1月15日(火)、銀杏BOYZが2度目の日本武道館公演『世界がひとつになりませんように』を開催する。やはりというか、当然というか、チケットは瞬間的にソールドアウト。2017年の武道館公演のタイトルじゃないが、“日本の銀杏好きの集まり”がバンドにとって所縁のある日にちの1月15日に再び行なわれるのである。ファンにとってはまさに待望のライヴと言えるだろう。おそらく当日に演奏されるであろうナンバーも収録されたバンドのデビュー作『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』に、今週はスポットライトを当てる。
■ファンの心をとらえて離さない 峯田の魅力
2017年はNHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演。昨年2018年には日本テレビ系ドラマ『高嶺の花』で石原さとみの相手役を務めるなど、今や俳優としての活動のほうが世間一般には知られているような感もある峯田和伸。しかし、銀杏BOYZが再び日本武道館公演を開催し、そのチケットが瞬時にソールドアウトするに至っては、銀杏BOYZ=峯田和伸の歌声とパフォーマンスを渇望するコアなファンの想いはまったくと言っていいほどに衰えていないことを物語っている。
2003年の結成以来、発表したアルバムは5枚。とはいえ、うち1枚は舞台『裏切りの街』サウンドトラックで、もう1枚はライヴリミックスアルバムなので、オリジナル作品は3枚でしかない。15年で3枚となると、近年のサザンオールスターズや浜田省吾ら大御所のペースに近い。いや、デビュー作は2枚同時発売だったので、リリースタームは大御所以上である。シングルは2016年に2枚、2017年に3枚と、この辺りは普通のペースであるが、総数は9枚と、こちらも少ない。実はライヴも決して多くはない。『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』と『DOOR』とを同時リリースした2005年は大規模な全国ツアー『世界ツアー 2005』を行なったものの、それ以外は2007年~2008年の『せんそうはんたいツアー』と、2016年の『世界平和祈願ツアー 2016』くらいである。まぁ、フェスへの出演や他バンドのツアーへの参加もあるのでライヴそのものが少なかったとは言えないが、音源同様に決して多いとは言えないだろう。
それでいて──いや、もしかすると、それだから…かもしれないが──日本武道館公演を瞬間的にソールドアウトさせるのだから、そこに“銀杏BOYZ=峯田和伸”の凄みを改めて感じる。ドラマで初めて峯田を知って銀杏BOYZに入ったリスナーもいるにはいたのだろうし、もしかすると前回の武道館は『ひよっこ』出演のあとだったので、テレビ露出の効果も少なからずあったのかもしれない。しかし、餓えた野獣のようなパフォーマンスで、放送禁止用語も辞さない言葉を荒々しいパンクロックに乗せて歌う銀杏BOYZのステージは間違いなく聴き手を選ぶもので、ドラマで峯田を知った人は音源を聴くところまでは行っても、ライヴに足を運ぶまでにはならないと思う。こう言っちゃなんだが、あのライヴはダメな人は徹底的にダメだと思う。それにしても、武道館は椅子席ということもあるし、オールスタンディングよりは観やすいということで、『ひよっこ』経由があったのかもしれないが、(仮にあったとして)その御祝儀が今回まで持続するとは思えない(『高嶺の花』は視聴率で大分苦戦したと聞くので、おそらくこちらの効果もなかろう)。
また、今回は平日の開催。しかも、三連休後と、はっきり言って条件は良くない。それでも武道館を売り切るというのは、もともとアーティストの地力が相当に強い証左である。峯田和伸の音楽を欲する人はどんなにリリース間隔が空こうが、ライヴツアーが何年間もなかろうが、それを待ち続ける。その人らが優に1万人を超えるというのは本当にすごいことだ。10数年間もファンの心を捕まえて離さない銀杏BOYZ、峯田和伸の魅力はどこにあるのか。その点を、以下、そのデビュー作『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』を題材に探っていく。(本作は『DOOR』と同時発売であり、2枚組ではないものの、ともに1stアルバムという呼ばれ方もされているようでもあるが、本コラムではリリース時にチャートがわずかに上であったこちらを取り上げさせてもらう)
