この人たちも今年結成20周年の節目の年を迎えた。それを記念して発売されたコンプリートベストアルバム『ALL TIME BEST 1998-2018』はチャート首位となり、アニバーサリーイヤーである2018年、その年末における有終の美を飾ったと言える。当コラムでは自身初のオリコンチャート1位を獲得し、初のミリオンセラーとなった5thアルバム『NAMELESS WORLD』をコブクロの名盤として紹介する。
■ストリート出身ならではの機微
ベストアルバムの制作を好まないアーティストも少なくない中、コブクロのふたりは、先日発売されたベスト盤『ALL TIME BEST 1998-2018』のPRを自ら積極的に行なっていた。CMに出演したり、ワイドショーで生演奏したり。この辺はストリートミュージシャンならではの行為、路上出身者の本性なのかもしれないなと勝手に感心していたところだ。
別にアルバムアーティストが悪いと言いたいわけじゃないし、それを皮肉りたいわけでもない。レコーディング作業だけに注力できるのであればそれはある意味で音楽家の理想と言えるだろう。しかし、それも需要があってこそ。ベースに商業があるシーンで活動している以上、聴いてくれる人がいなければその行為は成立しない。アーティストであればセールスのことは気にしないで制作したいところだろうが、セールスがなければ制作できないのは自明な理である。
その点、アマチュアミュージシャン、とりわけストリートで活動する人たちのほうが、ある意味でシビアなのかもしれない。セールス云々以前に、まず彼ら彼女らの音楽そのものに需要がない。ある程度のキャリアを積めばそれを目当てに集まって来る人がいるかもしれないが、ほとんどのストリートミュージシャンは供給のみでスタートする。しかも、概ねその演奏場所に人の往来が多いところを選んでいるのであろうが、そこは路上であるからして、音楽を聴きに来ている人は皆無であると言ってよく、如何にそれらの人たちに自分たちの音楽を聴いてもらうかに腐心することとなる。
極端に音量を上げるわけにもいかないだろうから、行き交う人たちの歩みを止めるためには楽曲の精度を上げるしかない。もしかすると、寸劇をするとか、派手なコスチュームで惹き付けるとか、方法はいろいろあるのかもしれないが、結局のところミュージシャンの勝負は音楽だ。そのメロディーや歌詞で聴く人を惹き付けなくてはならない。その日、その場をたまたま通りかかった人を、だ。まぁ、それこそが路上の妙味であり、醍醐味なのだろうが──。
如何にして自分たちの音楽を聴いてもらうか。ストリートでそれを嫌というほど考えてきた人たちにとって、自分たちの音楽を聴いてもらうきっかけに躊躇があろうはずもない。路上で音楽が見聴きできる範囲は半径10メートル程度だろうか。メディアを使えばそこまでの距離が1,500キロだろうが2,000キロだろうが、まだ見ぬリスナー、オーディエンスにもその楽曲の存在を伝えることができる。ひとりでも多くの人に自分たちの音楽を届けることができるのであれば、本人たちが積極的に宣伝するのは当たり前のことであろう。
■メロディーと歌詞重視の音作り
そんなコブクロ、デュオ結成のきっかけとも言われる「桜」が収録された5thアルバム『NAMELESS WORLD』は、ストリート出身のアーティストらしさが感じられる作品である。彼らが如何に路上で奮闘していたのか。そして、路上で培ったものを如何に大切にしているか。それがメロディー、歌詞、サウンドに見て取れる。以下、細かく見ていこう。
何と言っても、M1「Flag」のイントロ前、M12「同じ窓から見てた空」のアウトロ後に配されたSEが印象的だ。街中のざわめき。足音。ハードケースからギターを出し入れする音。M1ではこれから路上で演奏が始まり、M12では演奏を終えて街から去っていくような作りで、コンセプトアルバム的な体裁だ。The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』が架空のバンドのショーを表現したのであれば、『NAMELESS WORLD』では架空のデュオではなく、あくまでもコブクロがそこまでやってきたことの象徴化といった感じだ。そして、そのM1「Flag」のイントロはアコギのストローク+ハーモニカ。1番のサビ終わりまではリズムレスで、アンサンブルもA’でハモりがあるだけ、と冒頭は路上スタイルを貫いている。
