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ストイックな姿勢を貫き続ける B’zのヒットを探る「臼井孝のヒット曲探検隊~アーティスト別 ベストヒット20」

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、第5回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。

■平成の音楽シーンを牽引した トップセールスのアーティスト

B’zはまぎれもなく平成の音楽シーンを牽引してきたトップクラスのアーティストと言えるだろう。特にそのCDセールスは、シングル約3600万枚、アルバム約4700万枚で合計約8300万枚(2018年末現在、いずれもオリコン調べ)とアーティスト別でダントツで、2017年のシングル「声明/Still Alive」までオリコン49作連続1位を継続中 いくつかの作品で、諸事情から発売日を変更したものや、2週目に急遽購入特典が付けられたものも見られたが、そういった施策が奏功することも含め、“持っている”アーティストだと思う。

B’z 25th Anniversary DIGEST 1988-2013

また、『LIVE-GYM』と称する彼らのLIVEも大人気で、大規模なドームツアーやスタジアムLIVE、さらには離島など遠隔地のホールから海外ツアーまで、その開催地や開催規模も多種多様で、しかも空中落下やバイクでのフライング、遂にはクルマの爆破までド派手な演出をやってしまうなど、まさにLIVEに命を賭けているとも言える。B’zと同じく国民的アーティストであるサザンオールスターズやDREAMS COME TRUEのLIVEは、どこかピースフルな雰囲気を醸し出しているが、B’zの場合は自分の限界と闘いながらパフォーマンスをしていて、どこかアスリートに似た雰囲気が漂う。デビュー30年を超えてもなお、そのストイックな姿勢が貫かれているのも人気の秘訣なのだろう。もちろん、それでいてパワフルなハイトーンの歌声を維持する稲葉浩志や、印象的なギターフレーズを奏でる松本孝弘の実力あってのことだ。

■ミリオンはシングル15作に アルバム19作、 ゴールドディスク大賞を何度も受賞

そんなB’zのデビューからの流れをざっくりと振り返ってみよう。B’zはボーカル・稲葉浩志(1964年生まれ)とギターの松本孝弘(1961年生まれ)によるユニットで、1988年にシングル「だからその手を離して」とアルバム『B’z』で同時デビュー。

89年に発売したミニアルバム『BAD COMMUNICATION』がロングヒットし、翌年の3rdアルバム『BREAK THROUGH』が初のオリコンTOP10入りを果たし、その勢いに乗ってカメリアダイヤモンドCMソングとなった同年のシングル5作目「太陽のKomachi Angel」が初のオリコン1位を獲得。以降は、シングルが49作連続1位、うち15作がミリオンセラー、アルバムも2017年のオリジナル『DINOSAUR』まで28作で1位、19作がミリオンセラーとなっている。また、そうしたメガヒットを連続したことで、事務所のしがらみなく、純粋な音楽セールスから決定される日本ゴールドディスク大賞では1991年から2014年にかけて大半の年で、ヒット作品またはヒット・アーティストとに選ばれている。

49作目のシングル1位となったB’z / 声明

■10周年、20周年、25周年に ベストを発売、 30周年は多面的にイベントを展開

特に、10周年となる1998年夏に発売した初の公式ベストアルバム『B’z The Best “Pleasure”』(通称“金盤”)は当時最多となる累計500万枚を突破し、彼らのアーティスト・パワーを知らしめることとなった。金色のゴージャスなパッケージや、本格的なジグソーパズルやトレーディングカード(うち100枚に本人たちがサインしランダムに出荷)といった購入特典も大いに店頭を盛り上げた。

続いて、本作収録曲以外からのファン投票で選曲が決定した『B’z The Best “Treasure”』(通称“銀盤”)も同年秋に発売し、累計400万枚を突破し、結果として年間1位、2位をB’zが独占した。こちらも100P以上のブックレットや海外製のトランプが付くなど、やるとなったら徹底的にファンサービスを惜しまず、カッコいいものにこだわる点も実にB’zらしい。

20周年の2008年や25周年の2013年にもそれぞれベスト盤が発売されたが、30周年となる2018年はCDのリリースがなかった。その分、大型エキシビション『B’z 30th Year Exhibition “SCENES” 1988-2018』の開催、全国のライブハウスで楽曲や映像を流すという月例イベント、そして2度にわたる全国LIVEツアーと様々なイベントが開催され、彼らの偉大なヒストリーがあらためて再認識させられた。

