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『THE RENAISSANCE』にはTHE ALFEEがブレイク後に示した堂々たるロックサウンドがある

今年結成45周年、来年にはデビュー45周年を迎える、現在進行形の伝説、THE ALFEE。彼らのすごさを今回の名盤紹介だけで書き切れるとは到底思わないが、それでもTHE ALFEE本格ブレイク後のオリジナルアルバム『THE RENAISSANCE』について個人的に思うことを記してみた。若い読者に少しでも興味を持ってもらえたら幸いである。

■2700本超! 圧倒的なライヴ本数

先日、何気なくSNSを眺めていたら、『日経エンタテインメント!』の“2018年度コンサート動員力ランキング”なる記事が流れてきた。1位は東方神起。そして、女性の1位が安室奈美恵。なるほど。その他、B’z、福山雅治、嵐を筆頭としたジャニーズ勢、EXILEらLDH勢と、上位にはそうそうたるライヴアーティストが名を連ねている。そんな中、48位にTHE ALFEEの名前を見つけた。“さすがだなぁ”と思うと同時に、THE ALFEEの場合、今年がずば抜けて公演数が多かったわけではなかろうと思い立って、興味本位で昨年の同ランキングを調べてみた。2017年。THE ALFEEは47位。何とポール・マッカートニーよりも上だ(ポールはこの年48位)。何かすごい。さらにその前年も調べてみる。2016年。41位だ。2015年は48位。2014年は何と33位。ランキング上位ではないものの、毎年50位以内に顔を出している。そりゃあ、順位は前述のアーティストやアイドル勢には適わないものの、ある年だけにランクインしてその他の年にはまったく出て来ない人たちも少なくない中、THE ALFEEはコンスタントにランクインし続けていた。

その公演数にも注目した。2018年56公演。2017年52公演。2016年56公演。2015年54公演。2014年55公演。ここ5年間、THE ALFEEの公演数は毎年50公演を超えている。この数字はロック、ポップスでは結構多いほうだ。倍とは言わないが、その他アーティストの1.5倍程度の公演数ではある(演歌、アイドルは、昼夜2回公演や、専用劇場でチーム別の公演を行なっていたりして、公演数は多いので、それらとの単純比較は難しい)。同ランキングを眺めてもらえればお分かりになっていただけると思うが、公演数が少ないバンド、アーティストは会場の規模が大きい。どこで何回やったとか細かく掲載されているわけではないが、顔触れだけ見てもドームやアリーナでライヴをやっていることが分かる。すなわち、キャパシティーが大きいので動員数が多いということも分かる。一方、THE ALFEEの場合、もちろん日本武道館や大阪城ホールでのコンサートもあるが、公演のほとんどは所謂ホールや会館と思われる。公演数が多いということはそういうことだろう。

2017年の同ランキングを見ると分かりやすい。47位のTHE ALFEEは52公演で18万人。48位のポール・マッカートニーは4公演で17.9万人(※数字はいずれも『日経エンタテインメント!』の“2017年度コンサート動員力ランキング”から)。1公演あたりの平均動員数は、THE ALFEE約3500人、ポール約4万5000人となり、生臭い言い方をして申し訳ないが、こうして見てもTHE ALFEEのほうが細かく稼いでいることが鮮明となる。

しかも、これはここ数年の話ではない。THE ALFEEはそれを何十年間も続けてきた。さらに調べてみたら、彼らは1982年から毎年全国を回っており、春と秋の年間2回のツアーをほぼ欠かしたことがない。コンサート総数は今年10月ついに2700本を超えた。単純計算では、年間平均75本のコンサートをこの36年間ずっと続けてきたこととなる。

浮き沈みの激しい音楽業界において、高いレベルでコンスタントにライヴ活動を続けているのは相当に凄まじい事実だ。コンサート制作に関わるものであれば、ほとんど奇跡的とすら思うのではなかろうか。さらに言えば、これだけの偉業はソロアーティストでもかなり難しいことではあろうが、THE ALFEEはグループであり、離合集散の激しいロックバンドに分類される形態である。1982年以降、どれだけのバンドが世に出て、解散していったか、考えるまでもなかろう。そう考えるとTHE ALFEEは奇跡的ではなく、完全に奇跡と言っていい。今年のツアータイトル『Château of The Alfee』とはよく付けたもので、THE ALFEEは長年かけて誰も成し得なかった自らの城を築き上げているのだ。

