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ロックの進化に貢献したムーディー・ブルースの絶頂期の作品のひとつ『童夢』

ムーディー・ブルースはメロトロンやサウンドエフェクトをよく使うからか、プログレッシブロックのグループと見られがちだが、実はそうではない。彼らはあくまでも美しいメロディーを生かすために当時の先進的な道具を使っていたのであって、プログレッシブロックを目指していたわけではない。キング・クリムゾンやイエスらとは立ち位置がまったく違うのだ。今回取り上げる7枚目となる『童夢(原題:Every Good Boy Deserves Favour)』を聴けば、プログレというよりポップでフォーキーなスタンスが彼らの持ち味であることが理解してもらえるはずだ。日本では本作で彼らの人気に火がつき(オリコン7位)、他の作品も聴かれるようになり、シングルカットされた「ストーリー・イン・ユア・アイズ」は毎日のようにラジオでオンエアされていた。本作は全英チャートで1位、全米チャートでも2位と大ヒットした彼らの代表作のひとつである。

■ムーディー・ブルースの初期の歩み

ムーディー・ブルースは1964年に結成された。デビュー当初は、その頃イギリスに多かったR&Bの香りがするビートグループであった。64年末に出したシングル「ゴー・ナウ!」(ソフトなR&Bナンバー)が全英1位となり一躍脚光を浴びる。しかし、同曲収録の1stアルバム『デビュー!(原題:The Magnificent Moodies)』(‘65)をリリースするものの人気は下降線を辿り、ギタリストでリードヴォーカリストのデニー・レイン(のちにウィングスのメンバーとなる)とベースのクリント・ワーウィックが脱退する。ちなみに、このデビューアルバムはサウンドが渋すぎたために売れなかったのだが、内容は良い。泥臭いブルーアイドソウルが好きな人には気に入ってもらえると思う。

グループはリーダー的存在のデニー・レインが辞めたことで存続さえ危ぶまれたのだが、彼らの代わりにギタリストのジャスティン・ヘイワードとベースのジョン・ロッジが加入し、そのサウンドは大きく変わることになる。それまでとはまったく違うグループになったと言っても過言ではなく、彼らの音楽に言及する時は2ndアルバム以降を指す場合がほとんどだ。メンバーは、レイ・トーマス、マイク・ピンダー、グレアム・エッジ、ジョン・ロッジ、ジャスティン・ヘイワードの5人で、全員がソングライティングとリードヴォーカルを担当するという才能豊かなチームである。

■革新的なアルバム『デイズ・オブ・ フューチャー・パスト』

67年にリリースされた2ndアルバム『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』は、当時在籍していたデッカレコードの企画をグループ側が受け入れたかたちになったものの、彼らならではの創意工夫で新しいロックの表現がなされ、以降のブリティッシュロック界、特にプログレッシブロックの誕生に大きな貢献をしたと言えるだろう。このアルバムで彼らが取り組んだのは、オーケストラとロックコンボの融合である。今でこそクラシックとロックの融合は珍しくないが、企画モノとはいえロック界では初めてのことであっただけに驚きをもって迎えられた。ディープ・パープルの『ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』(‘69)は、明らかにこのアルバムにインスパイアされて制作されているし、キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』(’69)については、ムーディーズが設立するレーベルからリリースすることになっていただけに、やはり影響を受けていることは確かである。この『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』はプログレッシブロックの誕生というロックの新たな可能性を提示したロック史に残る重要作なのである。また、このアルバムはクラシックとの融合だけでなく、コンセプトアルバムとして制作されたことも重要な側面である。

■コンセプトアルバム

インターネットや携帯電話が普及する前、ロックやポップスを楽しむということは、ヒットしたシングル曲を聴くことの他に、アルバム1枚(だいたい10〜12曲程度収められている)をじっくり聴くという行為が存在した。特に音楽ファンと呼ばれる人はアルバムを聴くことが主であった。このことはLPの頃だけでなく、CDになってもそう変わらなかったことである。しかし、気に入ったものを1曲ずつダウンロードして携帯で音楽を楽しむことが普通の今、アルバムを聴くという行為は若者にとっては理解しにくいのかもしれない。

アルバムに収録されるのはだいたい10〜12曲だから、シングルヒットが見込まれるアーティストの場合には2、3曲のヒット性がある曲(ラジオで紹介しえもらうため、3分から長くても4分程度にしておく)をアルバム内に適度に分散させておく。シングルヒットを考慮しなくてもいいアーティストの場合は一曲一曲が長くても支障はなく、アドリブ演奏が多いアーティストの場合には、LP片面で1曲のみという場合もある。いずれにしても多くのアルバムにおいて曲と曲の間に関連はなく、それぞれ独立した内容を持っていた。