もちろん、全体的にはアコギ一辺倒ではなく、サウンドはバラエティー豊かではある。ブラスが入ったM5「待夢磨心-タイムマシン-」はさすがに派手で、間奏はビッグバンド風だったりする。M6「Pierrot」はオールドスクールなR&R。The Beatles、The Rolling Stones、The Who…といったロックの先達へのオマージュが感じられる。一方、M7「Saturday」はギターレスでピアノとベースだけのジャジーなサウンドメイク。かと思えば、M8「大樹の影」は三線入りのオキナワン。M11「LOVER'S SURF」ではディストーションの効いたエレキギターを全編に配した王道のJ-ROCKと、とても多彩な楽曲構成だ。
ただ、根底にあるものは、あくまでも言葉とメロディーであり、本来それを支えているのはアコギであることが分かる作りがなされている。分かりやすいのはM3「六等星 -NAMELESS STAR TRACK-」だろうか。この楽曲、リズムはドコドコとしたジャングルビートであり、ギターはオルタナを彷彿させるノイジーさで、ベースも忙しなく動く。そこだけとらえたら、1990年代のロックバンドっぽく思えるところだが、いずれの音もそれほど前に出ている感じがないのだ。イコライジングすればロックバンド然としたサウンドに聴こえるのかもしれないが、バンドサウンドが前に出過ぎないバランスがデフォルトであることは間違いない。
M2「桜」もそう。ピアノ、ストリングスが配されて、ドラマチックかつゴージャスな音作りではあるものの、アコギの音がそれらに拮抗するようなバランスで、決して埋もれないように配慮されていると思う。決定的なのはアウトロ近く(ていうかアウトロ)のブレイク。ハーモニーとアコギで締め括っているのは、この楽曲がストリートで生まれたことを強調する意味もあったのではと推測する。M12「同じ窓から見てた空」のアウトロも鍵盤と打楽器が若干聴こえるが、エレキや低音がないことから同じような意図があったような気がしなくもない。
■“THE コブクロ”と言える旋律
それでは、そのメロディーに関して若干記したい。これはもしかしてこの時期のコブクロを語る時にはご法度なのかもしれないのだが、決してディスっているわけでも何でもないので、そこをご配慮の上でお読みいただきたいのだけれども、『NAMELESS WORLD』収録曲の随所で日本人アーティストからの色濃い影響が感じられる。それが滲み出てしまって、隠し切れないと言った印象すらある。黒田作曲のM8「大樹の影」は音符への言葉の乗せ方が、彼が大ファンだという尾崎 豊っぽさを感じるし、字余りというか、言葉詰め込み型のM12「同じ窓から見てた空」は吉田拓郎、長渕 剛らから連なる日本フォークソングの系譜といった感じだ。小渕が手掛ける曲のサビで高音に突き抜ける感じは、これはもうどう考えてもMr.Childrenの桜井和寿の影響大だろう。黒田、小渕はともにミスチルのファンだというから、違和感もないほどにその旋律が歌唱されている。
だからと言って、何もコブクロがエピゴーネンなどと言うつもりはさらさらない。どんな優れたアーティストでも、その作品には何かしらの影響は残るものだ。音楽に限らず、アーティストと呼ばれる人たちは、模倣によりアートを理解し、その中から己の独自性を見出すのだと思う。突然、才能が降って沸くようなことはないと断言してもいい。
