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ジョー・サトリアーニ主催の神業ギタリストを集めたG3ツアー。その記念すべき第一作目となる『G3ライヴ』

ジョー・サトリアーニは88年にミック・ジャガーの初ソロツアーのギタリストとして起用されることで、その名が世界的に知られるようになった。その後、ソロアーティストとして順風満帆な活動をしていたが、北欧公演の途中で脱退したリッチー・ブラックモアの代わりにディープ・パープルに参加を要請される。そして、93年12月の日本ツアーや翌年の欧州ツアーで大活躍することになるのだが、レコード会社との契約上の制約でパープルのサポートは1年弱で終了することになった。ソロ作も絶好調の彼が次に仕掛けたのが、G3(3人のギタリスト)コンサートツアーで、96年10月に第1回目のツアーがスタートする。本作『G3ライヴ(原題:G3 Live In Concert)』はふたりのスーパーギタリスト(エリック・ジョンソンとスティーブ・ヴァイ)を迎えて行なわれたコンサートの模様を収録したアルバムで、ツアー1回目ということもあり、熱気と緊張感に満ちあふれた力作となった。

■世代によって変わる ギタリストのテクニック

このアルバムに参加した3人の凄腕ギタリストたちの生年は、サトリアーニが56年、ジョンソンが54年、ヴァイが60年である。ちなみに一世代前のスーパーギタリストたちを見てみると、エリック・クラプトン、リッチー・ブラックモア、ピート・タウンゼンドは45年、ジェフ・ベック44年、ジミ・ヘンドリックス42年、ジミー・ペイジ44年などとなっている。

クラプトン世代(40年代生まれ)のギタリストたちは、その多くがロックンロールやブルース、カントリーといったルーツミュージックに影響されているのに比べて、G3のメンバーは子供の頃からすでにハードロックやプログレが存在していたのである。当たり前のことなのだが、この生年の違いがギタープレイに大きな影響を与えることになる。中でも、ブラックモア、ベック、ジミヘンらが生み出したロックそのもののギタープレイが、G3世代のハードロック系ギタリストに与えた影響は計り知れない。

僕も世代的にG3世代なので、その辺りの事情はよく分かる。ジミヘンの「フォクシー・レディ」(‘67)、ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を(原題:Whole Lotta Love)」(‘69)やパープルの「ハイウェイ・スター」(’72)などは“ロックそのもの”であり、思春期にこれらのレコードを浴びるように聴いていれば、もともとはフュージョン音楽であるロックがルーツ音楽のように身についてしまう。

40年代に生まれたクラプトン世代のアーティストたちは、ブルース、カントリー、ロックンロール、R&B、ジャズ、クラシックなど、もう一世代昔の音楽を聴き、それらを昇華させてハードロックやプログレを生み出すことになるのである。G3世代のアーティストたちが、ブラックモアやジミヘンらに影響を受けているように、クラプトン世代はレス・ポール(1915年)、B・B・キング(1925年)、チェット・アトキンス(1924年)、ボ・ディドリー(1928年)、チャック・ベリー(1926年)、ちょっと若いがジェリー・リード(1937年)、ジェームス・バートン(1939年)といったギタリストに影響されている。

■G3コンサートツアー

サトリアーニの声掛けでスタートしたG3コンサートは、途中で何年かの抜けはあるものの2018年まで続いており(当然、今年はコロナ問題があるために無理)、これまで錚々たるギタリストが参加している。ロバート・フリップ(97年)、マイケル・シェンカー、ウリ・ジョン・ロス(98年)、ジョン・ペトルッチ、スティーブ・モーズ(2001年)、イングヴェイ・マルムスティーン(03年)、ポール・ギルバート(07年)、スティーブ・ルカサー、アル・ディメオラ(12年)など、詳細はウィキペディアで確認してもらいたいが、世界トップレベルの速弾きギタリストたちのショーケースとなっている。速弾きプレーヤーでまだG3に参加していないのは、スティーブ・ハウ、エドワード・ヴァン・ヘイレン、クリス・インペリテリぐらいではないか。

■本作『G3ライヴ』について

コンサートはオープニングアクトとして、若手白人ブルースマンのケニー・ウェイン・シェパードとイギリスのアコースティック・ギター奏者エイドリアン・レッグが登場、シェパードもレッグも翌年にはG3のメンバーとして選ばれるほどの腕前である。