ところが、この『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』は収められた7曲が全て“ある人の1日”をテーマにした内容が歌われており、ひとつのコンセプトをもとに収録曲は書かれているのである。この作品はクラシックとロックを融合させることと、それに加えて全体のテーマに沿って曲同士が相互に関係し合うという、ふたつの重要な要素を持っていたのである。当時、ロック界では非常に珍しい手法でこのアルバムは制作されており、それは画期的なことであった。

■独自の音楽表現を獲得する時期

彼らはこの『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』の経験と、同じく67年にビートルズがリリースしたコンセプトアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』や、ヴァン・ダイク・パークスの『ソング・サイクル』などをおそらく参考にしながら、ムーディー・ブルース独自の音楽を確立していく。

68年にリリースした3作目『失われたコードを求めて(原題:In Search Of The Lost Chord)』(全英チャート5位)から、アルバムジャケットのアートワークはフィル・トラバースが手がけ、トニー・クラークがプロデュースすることになった。これは4作目の『夢幻(原題:On The Threshold Of A Dream)』(‘69)(全英チャート1位)、5作目『子供たちの子供たちの子供たちへ(原題:To Our Children’s Children’s Children)』(’69)(全英チャート2位)、6作目『クエスチョン・オブ・バランス(原題:A Question Of Balance)』(‘70)(全英チャート1位)、本作『童夢』(’71)(全英チャート1位)、8作目の『セヴンス・ソジャーン(原題:Seventh Sojourn)』(‘72)(全英チャート5位)まで変わらず、この時期にリリースされたアルバムはどれも甲乙付け難い秀作で、ムーディーズの絶頂期にあたる。ソングライティングは全員が担当しているものの、最終調整はメンバー全員で行なっているのだろう、ひとりで書いているような統一感がある。

■本作『童夢』について

冒頭にも書いたが、彼らはプログレのグループとして扱われることが多いが、それは違う。確かにロック界で最も初期にメロトロンを取り入れたり、サウンドエフェクトを使用したりしているのは事実である。しかし、彼らは美しいメロディーを生かすためにそういった手法を取り入れているだけなのだ。言い換えれば、メロトロンやモーグやSEはアルバムのファンタジックなコンセプトを強調するための小道具といった感じだ。

前述したように、彼らの69〜72年までのアルバムはどれも秀作だが、71年にリリースした本作『童夢』が日本で一番売れたので、取り上げることにした。興味のある人は他のアルバムも聴いてみてほしい。余談だが、世間が彼らに持っているプログレ的なグループという印象は、リアルタイムで彼らのことを知っている人なら頷いていただけるだろうが、フィル・トラバースの手になるジャケットのアートワークと、一連のアルバムにつけられた秀逸な邦題によるところが大きいと思う。

収録曲は全部で9曲、CD化に際して2曲が追加収録されている。全体を貫く牧歌的な雰囲気はフェアポート・コンベンションやヘロンなどのブリティッシュフォークからの影響も感じられる。また、生ギターをフィーチャーしたナンバーではCSN&Yのようなアメリカっぽいコーラスも披露しているし、ビートルズからの影響も少なくない。1曲目のプログレ的なナンバー「プロセッション」は、コンセプトアルバムの導入部として上手く機能していると思う。おどろおどろしいコーラスから2曲目のポップな「ストーリー・イン・ユア・アイズ」へとつながる部分は、何度聴いてもカッコ良い。「ゲッシング・ゲーム」と「エミリーの歌」は優しさに満ち、「生命をもう一度(原題:One More Time To Live)」や「家へ帰れない(原題:You Can Never Go Home)」は凛とした力強さが感じられる。ラストの「マイ・ソング」はドラマチックな展開を見せる名曲で、CDではこの後にボーナストラックが入っているが、絶対に「マイ・ソング」を最後に聴くべきだろう。

■最後に…

今ではすっかり忘れられてしまった感のあるムーディー・ブルースであるが、デビューから55年が経過した現在も活動しているのは驚異的だ。残念ながらレイ・トーマスは昨年亡くなってしまった。しかし、この年ロックの殿堂入りも果たしている。何度も言うが、絶頂期のアルバムはどれも傑作揃いなので、これを機にぜひ聴いてみてください。

TEXT:河崎直人

アルバム『Every Good Boy Deserves Favour』

1971年発表作品

<収録曲>

1. プロセッション/PROCESSION

2. ストーリー・イン・ユア・アイズ/THE STORY IN YOUR EYES

3. ゲッシング・ゲーム/OUR GUESSING GAME

4. エミリーの歌/EMILY’S SONG

5. アフター・ユー・ケイム/AFTER YOU CAME

6. 生命をもう一度/ONE MORE TIME TO LIVE

7. ナイス・トゥ・ビー・ヒア/NICE TO BE HERE

8. 家へ帰れない/YOU CAN NEVER GO HOME

9. マイ・ソング/MY SONG

10. ストーリー・イン・ユア・アイズ(オリジナル・ヴァージョン)/THE STORY IN YOUR EYES – ORIGINAL VERSION

11. ドリーマー/THE DREAMER

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