ミスチルだ尾崎だと指摘したが、無論それだけでなく、『NAMELESS WORLD』には、彼ら自らが確立した“THE コブクロ”がしっかりと刻まれている。それがM2「桜」とM4「ここにしか咲かない花」というシングル曲であることには意見を待たないのではないかと個人的には思う。サビで響かせる叙情的で劇的な旋律は誰も創り得なかったものであり、その圧倒的な自負もあったのだろう。メロディーに過度なサウンド装飾がないのがその証拠ではなかろうか。M2「桜」のアウトロは前述の通りだが、M4「ここにしか咲かない花」はサビの熱い歌唱からすると、その背後ではさぞかしアコギをジャンジャカとストロークするのだろうと思いきや、そうではないし、ギター以外の音も実はそれほど温度が高くはない。これはメロディー優先…いや、歌最優先の姿勢の表れと考えることができる。いずれにしても、先人の磁場から逃れ、彼らがビヨンドに到達していたことが分かるナンバーであることは間違いなく、今となってみれば、それまでの自身の売上記録を更新して、大ブレイクのきっかけとなったことも、“そりゃあ当然だよな”といった感じである。
■歌詞のテクニカルさも見逃せない
さて、歌詞。今やJ-POPになくてはならない“桜ソング”の代表格、M2「桜」があるからか、ややもするとコブクロは類型的な応援ソングを歌っていると思っている人もいるのかもしれないが、決してそうではない。
《桜の花びら散るたびに 届かぬ思いがまた一つ/涙と笑顔に消されてく そしてまた大人になった/追いかけるだけの悲しみは 強く清らかな悲しみは/いつまでも変わることの無い 無くさないで 君の中に 咲く Love…》(M2「桜」)。
決して後ろ向きではないが、そこに無謀な前向きさはない。それどころか、現実はそう甘くないと歌っているようでもある。また、その観点で言えば、M10「Starting Line」も興味深い。
《探して見つかるくらいの そんな確かなものじゃないから/あやふやな今にしがみついて 手探りの日々を繰り返して/手探りの日々を繰り返して・・》《ゆっくりと ゆっくりと走り出す スタートラインまであと少し/弛まずに 無くさずに 目をそらさずに/揺ぎ無い想いだけを 今 胸の真ん中に》(M10「Starting Line」)。
「Starting Line」なんてタイトルを付けると、下手なアーティストなら《今、スタートラインに立っている君は…》などと言いそうなものだが、ここでは未踏の状態。しかも、それは“探しても見つからない、不確かなもの”としている。これが2005年の『全国高等学校サッカー選手権大会』応援歌だったというのは少し驚きでもあるが、これもまたストリート出身ミュージシャンゆえのリアリティーなのだろう。
そうした歌詞に込められたメッセージ性もさることながら、そのテクニックもさすがに優れていることも記しておきたい。M1「Flag」での韻の踏み方は、聴いてて楽しくなるほどだ。
《ボロボロのスニーカー》→《人が行き交う》/《壊れた Blues Harp》→《動かない雲 浮かぶ》/《鉢植えの花》→《咲いて散るのかな?》/《一人の少年》→《歩むのでしょうね?》/《愛を込め歌う》→《その頬つたう》/《凹んだ Guitar Case》→《歩いてきたっけ》(M1「Flag」)。
内容は路上で演奏をしていた頃の出来事や想いを綴ったものだが、こうした手法を入れ込むのは、高度な作詞スキルがあってこそと言わざるを得ない。また、M4「ここにしか咲かない花」でも言葉のチョイスにも注目した。
《今はこみ上げる 寂寞の思いに》《燦然と輝く あけもどろの中に》(M4「ここにしか咲かない花」)。
“寂寞(せきばく)”とは“ものさびしく静まっていること”の意味。“あけもどろ”とは沖縄・奄美諸島に伝わる古代歌謡「おもろさうし」の中に出てくる言葉で、“東の海に赤々と昇る太陽の光が空を染める事”だという。パッと聴いて誰もが分かることだけでなく、語感を駆使して、リスナーの思考を促すような作風も素晴らしい。この辺りからも、今さらながら、“コブクロって秀逸なアーティストだなぁ”と思う。
TEXT:帆苅智之
アルバム『NAMELESS WORLD』
2005年発表作品
<収録曲>
1.Flag
2.桜
3.六等星 -NAMELESS STAR TRACK-
4.ここにしか咲かない花
5.待夢磨心-タイムマシン-
6.Pierrot
7.Saturday
8.大樹の影
9.NOTE
10.Starting Line
11.LOVER'S SURF
12.同じ窓から見てた空
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