■苦節9年の末、 「メリーアン」でブレイク

そんなTHE ALFEEも、デビュー時から順風満帆というわけではなかった。1974年に4人組でデビューするもヒットに至らず、1975年にメンバーのひとりが脱退。その時、用意していたシングルが発売中止となったこともあって、当時契約していたレコード会社を離れ、しばらくの間、今で言うインディーズでの活動を余儀なくされた。そんな経歴を持つ。1979年に再デビュー。高見沢俊彦がエレキギターを持ち、そのサウンドが徐々にロック色を強めていく中で、コンサートの動員は伸びていったが、その名を全国区にするまでにはもうしばらく時間を要した。THE ALFEE、ブレイクのきっかけが1983年6月発売のシングル「メリーアン」であったことは議論を待たないと思うが、そこに辿り着くまで、最初のデビューから実に9年。再デビューから数えても4年もかかった。“石の上にも三年”と言うから、THE ALFEEの辛抱はそれ以上だったことになる。これもまたすごい事実だ。

THE ALFEE、初のチャートトップ10入り。この楽曲で『第34回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たした「メリーアン」は彼らの代表曲のひとつであることは間違いないが、メンバーにとって、とても深い思い入れがある曲というわけでないらしい。いや、そういう書き方だと語弊がある。「メリーアン」はもともとアルバムの中の一曲として作られたもので、メンバーがことさらヒットを狙って作ったものではなかったという。この頃、メンバーは同年8月に開催が決まっていた初の日本武道館公演へ意識を集中していたそうで、スタッフが「メリーアン」をシングルに推した時も“何でもいい”といった感じだったそうである。ライヴ活動にこだわるTHE ALFEEらしいエピソードであると同時に、ヒット曲が生まれるのは得てしてそういう時であることを示した話でもある。

むしろ「メリーアン」のあとのほうが大変だったと、後に高見沢は述懐している。周りからは“(本当の)勝負は次”と言われ続けたそうである。スタッフだけでなく、他のメンバーふたりからもそう言われたというから、かなりのプレッシャーだったようで、大分痩せたとも振り返っている。そこで完成したのが8thアルバム『THE RENAISSANCE』に“Long Version”が収められている「星空のディスタンス」である。

■人気を決定付けた 「星空のディスタンス」

「星空のディスタンス」もまたTHE ALFEEを代表する楽曲であり、そればかりか、個人的には80年代のJ-ROCKを代表するナンバーのひとつではないかと思うほど、とにかくよくできた楽曲である。イントロからして存在感が在りすぎる。イントロは少なくとも当時の歌謡シーンではあり得なかった長さではあるが、ギターの旋律が極めてキャッチー。高見沢はDeep Purple「Smoke on the Water」やLed Zeppelin「Communication Breakdown」のように歌メロよりもギターリフのほうが印象に残る──そんな曲を意識したという。外連味たっぷりに進行するメロディーに合わせて、そこに躍動感を加味するドラムス。真打登場の“待ってました!”感にも似た、今も耳にする度にアガるイントロだ。長尺は高見沢は確信犯的に臨んだというが、ここまで高揚感があるのであれば長くても全然オーケー。日本音楽史に残る会心のイントロだと思う。歌が始まると一転、バンドアンサンブルは比較的シンプルに落ち着く。これは、歌メロ、桜井賢の美声、そしてTHE ALFEE最大の武器と言える3人のハーモニーをより良く魅せるための施法だろう。バッキングをじっくり聴くととても丁寧に作られていることが分かる。

『THE RENAISSANCE』に収録されたM5「星空のディスタンス (Long Version)」はアウトロが伸びて、速弾きのギターソロのあと、ピアノ+ヴォーカル(ハーモニー含む)でサビがもう一度聴けるという作りだ。この追加された部分は──誤解を恐れずに言えば、“JAPAN”を背負って海外でも活躍するヴィジュアル系大物バンドに似た雰囲気。無論、THE ALFEEがそのシーンの元祖だとか、影響を与えたとか何だと言うつもりはさらさらない。そこは強調させてもらうが、以前、高見沢がビジュアル系のイベントに出演したり、そのシーンで活躍する後輩たちから慕われたりするのは、氏のルックス面だけでなく、M5「星空のディスタンス (Long Version)」のアウトロで見せたような、耽美なサウンドメイクも少なからず関係しているのではないか。そんなことも少し思う。

■確信を持ってロックを前面に打ち出す

THE ALFEEはもともと桜井が高校時代に所属していたフォークグループ“コンフィデンス”が母体であり、デビュー時のスタイルもフォーク。再デビュー以降、高見沢が全ての楽曲を手掛けることになってから徐々にロック色を強め、1982年の5thアルバム『doubt,』でその割合が増えたと言われている。1983年の7thアルバム『ALFEE’S LAW』においては、「メリーアン」の他、バンド史上初のスピードメタルも披露している。「星空のディスタンス」で音楽シーンでの確固たるポジションを確立した後の作品、8thアルバム『THE RENAISSANCE』ともなると、完全にロックのリミッターは外れたと言っていい。