■普遍的なメロディーと荒ぶるサウンド
本作でまず強調したいのはメロディーの良さ。大きく分けてパンク寄りとフォーク寄りのナンバーがあるが、特にサビはどちらも2~3度聴けば覚えてしまうような親しみやすさがある。銀杏BOYZの前身であるGOING STEADY時代からの楽曲で、セルフカバーと言ってもいいM7「もしも君が泣くならば」やM9「BABY BABY」の他、M2「SKOOL KILL」やM3「あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す」辺りは十二分にキャッチー。吉田拓郎風味なM6「なんて悪意に満ちた平和なんだろう」はいかにもフォークな感じだし、M10「漂流教室」辺りはちょっと筒美京平を感じさせなくもない。いずれにしても堂々たる旋律が聴ける。英語を多用したり、音符に言葉を詰め込んだりすることもない。きちんと言葉をメロディーに乗せている印象だ。M1「日本人」の冒頭で山田耕筰の作曲による童謡「赤とんぼ」のフレーズを引用しているのが少し暗示的でもある。
その一方でサウンドはロックバンド然とした荒ぶった音が多い。M6「なんて悪意に満ちた平和なんだろう」はアコギのストロークとハーモニカが中心でモロにフォークソング的な容姿で、M13「青春時代」とM14「東京」とはロック寄りのフォーク、即ちフォークロック的なスタイルだが、それ以外はパンクロック。しかも、一般的にはうるさいとか汚いとか言われるノイジーなサウンドが前面に出ている。ギター、ベース、ドラムの音もさることながら、コーラスのシャウトも凄まじい。M3「あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す」、M7「もしも君が泣くならば」、M8「駆け抜けて性春」が顕著だが、“頭の血管が破裂してるんじゃなかろうか、少なくとも喉は潰れてるだろう”と思うような、まさに渾身のテイクが聴ける。この辺は好き嫌いがはっきりとするところだろうし、聴き手を選ぶのは間違いないけれども、全体的な質感としては70年代のロンドンパンク、80年代の日本のパンクに近いものも感じられるので、その辺に造詣がある人なら抵抗感は少ないだろう。
荒ぶった音が多いとは書いたが、無論それだけでない。全体的には高速R&Rとでも言うべきM5「トラッシュ」は、イントロにお洒落なコードを使っていたりして、単に荒々しさに固執していないというか、決してオールドスタイルのパンクだけを標榜していないことも分かる。個人的に注目したのはM10「漂流教室」。やわらいメロディーを持つフォークタイプのナンバーだが、間奏はネオアコ的である。狙ってネオアコっぽくしたというよりもバンドサウンドにフォーキーなものを取り入れたら結果的にそうなった感じだろうが、この辺りは峯田和伸の音楽的センスを感じざるを得ないところだ。いたずらに荒々しい音、汚い音だけを重宝しているだけではなく、表現手段としてそうしたものを取り込んでいると想像できる。
■リビドーを隠すことなく綴った歌詞
それでは、荒々しいサウンドを表現手段としたのは何故か。私的見解と前置きしておくが、これは銀杏BOYZの歌詞には男のリビドーを表現したものが多いからであろう。リビドーとは、[押さえきれない性的欲求のようなものを指して使われる。特に男性の荒々しい露骨な性的欲求を表現する言葉としてしばしば使われ、また時には男性の性的欲望を軽蔑する意味合いの言葉としても使われる。]([]はWikipediaからの引用)。ずばりそういうことである。以下、それらしきものを挙げてみる。
《学校帰りに君のうしろをつけてみたんだよ 君の部屋は二階の水玉模様のカーテン/学校で君のジャージ盗まれた事件があったろ 誰にも言えないけど本当は犯人は僕さ》《学校帰りに君のうしろをつけてみたんだよ 君はどっかのオシャレ野郎と待ちあわせをしてた/そいつが君のおしりの辺りに手をあてた時 僕は走って逃げてCD万引きしたんだ》(M2「SKOOL KILL」)。
《僕にとって君はセーラー服を着た天使/色白で無口でどこか淋しそうな女の子/もしもモーニング娘。に君がスカウトされたらどうしよう/もしも君がいないと僕は登校拒否になる》《君のママは新しいパパを見つけて/君を連れ去って/遠い街へ転校してしまう》《君のパパを殺したい/君のパパを殺したい/君のパパを殺したい 僕が君を守るから》(M3「あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す」)。