近年はCDリリースの意義が変わってきていることもあり、B’zのCDリリースは少なめとなっているが、その膨大なヒット作品の数は否定のしようがない。しかも、これだけ長年にわたって支持されているのだから、配信やカラオケのヒットも多数あるはずだ。以降、CD、配信、カラオケの総合ヒットを見ていこう。

B’z / 30th Year Teaser

まず注意してほしいのは、B’zの場合、2018年11月現在、レコチョクでの配信楽曲がごく一部に限られているのに対し、iTunesでは2005年にそれまでの全楽曲が配信された以降も継続されていることから、ここでの配信部門は特別なルールで順位を決めてみた。具体的には日本レコード協会のヒット認定の数字を基準としつつ、2作以上が同点の場合は2018年11月時点でのiTunesでの人気曲をより上位に並べている。この決め方自体は、他のアーティストとやや異なるのでご了承願いたい。

■総合1位はバランスよく支持された 95年の「LOVE PHANTOM」

この決め方で総合1位になったのは、95年のシングル18作目「LOVE PHANTOM」。CDは2位、配信も2位、カラオケは4位と、どれも突出することなくバランスよく人気のものが総合1位というのは、なんだかB’zらしくもある。本作はテレビ朝日ドラマ『Xファイル』の主題歌であり、通常のドラマ主題歌は放送が1カ月ほど進んでから満を持して発売され、その溜まり溜まったマグマによってメガヒットするというのが90年代の王道パターンだったが、ドラマが始まる1カ月以上前に発売されている。つまり、発売時点ではノンタイアップだったにもかかわらず、初動でCDがミリオン近い約95万枚を売り上げ、累計でも186万枚以上となったのだ。

それでいて、1分以上に及ぶミステリアスかつドラマティックなイントロの末、強烈なサビ部分から始まるというギャップが大きかったり、1番の後にラップ部分があったりと、実験的要素がとても強い。しかも、その翌月には収録アルバム『LOOSE』も発売され、シングルの買い控えもあろう状況だった。にもかかわらず本作が大ヒットしており、いかにB’zが勢いに乗りまくっていたかが分かる。

また、「LOVE PHANTOM」の配信開始はCD発売から10年後だったが、旧作としてじわじわと売れ続けてダウンロードが25万件を突破しているのも見事。LIVEの定番曲になっているのも、ロングヒットの要因だろう。

B’z / LOVE PHANTOM

■総合2位はタイアップドラマが 1日きりの「愛のままにわがままに~」

総合2位は、93年のシングル12作目「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」。同年に約193万枚を売り上げ、年間チャート2位となった後に、03年の12㎝シングル発売でさらに売り伸ばし、B’zのシングルで初めてWミリオンとなっている(ちなみに、この12㎝シングルは90年の「BE THERE」から93年の「裸足の女神」まで、TOP10ヒットとなった8cmCD全10作が同時に復刻され、再発売ながら3位~12位を占める快挙となった)。

本作は主題歌となった日本テレビ系ドラマ『西遊記』に合わせ、幻想的かつオリエンタルなイントロから始まり、いつものノリよいギターサウンドに一変するアッパーチューン。ドラマ自体はたった1日の放送ながら、憶えやすいメロディー、さらに困難に立ち向かうべく強い愛が歌われた歌詞、トドメに卓越したボーカルに殺しのギターフレーズと、B’zの旨味成分が余すことなく凝縮されている。それゆえ、放送終了後もロングヒットにより彼らのNo.1セールスとなったのだろう。

B’z / 愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない

■世界水泳大会のテーマソング 「ultra soul」が総合3位に

そして、総合3位には01年の31作目シングル「ultra soul」がランクイン。B’zには15作ものCDミリオン・ヒットがあるため約88万枚も売れた本作ですらCDは17位となってしまっているが、配信4位、カラオケ1位で堂々の総合3位となった。