鐘の音~クラシカルなシンセで幕を開けるM1「孤独の美学」は、プログレ寄りのハードロックといった印象。歌の主旋律はメロディアスで、サビはキャッチーで親しみやすいのだが、ツーバスの面白いリズムの取り方であったり、間奏で転調しての速弾きギターソロであったり、そこからブレイクを経てリフに展開する様子であったり、決して長い曲ではないものの、構成がとてもドラマチックだ。そして、これもまた劇的な展開を見せるM2「愛の鼓動」に続く、M3「真夜中を突っ走れ!」は米国西海岸を彷彿させるカラッとしたR&R。さらにM4「二人のSEASON」ではシャッフルのブギーと、複雑さだけでなく、ベーシックもしっかり押さえている(まぁ、この時点でTHE ALFEEはデビュー10周年だったのだから、“ベーシックもしっかり押さえている”とは随分と失礼な物言いだが…)。それでいて──M4「二人のSEASON」が特にそう感じるのだけれども、サビメロの抑揚もドラマチックで、THE ALFEEでしか作り得なかったロックになっているのはさすがの貫禄と言えるだろう。この時期すでにCDは商品化されていたが、割合としてはまだアナログ盤のほうが圧倒的で、M5「星空のディスタンス (Long Version)」でA面を締め括る構成は時代を感じさせるところではある。

B面がM6「GATE OF HEAVEN」で始まり、M7「鋼鉄の巨人」と続く辺りは、完全にリミッターを外した証左であろう。M6「GATE OF HEAVEN」は8分27秒にも及ぶプログレ大作。3人ともがヴォーカルを取り、アコースティックからハードロック、変拍子があったり、アウトロ近くはボレロ風なマーチングビートを取り入れていたりと、まさに何でもあり。歌詞での《自由の旗を心にかざせ》の通り、その精神が発揮されたナンバーだ。M7「鋼鉄の巨人」は、この前作『ALFEE’S LAW』においては初披露したスピードメタルの第二弾。間奏でのライトハンドなどメタルをかなり意識的にやっていることが分かる。以降、どことなく米国のロックバンド、Starshipを彷彿させる、アニメ映画の主題歌にもなったM9「STARSHIP -光を求めて-」、リズムレスでパイプオルガンを導入するなど、これまたプログレを完全に意識しているM10「永遠の詩」もいいが、個人的に最も注目したのはM8「NOBODY KNOWS ME」。佐野元春っぽいニューウェイブさもありつつ、その師匠筋に当たる大滝詠一っぽいセンスが見え隠れしつつ、THE ALFEEの3人のコーラスワークが加味されて、さらに全てのご先祖様とも言えるBrian Wilsonっぽさも感じさせる。ハードロックテイストの強い作品の中で一本調子を避けてミディアムを入れたのだろうが、THE ALFEEの出自から考えるとフォーキーに仕上げそうなところ、こういう仕上げ方をするとは懐が深い。これまた流石である。

最後に──サウンド全体に見るアコギの存在感について少し記したい。『THE RENAISSANCE』は、これだけハードロック、プログレテイストの強いサウンドながら、アコースティックギターは隠れていない。やはりというか、当たり前というか、ステージでの立ち位置通り、THE ALFEEの中心には坂崎幸之助がいることが分かる。組曲的にさまざまなパートが連続するM6「GATE OF HEAVEN」や、リズムレスのM10「永遠の詩」が、そのことが分かりやすいが、白眉はM2「愛の鼓動」ではないかと思う。サビに注目してほしい。エレキギターと激しいドラミングが支配している楽曲ではあるが、サビに重なるアコギのアルペジオは、まさに楽曲全体の雰囲気を決定付けるほど、絶妙な入り方をしている。この辺はコンポーザーである高見沢の指示によるところなのか、あるいは卓越した音楽知識を持つ坂崎が導いたものか、どういう経緯で出来上がったのか分からない。しかしながら、『THE RENAISSANCE』の時点でこういったアレンジができたことは、THE ALFEEが単なるハードロックバンドに止まることなく、現在まで走り続ける息の長い存在となった、その秘訣のようなものが隠されているのではないだろうか。

TEXT:帆苅智之

アルバム『THE RENAISSANCE』

1984年発表作品

<収録曲>

1.孤独の美学

2.愛の鼓動

3.真夜中を突っ走れ!

4.二人のSEASON

5.星空のディスタンス (Long Version)

6.GATE OF HEAVEN

7.鋼鉄の巨人

8.NOBODY KNOWS ME

9.STARSHIP -光を求めて-

10.永遠の詩

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