《あうあうあー/僕のあそこがなんだかムズムズするんだ》《あうあうあー/友達の彼女を好きになっちゃった》《あうあうあー/僕のあそこがなんだかムズムズするんだ/あうあうあー/僕のあそこが僕の言うことをきかない》(M4「童貞フォーク少年、高円寺にて爆死寸前」)。
《ベイビーベイビー I WANNA KILL MYSELF./まっくろけの夜とまっしろけの朝/ベイビーベイビー ガールフレンドがほしいよ/世界のどこかにきっと僕を待っているひとがいる》《ベイビーベイビー 幸せそうな恋人たちを電動ノコギリでバラバラにしたいよ/ベイビーベイビー フェラチオされたいよ/世界のどこかにきっと僕を待っているひとがいる》(M5「トラッシュ」)。
本作で最も演奏が荒い(粗い?)と思われるM1「日本人」も、イントロではフィードバックノイズも多く聴こえるM7「もしも君が泣くならば」も、あるいはブラストビートのM8「駆け抜けて性春」も歌詞はリビドーという感じでもないので、概ねリビドーを歌ったものはサウンドが荒々しい傾向にあると言ったほうがいいだろうか。世界情勢を視野に入れたM6「なんて悪意に満ちた平和なんだろう」、死別した友人のことを綴ったと思われるM10「漂流教室」、回顧的ロストラブソングM14「東京」などのサウンドはそれほど激しくないので、余計にそう聴こえるのかもしれない。だが、男のリビドーは女性に理解されない暴力的な衝動を孕んだものであり、それがこのノイジーでグイグイと迫るバンドサウンドと符合する。
異性を好ましく思う気持ち。それはそれで純粋なものであるが、男の場合、それと同時に性的欲求が内側から沸き上がってくる。それは隠すことが普通で、隠さないと大変なことになる。手が後ろに回った輩も数知れずだ。しかしながら、その内側から沸き上がってくる──あえて“漲る”と言い換えたい、その衝迫のパワーは決して他の何かと置き換えられるものではない。昔、“エロいことばかり考えている奴はスポーツで発散しろ!”みたいな話をよく聞いたが、あれとこれとはまったく別ものであろう。達成感、爽快感には近いものがあろうが、それは事後での話で、立ち上がりは明らかに非なるものだ(余談だが、スポーツでリビドーが解消できたらスポーツ界でのセクハラ事件など起こらないはずであろう)。
そのどう仕様もない衝動を銀杏BOYZは楽曲を通して見事に表現していると思う。美辞麗句を並べ、素敵な旋律と音色でアプローチするのが悪いとは言わない。どちらかと言えばそちらが正当である。多くのポップス、いやロックにしてもそちら側のものが多い。そんな中で峯田和伸は隠すことなく、 “リビドーとはこういうものである”と堂々と歌っている。“好きだ”の裏側には、ジャージを盗むような行為があったりもするし、君のパパを殺したいと思うこともある。この歌詞が実話かどうかはともかく、または事の大小はあっても、男性であればそうした衝動が心の芽生えることは理解できるだろう。“好きだ”も嘘でなれければ、ジャージを盗みたいと思うことも嘘ではないし、彼女が転校する要因となった新しい父親がいなくなれば彼女はこのまま同じ学校にいられると願う気持ちもまた嘘はないのだ。メロディーとサウンドの関係はそれに近いような気がする。清濁併せ呑む…いや、それとは少し違うが、彼が白も黒もさらけ出しているアーティストであることを余計にはっきりとさせていることは間違いない。簡単に言えば、裏表がないということだ。銀杏BOYZがファンの心を掴んで離さないのは、このようにデビュー時から自ら胸襟を開くことにまったく躊躇がなかったことも、相当影響しているのではないかと思う。
TEXT:帆苅智之
アルバム『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』
2005年発表作品
<収録曲>
1. 日本人
2. SKOOL KILL
3. あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す
4. 童貞フォーク少年、高円寺にて爆死寸前
5. トラッシュ
6. なんて悪意に満ちた平和なんだろう
7. もしも君が泣くならば
8. 駆け抜けて性春
9. BABY BABY
10. 漂流教室
11. YOU&I VS.THE WORLD
12. 若者たち
13. 青春時代
14. 東京
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