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人気、実力ともに絶頂期のクイーンがリリースしたライヴ盤『ライヴ・キラーズ』

11月9日に公開されたばかりの映画『ボヘミアン・ラプソディ』が今、大きな評判になっている。もともと日本でのクイーン人気は絶大なものであったのは確かだが、未だにこれほどの集客力があったのかと驚いた。フレディ・マーキュリーが亡くなって30年弱、彼のカリスマ性は衰えを知らないようだ。そこで今回は、クイーンが絶頂期の79年にリリースされた初のライヴアルバム『ライヴ・キラーズ』を取り上げる。70年代中期に巻き起こったロック界の革命ともいえるパンクムーブメントでさえ、クイーンの存在を脅かすことはできず、彼らの影響力はアメーバのように全世界に浸透していった。本作はそんな彼らの圧倒的なステージの模様を収録しており、ファンでなくても大いに楽しめる格別のエンターテインメント作品となっている。

■伝記映画の魅力

『ボヘミアン・ラプソディ』が公開されて思い出したことがある。僕が子供の頃(1960年代)、まだ日本のテレビ界は独自のコンテンツが確立していたとは言えず、海外(特にアメリカ)のドラマや映画がしょっちゅう放映されていた。当時はインターネットやスマホのない時代なので、小学校時代は外で遊んで帰ってくるとテレビかラジオを視聴することになる。その頃、欠かさず観ていたのがNHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』、奇妙な味の『ヒッチコックのサスペンス劇場』、探偵ものの『ハワイアン・アイ』や『サンセット77』、医療ものの『ベン・ケーシー』、サスペンスの『逃亡者』あたり。

それらテレビドラマと並んで大好きだったのは、ミュージシャンの伝記映画である。『グレン・ミラー物語』(‘54)、『ベニー・グッドマン物語』(’56)、『5つの銅貨』(‘59)の3本はよくテレビで放映されていて、放送するたびに観ていた。トータルで何度観たかは覚えていないが、どれも内容や登場人物の名前を覚えるほどであった。3本ともジャズ関連の伝記映画であるが、僕が音楽を好きになったのはこれらの映画の影響が少なからずある。

■伝記映画からライヴ映像へ

60年代中期以降になると、カメラの小型化や低重量化に伴って、アーティストのライヴ映像やインタビューなどが増え、お金のかかるミュージシャンの伝記映画はすっかり廃れてしまった。変わって登場してきたのが実際のコンサートやフェスを収録した映像で、『モンタレーポップフェス』を収録した『Monterey Pop』(‘68)、『ウッドストックフェス』の模様を収録した『ウッドストック/愛と平和と音楽の3日間』(’70)、世界初のチャリティーライヴ『バングラデシュ・コンサート』(’71)、フィルモア閉鎖前3日間を収録した『フィルモア最後の日』(‘72)、黒人ソウルアーティストたちによる『ワッツタックス』(’72)など、ロックコンサートの映像黎明期には力作が多かった。かつてNHKで土曜日に放映されていた『ヤング・ミュージック・ショー』では、『CCR』『クリーム』といったライヴ映像や、エリック・クラプトンやレッド・ツェッペリン、バディ・ガイらが出演した『スーパーショウ』(アメリカでの制作は69年、 NHKでの放映は72年)なども印象深い内容であった。

■クイーンの日本独自ライヴ映像

1985年6月1日の『ヤング・ミュージック・ショー』では、 NHKが撮影したクイーンの来日公演(85年5月11日、代々木競技場)が放映された。このコンサートの6年後にフレディは亡くなるので、生前最後の来日公演が日本制作でフィルムに収められたのだから、ファンにとっては感慨深い出来事である。このフィルム、今放映すれば多くの人が観るはずなので、NHKさん、再放送をよろしくお願いします。

■本作『ライヴ・キラーズ』について

さて、ようやく本題だ。1979年のヨーロッパツアーの音源を収録した本作『ライヴ・キラーズ』は2枚組でリリースされた。ライヴは誰もがよく知る「ウィ・ウィル・ロック・ユー」から始まるのだが、これは“Fast Version”と呼ばれるバージョンで、ハードロック風のアレンジになっているために、サビの部分まで何の曲か分からない仕掛けになっていた。