本作は発売された01年のほか、11年、13年と何度も世界水泳大会のテーマソングとして、テレビ朝日の放送内いたる所で使われた。さらに、サビの《ウルトラソウル(ハイ!)》の部分は、お笑い芸人のとにかく明るい安村が決めポーズのBGMだったり、楽曲の一部が野球選手の登場曲やスポーツ系の再現ドラマに使われたり、とにかくテレビ視聴者における浸透度はB’zの中でダントツではないだろうか。しかも、音楽番組『ミュージックステーション』では、その《ウルトラソウル(ハイ!)》に合わせて、大量の火花が打ちあがるという演出が恒例となっているし、LIVEでは凄まじいことになっているとファンの間でも評判だ。つまり、多面的に起用されることで、カラオケで長年1位になっていると考えられる。

ここまで上位3作はいずれもアゲアゲのナンバーが揃った。この辺りがB’zのパブリック・イメージなのだろうか。多くのアーティストの総合TOP3には、必ずバラードが1曲は入るのだが、対するB’zは後述の5位「ALONE」が最高位となっている。アッパーチューンが強いからこそ、いつまでもエネルギッシュなイメージがあるのだろう。

B’z / ultra soul

■総合4位はダントツの配信ヒットで 「イチブトゼンブ」

総合4位は09年の46作目シングル「イチブトゼンブ」。シングル・ダウンロードのミリオン突破に加え、着うたもミリオンを突破しており、ダントツの配信ヒットとなっている。ちなみに、CDは累計38万枚で彼らにとっては31位(2018年末現在)で目立たないが、その年の年間ランキングも6位であり、実はCDも09年としては大ヒットしているのだ。また、カラオケも2位と大健闘している。

本作はフジテレビ系“月9”ドラマ枠の『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』主題歌。山下智久が主演、北川景子がヒロインで、プロバスケットボールを題材とし、相武紗季の恋敵役の悪女ぶりも大きな話題となった。そして、人を知ることや愛することは、常に“イチブ”と“ゼンブ”の狭間にあるという、シンプルにまとめつつもドラマを超えた真理を突いた歌詞で共感を得たのではないだろうか。CD+ダウンロードとしては、01年の「ultra soul」以来8年ぶりのミリオン・ヒットとなり、本作により若いファンも大幅に増えたようだ。

B’z / イチブトゼンブ

■まだまだ出てくるヒット曲の数々、 ドラマ主題歌が優勢

B’zは強力作だらけで語りつくせぬほどだが、シングル曲以外にも触れたいので、5位から7位はサラリと触れていくことをご了承願いたい。

まず総合5位は91年のロッカバラード「ALONE」がランクイン。本作はシングル9作目であり、関西テレビ・フジテレビ系ドラマ『ホテルウーマン』の主題歌となったが、かつての夢を語った大切な人を想い出すという内容はドラマを観ていなくても大いに共感できる。ちなみに、本作を中森明菜がカバーしているのも興味深い。中森は稲葉よりも低いキーでしっとりと歌っていて、このバージョンでは独りでいる寂しさがひしひしと伝わってくる。

B’z / ALONE

総合6位は00年のシングル27作目「今夜月の見える丘に」がランクイン。こちらもTBS系日曜劇場『Beautiful Life~ふたりでいた日々~』の主題歌であり、ドラマは木村拓哉と常盤貴子の主演、北川悦吏子の脚本で、最終回は41.3%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)という驚異的な数字となるほどの歴史的ヒットとなった。ちなみに、《愛すれば 愛するほど》を《ライすれば~ライするほど》と歌って女性陣に許されるのは稲葉浩志だけだろう(微笑)。

B’z / 今夜月の見える丘に

そして、総合7位は05年のシングル39作目「OCEAN」がランクイン。フジテレビ系ドラマ『海猿 -UMIZARU EVOLUTION-』の主題歌で、大海原の中で愛を誓うという内容や、ひたむきな愛情を感じさせるラブ・バラードはドラマの内容にピッタリだ。ちなみに、CDセールスは約51万枚でB’zの中では26位だが、05年の年間シングルランキングでは7位と非常に高く、またダウンロード・シングルは25万件、着うたは50万件と実は3部門ともヒットしている。

B’z / OCEAN

■メガヒットナンバーが目白押しの中、 アルバム収録曲もTOP10前後に!

