たちに夏はない」だった。“これでもくらえ”と言わんばかりに、爆発的なサウンドと歌。それに呼応するように踊り歌う観客たち。ミラーボールの下、僕らは踊った。明日のことなど考えず、ただただ踊ったのだ。
撮影:山川哲矢/取材:真貝 聡
【セットリスト】
■No Buses
1.Sleepswimming
2.Slowday
3.Cut My Nails
4.Dirty Feeling
5.Yellow Receipt
6.Number Four or Five
7.When You Sleep With Your Son
8.With or Without It
■The Songbards
1.雨に唄えば
2.ハングオーバー
3.Time or Money?
4.Inner Light
5. 春の香りに包まれて
6.悪魔のささやき
7.ローズ
8.太陽の憂鬱
■GRASAM ANIMAL
1. Sir, Fried Monster
2.HERO
3.Bali High
4.POCARI SWEAT
5.ヤモメ
6.抱きしめたい
7.Dogs(新曲)
8.Here Comes The Dogs(新曲)
9.Y字路より
10.LOVE OIL
<ENCORE>
俺たちに夏はない
【ライブ情報】
■GRASAM ANIMAL
『GRASAMANIA』
11月29日(金) 東京・下北沢GARAGE
出演:GRASAM ANIMAL、ネクライトーキー
チケット詳細ページ:http://bit.ly/2VSwKxV
『GRASAMANIA〜ONE MAN SHOW〜』
[2020年]
1月31日(金) 東京・下北沢GARAGE
※ワンマン公演
チケット詳細ページ:http://bit.ly/2nX4XQj
■The Songbards
『CHOOSE LIFE Release Tour』
[2020年]
1月23日(木) 兵庫・神戸VARIT.
w)KOTORI and more…
1月25日(土) 広島・BACK BEAT
w)2 and more…
1月26日(日) 熊本・B9.V2
w)2 and more…
1月28日(火) 香川・高松TOONICE
w)後日発表
2月01日(土) 宮城・仙台LIVE HOUSE enn 2nd
w)The Cheserasera and more…
2月02日(日) 栃木・HEAVEN’S ROCK宇都宮2/3(VJ-4)
w)Helsinki Lambda Club、ズーカラデル
2月09日(日) 京都・GROWLY
w)DENIMS and more…
2月11日(火・祝) 石川・金沢vanvan V4
w)DENIMS、MONO NO AWARE
■No Buses
『WASEDA ART SHOWCASE』
10月18日(金) 東京・代官山SPACE ODD
『HUNGRY OVER 2019』
10月19日(土) 東京・下北沢BASEMENTBAR / THREE
『ボロフェスタ2019』
10月25日(金) 京都・KBSホール
『TDB』
11月05日(火) 東京・下北沢BASEMENT BAR
『Camp Cope Japan Tour 2019』
11月06日(水) 東京・渋谷LUSH
『South Penguin “Y” release party.』
11月12日(火) 東京・渋谷WWW
【関連リンク】
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