実際のステージでは、スティーブ・ヴァイ(9曲) → エリック・ジョンソン(9曲) → ジョー・サトリアーニ(9曲)の順で進行し、アンコールとしてG3によるジャムセッション(3曲)「ゴーイング・ダウン」(ドン・ニックスのカバー)、「マイ・ギター・ウォンツ・トゥ・キル・ユア・ママ」(フランク・ザッパのカバー)、「レッド・ハウス」(ジミヘンのカバー)という流れで行なわれたが、本作はサトリアーニ(3曲)、ジョンソン(3曲)、ヴァイ(3曲)、ジャムセッション(3曲)の順になり、計12曲が収録されている。

サトリアーニは10代で一流ジャズプレーヤーの門下生となり、練習の鬼で理論にも長けており、豪快かつ丁寧なプレイが持ち味だ。ここでもさまざまなギターのテクニックを惜しむことなく駆使しており、速いパッセージからエモーショナルなフレーズまで彼の卓越したプレイが堪能できる。

続くジョンソンはどちらかと言えばロックというよりはフュージョン寄りなので、このアルバムがリリースされた時点では一番知名度は低かったと思う。彼の名前が世界に知られるきっかけとなったのは、同郷(テキサス)のクリストファー・クロスのメガヒットしたデビュー作『南から来た男(原題:Christopher Cross)』(‘79)だ。このアルバムで、ジェイ・グレイドン、ラリー・カールトンら売れっ子のセッションギタリストと並んで当時無名であったジョンソンが参加し、このふたりに勝るとも劣らない鬼気迫るギタープレイが認められてからだ。クロス自身、デビュー前は地元ではよく知られたハードロックギタリストで、10代の頃にディープ・パープルのライヴで急病のブラックモアに代わって弾いたこともあったのだが、ジョンソンには負けを認めていて、事あるごとにジョンソンをデビューさせようと頑張っていたのである。

そのジョンソンは並外れた早弾きを中心に、ジャズやカントリーの超絶テクニックを駆使して華麗な演奏を聴かせる。実際に彼のライヴを観た人なら分かると思うが、左手が見えないぐらい速く動いているのに的確に音がコントロールされているのが特徴で、間違いなく世界トップレベルのテクニックを持つ。G3世代の中では珍しく、スティーブ・モーズ(54年生まれ。サトリアーニの代わりにディープ・パープルに加入した)と同様、カントリーに大きな影響を受けている。

ヴァイはサトリアーニの教え子で、ザッパの門下生(採譜係)を経てハイテクニックのギタリストとして知られるようになるが、ギターを始めた頃から1日10〜15時間を練習に当てるというストイックさの努力の人である。また、バークリー音楽院で音楽理論も学んでおり、並外れた感性と技術の持ち主だと言える。映画『クロスロード』でのギター合戦をはじめ、彼の演奏はよくご存知だろう。情感たっぷりのフレーズからフリーキーな演奏まで、多くの抽斗を持つプレーヤーだ。本作でも変幻自在のプレイを披露している。

そして、お待ちかねのジャムがスタートする。ロックの定番ジャム曲「ゴーイング・ダウン」から「レッド・ハウス」までの3曲、G3による圧巻のセッションが繰り広げられており、ギターファン(特に、HR/HMのギタリスト)にとってはどのナンバーも興味深いはずだ。

本作がリリースされたのは今から23年前であるが、ロックギターの技術的な進歩はこの頃から現在までに大きな変化はないように思う。ひょっとすると、G3のギタリストたちはロックギターの最終地点に到達してしまったのかもしれない。

TEXT:河崎直人

アルバム『G3 Live In Concert』

1997年発表作品

<収録曲>

01. クール#9(ジョー・サトリアーニ)/Cool #9

02. フライング・イン・ア・ブルー・ドリーム(ジョー・サトリアーニ)/Flying In a Blue Dream

03. サマー・ソング(ジョー・サトリアーニ)/Summer Song

04. ザップ(エリック・ジョンソン)/Zap

05. マンハッタン(エリック・ジョンソン)/Manhatten

06. キャメルズ・ナイト・アウト(エリック・ジョンソン)/Camel’s Night Out

07. アンサーズ(スティーヴ・ヴァイ)/Answers

08. ラブ・オブ・ザ・ゴッド(スティーヴ・ヴァイ)/For The Love Of God

09. アティテュード・ソング(スティーヴ・ヴァイ)/The Attitude Song

10. ゴーイング・ダウン(ジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイ&エリック・ジョンソン)/Going Down

11. マイ・ギター・ウォンツ・トゥ・キル・ユア・ママ(ジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイ&エリック・ジョンソン)/My Guitar Wants To Kill Your Mama

12. レッド・ハウス(ジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイ&エリック・ジョンソン)/Red House

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