収録曲は全部で22曲、7枚のアルバムからファンの好きなものを違和感なく並べてあり、ハードロックバンドからクイーンというジャンルへと変遷を遂げた彼らの特徴がよく分かる選曲だと言える。「キラー・クイーン」「バイシクル・レース」「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」の3曲はコンパクトにハイライト部分だけをコラージュし、ハイレベルのテクニックでさっぱりと聴かせる。また、「ナウ・アイム・ヒア」や「ブライトン・ロック」のようなハードロック時代の長尺曲もメリハリのあるアレンジと、ブライアン・メイをはじめとする鉄壁のテクニックで最後まで飽きさせない。

フレディのエンターテイナーぶりが光る「ドリーマーズ・ボール」や「ラブ・オブ・マイ・ライフ」「‘39」といったポップス志向の名曲ではコール&レスポンスで観客も大いに盛り上がり、早くも熱狂のピークを迎えている。以降はクイーンの代表曲とも言える名曲群が続き、リスナーはカオスの坩堝に放り込まれることになる。そして、アルバムの締めは、やはり「ウィ・ウィル・ロック・ユー」と「伝説のチャンピオン」であり、エピローグとして演奏のみの「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」で熱狂のままコンサートの幕は降りる。

本作は彼らにとって初のライヴ盤なので、多くのリスナーが難曲「ボヘミアン・ラプソディ」は演奏できるのかと疑問に思ったはずである。もちろん僕も、そう思ったのだが、さすがはクイーンだ、ちゃんと乗り切っている。スタジオテイクは何十回にもおよぶヴォーカル部分のオーバーダビングを繰り返しているだけに完璧な出来であり、それと同じにはいかないが、ライヴであるにもかかわらず誰もが文句を言えないぐらいの高水準に仕上げている。彼らの演奏力は数多いるブリティッシュロッカーたちの中でも抜きん出ており、この技術力が観客を陶酔させる秘密のひとつでもあった。

■フレディ・マーキュリーの資質とは

フレディのカリスマ性は、ミュージカルスター、オペラスター、ボードヴィルスターなど、古くからショービジネス界に存在するエンターテイナーのそれと類似していると僕は思うのだが、それらとは真逆に近いロックスターとしての特徴も持っているのがフレディ・マーキュリーというアーティスト。彼の独特の資質はクイーンというグループだからこそ生かされたのだと思う。そのフレディに焦点を当てた映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観れば、彼のことがもっと理解できるかもしれないので、未見の人はぜひ劇場に足を運んでもらいたい。

TEXT:河崎直人

アルバム『Live Killers』

1979年発表作品

<収録曲>

1. ウィ・ウィル・ロック・ユー/We Will Rock You

2. レット・ミー・エンターテイン・ユー/Let Me Entertain You

3. デス・オン・トゥ・レッグス / Death on Two Legs

4. キラー・クイーン/ Killer Queen

5. バイシクル・レース/Bicycle Race

6. アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー/I’m in Love With My Car

7. ゲット・ダウン・メイク・ラヴ/Get Down, Make Love

8. マイ・ベスト・フレンド/You’re My Best Friend

9. ナウ・アイム・ヒア/ Now I’m Here

10. ドリーマーズ・ボール/Dreamer’s Ball

11. ラヴ・オブ・マイ・ライフ/Love of My Life

12. ’39 /’39

13. 炎のロックンロール/Keep Yourself Alive

14. ドント・ストップ・ミー・ナウ/Don’t Stop Me Now

15. 永遠の翼/Spread Your Wings

16. ブライトン・ロック/Brighton Rock

17. ボヘミアン・ラプソディ/Bohemian Rhapsody

18. タイ・ユア・マザー・ダウン/Tie Your Mother Down

19. シアー・ハート・アタック/Sheer Heart Attack

20. ウィ・ウィル・ロック・ユー/We Will Rock You

21. 伝説のチャンピオン/We are the Champions

22. ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン/God Save the Queen

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