そして、メガヒット目白押しの中に、アルバム曲が総合8位、11位、12位に食い込んでいるのが興味深い。これらはCDシングルランキングでは見えないヒットなので、以下、順を追って見ていきたい。

まず総合8位には92年のアルバム『FRIENDS』収録の「いつかのメリークリスマス」がランクイン。特に、クリスマスの定番曲として年末になる度に人気の再浮上を繰り返し、ダウンロードは25万件を突破、カラオケも7位と大健闘だ。切ないメロディーと寂しげなボーカル、そして過去の淡い日々を回想するという内容で、彼らの楽曲の中でも人気が高い。

総合11位は91年のアルバム『IN THE LIFE』収録の「もう一度キスしたかった」。こちらもラブ・バラードだが、アルバム曲にもかかわらず大ヒットしたドラマ主題歌と並んでカラオケが9位というのは、難易度の高い楽曲が多いB’zでは珍しく、声を張り上げることなく切々と歌えるからかもしれない。

そして、総合12位には89年の同名タイトルのミニアルバムのリード曲「BAD COMMUNICATION」がランクイン。同アルバムはオリコン最高12位ながら3年以上にわたってTOP100内にチャートインした結果、CDは累計118万枚以上という驚異的なセールスに。また、05年以降、配信された「BAD COMMUNICATION」も10万件を突破している。

約7分半にわたってデジタルサウンドに乗せてノリ良く歌い進めていくというスタイルの楽曲で、当時ロングヒットしたのは、翌年以降のブレイクをキッカケに後追いで購入したファンに加え、ユーロビート全盛の中で、ダンスミュージックとしての需要も取り込んだのではないだろうか。

■ノンタイアップ・シングル「ZERO」は ターニング・ポイントだったのでは?

最後に総合では15位だが92年の11作目となるシングル「ZERO」にも触れておきたい。本作は彼らが大ブレイクを果たしてから、初のノンタイアップ・シングルとなった。ビーイング系と言えば、ドラマやアニメ、CMなどのレギュラー的なタイアップを獲得することで、より確度の高いヒットを飛ばすことで有名だが(例えば、TV版『名探偵コナン』のテーマ曲は長らく、ビーイングのアーティストが担当している)、そういった制約から解き放たれた作品にもかかわらず、100万枚を大きく超えているのだ。

しかも、かなりハードなボーカルやサウンド、歌詞も《このまま車ごと君の家につっこもうか》なんて、ワイルドでどこか狂気を帯びているような冒険的。だからこそ、本作の(タイアップではなく楽曲が主体となった)ヒットが翌年以降のより妥協を許さぬ激しいLIVEパフォーマンスを意識した楽曲制作につながっていったのではないだろうか。そう考えると、いっそう大きな意味のある作品にも思える。

B’z / ZERO

ちなみに総合20位にはシングル「ZERO」の2nd Beat(彼らのシングル収録2曲目の呼称)、「恋心」がランクイン。「ZERO」とは対照的にポップなナンバーで、98年と08年のベスト盤発売にあたって収録曲を決めるファン投票では常に上位となるほどで、それゆえ、配信やカラオケ、有線リクエストでも彼らの2nd Beatの中で最高レベルというのも肯ける(Wikipediaでは「ZERO」より有線で人気と書かれているが、92年度、93年度ともに「ZERO」のほうが上位だったことを申し添えておく)

■ボーカルの高音域化と サウンドの高音圧化の先駆者

日本のポップスにおいて80年代までと90年代以降の楽曲を比べると、ボーカルの高音域化とサウンドの高音圧化が決定的に異なるように感じる。それらを最初に大きく変えたのは、B’zだったのではないだろうか。また、ロック系のボーカリストとギタリストでありながら、ポップスのファンをも魅了する歌声や演奏もメガヒットの要因だろう。逆に言えば、近年はジャンルを細分化しすぎた結果、それぞれのパイがスケールダウンしているようにも感じられる。

だからこそ、B’zには今後も幅広いジャンルや幅広い年代の音楽ファンに向けて活動してもらいたい。そして、後続のアーティストにも多くのリスナーを惹きつける凄さを追いかけて欲しいと心から願っている。

プロフィール

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析や配信サイトでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。Twitterは @t2umusic、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ、ビルボード、各番組で紹介された独自ランキングなどなど、様々なヒット情報を分析してお伝えしています。気軽にフォローしてください♪

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